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読書の記録です。

「絵|小|説」

皆川博子/集英社

6つの詩篇が、絵師の筆を走らせ、異界の幻影が、作家の目を惑わす。この虚構に迷い込むのは、あなた。短編の名手と挿絵の巨匠による、奇跡のコラボレーション。

宇野亞喜良さんの絵が印象的な一冊。宇野さんといえば、新聞の小説で挿絵をお見かけしたような・・・。恥ずかしながら、絵は知っていても、お名前を知りませんでした。今、覚えました。
短編集で、それぞれ詩から宇野さんがイメージ画を描き、それをもとにして皆川さんがストーリーを書くという構図らしいです。印象に残った絵はいろいろあるのですが・・・。シマウマ、オオカミ、泳ぐ絵、ボート、あたりが良かったなー。お話の方は、「あれ」が一番好きでした。どの作品も、子供から見た世界の暗いところの描写が光っていたのですが、この銭湯での一幕が一番雰囲気が出ていました。暗くて、じめっとしてて、大人は得体の知れない生き物のようで。やはり、皆川さんの作品の魅力は、ここにあると思うのですが、どうでしょう?
耐性ができたせいか、物語のおとしどころに前作ほどのショックは受けませんでした。受けませんでしたが、「はて?」と首をひねるところはありました。うーん、私にはまだまだわからない世界ですなー。
それでも、また皆川さん作品を借りる気マンマンなのです。にやり。


「変わるの?」
「そう。森になったり、塔になったり」
「お姉さんは、いろいろなものになったの?」
「そう。<あれ>にも」
「あれ?」
「そう。あれ」


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「まほろ駅前多田便利軒」

三浦しをん/文藝春秋

東京のはずれに位置する‘まほろ市’の駅前にある便利屋「多田便利軒」に舞いこむ依頼はどこかきな臭い。多田と行天コンビの魅力満点の連作集。

第135回直木賞受賞作。
この表紙、なぜかりんごにナイフが刺さっているのだと思っていました。タバコだったんですねー。先入観って恐ろしい。あと、章ごとの扉絵が好みの絵で思わぬ嬉しさ。
便利屋を営む多田のところに転がり込んできた、行天。不思議な魅力を持つ人で、主人公は、彼のことが放っておけない。この行天さんのキャラクターを、どこかで見かけたことがあるような気がするのですが、思いだせない・・・。うーん、ま、いっか。この何だか憎めないという性格が、ずるい!うらやましい!と思います。何も考えてないと思わせて、するどい一言を言ったり。あああ、おいしいとこ取りじゃないですかー!
終盤の話の流れは、いたってオーソドックス。ケンカして、ふらっといなくなって、そしてまた戻ってくるという。チワワの話が好きです。ルルとハイシーがいいなあ。すごく前向きで明るい。
不思議なことに、バツイチのいい年した男どもが、まるで少年のような掛け合いでじゃれていることに、あまり違和感を感じなかったなあ。作者の三浦さんは、BLの嗜好も持っておられるようで、その辺のイメージもあり「なんだかこの空気って・・・」と思う瞬間も結構ありました。次の作品に手を出すのをためらってしまうなあ。どうしようか・・・。
生きていても、やり直せないことはあるかもしれないけれど、私は、まだ生きている限り、やり直せることがあると信じています。そして、幸せは必ず巡ってくると。きっと「幸福は再生する」。


「おまえはあのアニメを、ハッピーエンドだと思うか?」

「思わないよ」
「だって死んじゃうじゃないか」


「失われた町」

三崎亜記/集英社

30年に一度起こる町の「消滅」。大切な誰かを失った者。帰るべき場所を失った者。「消滅」によって人生を狂わされた人々が、運命に導かれるように「失われた町」月ケ瀬に集う。消滅を食い止めることはできるのか?悲しみを乗り越えることはできるのか?

独特の世界観は相変わらず。なじむのに時間がかかるのが難点です。途中、消滅に対抗する音の理論あたりはもうスルーしました。わかんないよー。
色々な登場人物たちが、最後に物語の流れの中で一つにまとまっていく様は、すごくうまい!と思いました。世界観は、正直とっつきにくい(笑)。町に意思があるからなあ。ですが、気になる矛盾点もなく、一貫しているのでだんだんなじんでくる感じがします。読めば読むほど味が出てくる作家さんではあるなあと思います。もう、「となり町戦争」の感想なんか、ボロカスなんですけど、なぜか次の作品が気になってしまうのです。他にも同じような作家さんが何人かいます。これは、作品の嫌いなところも含めて作風が気に入ったということなのか・・・?
桂子さんのエピソードと、のぞみのエピソードが良かったなあ。桂子さんはかっこいい!脇坂さんを追いかけるあたりは、おおげさだなあと思っちゃいましたけど・・・。
何かの終わりは、また別の何かの始まりでもある。そう考えると、終わりは絶望ではなく、希望の色を帯びてくるのです。何事も気の持ちようですかね。そして、どのような世界にあっても、人はやはり世界を敵に回してしまうのだなあ。反乱分子だなーと思いました。


