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読書の記録です。

「首無の如き祟るもの」

三津田信三/原書房

奥多摩に代々続く秘守家の儀式の最中、候補のひとりが首無し死体で発見された。犯人は現場から消えた長寿郎なのか?一族の跡目争いもからんで混乱が続くなか第二、第三の犠牲者が、いずれも首無し死体で見つかる。古く伝わる淡首様の祟りなのか、それとも十年前に井戸に打ち棄てられて死んでいた長寿郎の双子の妹の怨念なのか。

このミスにランクインした作品は、なるべく読んでいこうかな、と思う2008年なのですが、どこまでアテになるのか自分でもわかりません。毎年、このミスに載ってる本をそんなに読んでるわけじゃないんですけど、今年は特に読んだことのある本を見かけなかったので、少なからず衝撃を受けてしまったようです。なんか、ショック・・・。
そんな動機で手に取ったこの本。このミスでは第5位にランクイン。
舞台は奥多摩媛首村。そこに勤めていた警官の妻である作家、媛之森妙元が、事件を2人(夫と一守家の使用人、斧高)の視点から描くという設定から始まります。小説の書き出しで、くどくど設定を述べられるといやーな予感がします。だって、こんだけ予防線張ってるってことは、絶対なんかあるんだから。しかも想像も及ばないようなどんでん返しがさ・・・。
そしたら、予想通りなんだわさ!もう、最後の方は流されるがままでした。謎が解かれる勢いもありますけど、一度立ち止まる必要がないくらい、ロジックがきれいでした。私の苦手な〇〇ネタも、フェアな条件で提示されていたので抵抗は感じませんでした。混乱したけど・・・。結果的に騙してくれてありがとう、という気持ちで本を読み終えられて良かったです。
旧家のしきたりは、いつの時代もあほらしいものです。それを本気で信じている様は、まさに狂っていると言っていいのでは。言い伝えや祟りがあるからこそ品格が保たれてるって不健康な感じがします。村の不健康感たっぷりの作品。シリーズの他の作品も読みたいなー。
オススメです。


「この扉を隔てた向かう側で私を待っているのは、一体何なのだ・・・・・・?」


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「シャドウ」

道尾秀介/東京創元社

小学5年生の凰介は母を亡くし、父・洋一郎との二人だけの暮らしが始まった。だが数日後、幼馴染みの亜紀の母親が医科大学の研究棟で自殺を遂げる。そして亜紀が事故に遭い、洋一郎までもが…。少年が苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?

またしても鮮やかに騙されてしまった。
「こういう道筋を辿ってきたならば、こうあるべきだろう」という思い込みを上手く利用されました・・・。
本当に、洋一郎のどんでん返しにはびっくりしましたよー。最悪な印象だったのが、すごくいい印象に180度変わりました。
それにしても、「向日葵の~」に続いて、大人顔負けの子供たちです。ただ、今回は、そんな子供より大人な洋一郎が居たので、なんだか救われた気分になりました。やっぱり子供は子供だよな、っていう部分がないと、すごく不安になります。だって、この子たち頭良いんだもん!私が小5の時は、ドッヂボールとか交換日記してたりとか?今の小学生は、もっと悩み多き年頃なのでしょうか・・・。時代は変わった・・・。
表紙がですね、あの白いもやっとしたものはなんだろうと、お好み焼きを食べながらしばらく考えていたのを、すごく覚えています。あんまり表紙でここまで考えることってないので・・・。ゴミ袋が発光してるのかと思った・・・。えー、正解は本文を読めばすぐわかっちゃうようなもんだったんですけどね。


「自分はいつまでも「守るべき存在」ではいられない。
 意志を持って行動しなければならない。」


「首挽村の殺人」

大村友貴美/角川書店

岩手県の雪深い村・鷲尻村の診療所に、東京から医師・滝本がやってきた。滝本が村に赴任してから、村では謎の連続猟奇殺人事件が起こる。村の昔語りに秘められた陰惨な過去が、事件解決の鍵を握る!