「ナイチンゲールの沈黙」

海堂尊/宝島社

ガンで眼球を摘出する子供たちの運命に心痛めた看護師の小夜は、子供のメンタルサポートを“愚痴外来”田口に依頼する。その渦中、患児の父親が殺された。厚生労働省の変人役人・白鳥も加わり、事件は思わぬ方向へ。

今度は、看護士さんが主役ということで。すごく不満がたまりました。田口さん目線の物語がまた読めると思っていたもので。少ない~。マコリンの出番も少ない~。
気を取り直して。前作では、医療の現場で起きた何かすごく専門的な分野のミステリーという感じでした。我ながら、頭の悪い要約だ・・・。ところが今作では、そういう医療現場の緊迫した雰囲気、というよりは、メンタルな部分に関係する仕事がクローズアップされていたのかな?という印象を受けました。謎解きも、前作は医療分野ならではのロジックがあったりして、そこら辺が一味ちがうなーと感心していたのですが、今回は、それに比べるとロマンチックになったなーと残念でした。もう、色々な人がネット上で書かれている通り、歌がね・・・。歌で、鮮明な映像を映し出すことができるって、相当ムチャな設定ですよね・・・。これが謎解きにまで絡んでくるところがやっかい。
あと、作中に良く出てくるコードネーム?通り名?みたいなものが、カユイ。盛り上がれない。これがラノベなら、ひねった通り名はかっこいいんですけどー。
それにしても、看護士と患者のアレはありなんでしょうか・・・?ドラマやマンガでは医者と患者も良く聞きますけどねー。医療従事者としてそれはどうかと思うなあ。と、ドン引きしてしまいました。
結構批判的になってしまいましたが、全体的に読みやすかったです。桜宮病院サイドの話も読みたいですし。田口センセの出番が多ければ尚良いのになあ。今回に限って言えば、むしろミステリーという枠をとっぱらった作品の方が、もっと登場人物たち(特に小児科病棟の患者たち)の深いところまで描き出せたのかもしれないですね。ミステリー要素も、ドラマ要素も薄かったような気がします。


「断章のグリムⅠ」

甲田学人/メディアワークス

普通であることが信条の白野蒼衣と、過去を引きずりつつ悪夢と戦う時槻雪乃。人間の狂気が生み出した灰かぶりの悪夢の中で出会った二人が辿る物語とは!?

これは、まんまと表紙に騙されました・・・!表紙買いだったのですが、モノクロが全然好みでなかったのです。しばらくほったらかし。(←ひどい)
しかしながら、童話(に限らず、民話とか)モチーフは好きなので、この機会(一人開催した夏のラノベ読もうキャンペーン)にえいやっと読みました。そしたら、これがおもしろかったんです。
世界の怪現象は、<神の悪夢>の欠片である。そして、悪夢の泡が人間の意識に浮かび上がると、現実世界を変質させ、悪夢の物語を作り上げる。という世界観がいい。まあ、悪夢の泡が大きいと、それが童話や昔話のエピソードと似たものになる、というくだりまでいくと、「なんでそうなるの?」と言いたくなってしまうのですが!それを言うと、この小説そのものを否定してしまうことに・・・。この疑問は忘れることにしよう。
登場人物は、まだまだ個性が薄く、印象に残らなかった。かろうじて、颯姫さんの耳から出てくる虫が、すごかったかなと。
それよりも、内気な少女が、優しくしてもらった男の子に淡い思いを抱いて、偶然美少女と一緒にいるところを目撃して落ち込むという、あのパターンが良かった!久しぶりに見た!笑。
童話のモチーフも、「本当は恐ろしいグリム童話」のように、想像以上にグロい展開でした。「本当は恐ろしい~」で、一番インパクトが強かったのが、ロリコンの七人の小人と、生きたまま焼き殺される人魚姫でした。ま、まあ、その領域までは行ってないのですが、スプーンで目玉をえぐっちゃったりはしています・・・。痛いのは苦手・・・ですが、人の心の闇を描く作品は好きなので、続きも読もうかなーと思っています。今のところ、グリム路線が続いているようですね。かちかち山とかやらないかなー。あれもシュールで好きなんです。


「<私の痛みよ、世界を焼け>!!」