第27回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
もう1冊の受賞作も読みたいのですが、より横溝っぽいこちらを優先しました。「ロストチャイルド」は、またの機会に・・・。
さてさて、物語は、凄惨な死体、そして村に到るまでの雪道を、車で走るシーンから始まります。もう、ここで私のハートは鷲掴みにされたのです。
さらなる胸キュンポイントが、滝本に仄かな思いを寄せる彩さん。女っ気が無くて、友人の佐枝が滝本と親しくしているのを見ては歯がゆい思いをする。ちょっとした期待をしては、がっかりする・・・。いやー、私、こういうの大好きやわー。少女コミック好きにはたまらんシチュエーションだわ。しかも、滝本が、ちょっとクールでいい感じなのです。突き放し方がひどい。笑。おっと、ラブコメ路線に走りすぎたな・・・。
本筋の殺人事件なのですが、たくさんの死人がでます。これは予想以上。
本物の熊が登場したことで、私の推理も右往左往。「犯人は、熊の着ぐるみを着ていたとしか思えない・・・!」という結論に行き着く始末。昔話になぞらえた殺人現場は、まさに横溝正史の世界。ただ、冒頭のシーンが赤熊の仕業だったという点が残念でした。この赤熊さん、犯人と同じくらい人を殺してます。なかなかの活躍です。
振り返ってみれば、最初の殺人以降はすべて口封じの為だったということですよね。なんだかなあ、と肩透かしをくらった気分でした。あとは、後半滝本兄妹の心理に深入りしすぎたかな、と。
とはいえ、2転3転と畳み掛ける展開は良かったし、何より雪で閉ざされた村の陰鬱な空気がとても好きでした。期待が大きすぎて、読み終わった直後は「なんか思ってたのと違うわ・・・。」と首をひねったものですが、読者の欲求すべてを満たす作品など、ベテランでもそうそう書けるものではない。これだけにとどまらず、いいところをどんどん伸ばして、色んな作品を発表していって頂きたいです。


「カナスピカ」

秋田禎信/講談社

ある日突然、加奈の目の前にひとりの少年が現れる。彼の名は「カナスピカ」。高度2万6499キロから不測の事態で地上に落ちてきた人工衛星だった。カナスピカを宇宙へ還すため、加奈の奮闘が始まるのだが・・・。

人工衛星ミーツガール。
カナスピカの変形後の形態が、少年じゃなかったらどんな物語になっていたのだろう、と想像するのが楽しかった。無理だなんて思わなくて、きっと、少年以外だっておもしろいものが書けるだろうっていう期待が持てる。私の秋田作品に対する信頼は篤いぜ。
とはいえ、いきなりのハードカバーに、爽やか青春路線ときたので、さすがに多少不安を感じました。さわやか・・・。さわやか・・・?さわやかな作品なんて今まであったか?いや、無い!(即答)これは新境地だ!中学生の不安定な心。同級生との人間関係。狭い世界。そして、認めたくない恋心。しかも地球外生命体の作った口がライトの人工衛星に。笑。ああ、この辺が秋田さんだなー、という安心感も感じつつ。そして、いつの時代も母は偉大なのです。千里眼!やっぱり場数を踏んだ女は違うぜ。・・・ちょっと語弊があるか。
理屈っぽいところが無く、登場人物たちもいたってソフト(キャラが薄いとも言う)。このアクの無さが物足りなかったけれど、加奈が、カナスピカが好きだって気づくシーンはストレートで良かったし、別れのときは、私も一緒に涙しました。直球勝負の青春小説。万人にオススメできるのではないでしょうか。


「シンデレラ・ティース」

坂木司/光文社

サキは大学二年生。歯医者が大嫌いなのに、なぜかデンタルクリニックで受付アルバイトをすることに。個性豊かなクリニックのスタッフと、訪れる患者さんがそれぞれに抱えている、小さいけれど大切な秘密。都心のオフィス・ビルの一室で、サキの忘れられない夏がはじまる。

私も歯医者、好きじゃないです。口開けっ放しがつらいので・・・。この前、〇年ぶりに歯医者に行った時に「年も年なんだから、検診に来ないと」って何回も言われてムカッときました。そんなに何回も年、年言わんでもええやん。・・・でも、歯槽膿漏になったらイヤだから、検診行きます・・・。(しぶしぶ)
という話はさておき。
「なんとなく」流されてきた女の子が、色々叱られて、友達に助けてもらって、恋も目標もゲットだぜ!っていうお話です。う、うらやましい・・・。私も流され派なので、なんとなく。自分で何かを決断するってことは、責任もあるし、衝突がある可能性もある。つまり、傷つくことがあると思います。できれば争いごとなんて嫌やし、自分だって痛い思いはしたくない。だから、恋愛だって受け身だった。そんなサキさんが、色々な患者さんや、スタッフに影響を受けて、泣かされて、成長していく姿が非常にうまく描かれていたと思います。私、ひきこもり探偵のネガの部分は好きじゃなかったけど、ポジティブなメッセージが込められていて、そこは好きだったんですよ。今回は、ポジの部分が前面に押し出された感じで、非常に私好みですよ。好みと言えば、歯科技工士の彼も好みですよー。うらやましいよう。
前作「切れない糸」では、知られざるクリーニング店の一面を垣間見た思いだったのですが、今回は、歯医者さんの豆知識が盛りだくさんでした。そして、それに絡めた謎も良かった。特に、2人の仲が接近するあの話が。
今作で、一気に坂木さんの作品に対する期待が膨らみました。ハードルがあがったよーい。姉妹作も出てるし、他にも色々出ているし、追いつけないけど、注目していこうと思います。