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読書の記録です。

「悪人」

吉田修一/朝日新聞出版

保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?そして、悪人とはいったい誰なのか。

ダ・ヴィンチのプラチナ本だったり、本屋大賞4位だったりと高評価だったので、期待大でした。ちなみに、このミスでは17位。話は全然違うのですが、クローズアップ現代で、ランキング依存症について特集されていまして、自分も上位にランクインした作品には興味があるので、身につまされる話題でした。おもしろい本だけを読みたい、ハズレは引きたくないって気持ちわかります。でもさ、全然想像していなかったところでヒットした時の嬉しさは、たまらないぜ!って教えてあげたい。そして忘れてはいけない落とし穴。みんながおもしろいからといって、必ずしもその作品が自分にとっての一番になるとは限らないのだ。
つまり、期待していたほどに、私に訴えかけるものが無かった本だったということです。そもそも、「出会い系サイト」で愛情が芽生えるということ自体が理解できない。実際、結婚される方もいらっしゃるということは承知していますが・・・。そんなわけで、後半の逃避行のくだりは、かなり冷めてました。色々綺麗なことを並べても、結局、出会い系って目的は一つでしょう?2人の絆が深まれば深まるほど、胡散臭さは増してゆく。
悪い人は誰だ!って問いかけている、というあらすじだったのですが、そんな印象も受けなかったなあ。誰かって言われれば、そりゃ殺人犯でしょうけど。色々事情があるし、相手の女性も性質が悪かった、というクッションを置いてますが、結局殺してしまった方の負けではないかな。冷たいけど、そう思う。
登場人物はたくさん出てくるのですが、ここまで感情移入のできない人物ばかりというのも、ある意味すごいな・・・。嫌いな人はたくさんいても、好きな人はいなかった。見栄、孤独、欲求、執着などなど、自分が目をそらしたい黒い部分をえぐり出しているからかもしれない。


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「青年のための読書クラブ」

桜庭一樹/新潮社

東京・山の手の伝統あるお嬢様学校、聖マリアナ学園。校内のアウトローだけが集う「読書クラブ」には、長きにわたって語り継がれる秘密の“クラブ誌”があった。そこには学園史上抹消された数々の珍事件が、名もない女生徒たちによって脈々と記録され続けていた。

「少女には向かない職業」の感想で書いたいまいちだった短編というのが、この中の「烏丸紅子恋愛事件」でした。そういえば。初めて読んだ桜庭作品。翻訳作品に近い言い回しがダメだったんだろうなあ・・・。
ええ、もちろん今となってはとっても楽しめるようになりましてよ!彼女たちのちょっと気取った喋り方も、「おー、ヴィクトリカがいっぱいいるー。」って感じでおもしろかったです。
5編の短編で、聖マリアナ学園の裏事件を100年にわたって追いかけます。ぼろぼろの赤煉瓦ビルの一室で、紅茶をお供に気ままに本を読みふける「読書クラブ」。うわー、いいなあ。理想の生活だなあ・・・。お嬢様学校のアウトローって、かっこいい!どの時代の読書クラブメンバーもおもしろいんだけど、一番好きなのは、「奇妙な旅人」の時雨ときよ子。時雨のお人よし加減や面倒見のいいところに惚れました・・・。そしてきよ子さんの母っぷりもかっこいい。胸が大きいと異端児っていうのも、なんだかな・・・。あと、「一番星」でふらりと帰ってきた十五夜を「うむ・・・」「おぅ・・・」と受け入れる読書クラブもステキです。私、ずっと共学だったんですけど、もし女子高とか行ってたらかっこいい先輩とかいたのかしら。どきどき。女子高の友達からはそんな話聞いたことないけど。笑。
いつまでも浮世離れしていると思われた聖マリアナ学園も、時代の変化とともに生徒ともども変化を免れないものなのですね。とせつなくなってしまいました。読書クラブなくなっちゃうのかな・・・。でも、いつの世にも彼らのような異端児はいて、そして彼らの集う場所は存在し続けることでしょう。
ぜひ手元に置いておきたい一冊。早く文庫落ちしないかなーと待っています。(せこい)


「神など、おらぬ。
 悪魔も、おらぬ。
 諸君、世界は南瓜の如く、空っぽなのである!」


「木洩れ日に泳ぐ魚」

恩田陸/中央公論社

高橋千浩と藤本千明は、数年間一緒に暮らしたアパートで最後の晩を迎えた。二人とも、一年前に旅先で起きた一人の男の死の真相を知りたいと思っていた。ある一晩の、そしてその半生の静かな物語。

ある程度スパンを置いて読んだつもりだったのですが・・・。やはり、短期間に固まっていたせいか、食傷気味に感じてしまいました。しまった・・・!図書館で見つけると、ついつい嬉しくなって借りてしまうのです。
食傷気味に感じるっつーことは、いつもの恩田さん節全開だったということで。男女2人が交互で語る形式で物語は進んでいきます。1つの事柄に対するそれぞれの主観が読めておもしろい。2人の関係については最初はなんだこのわけありカップル、という印象が、まさか・・・、ホントに?、ええー、ああ、そう落ち着くか・・・。みたいな感じに変化します。どんな感じだ。
ある1人の男の死についての謎、は最後に思わぬオチがつきます。これはこれで・・・。という感じなのですが、気になったのは、事故後、警察に名前を聞かれたくらいだったというくだり。身分証明書を提示するようには言われなかったのかなあ、と。そしたら偽名だってばれて、なんで偽名なんか使ったんだ、って話になるよなーと。実際どんなもんかわからないですけど・・・。あと、換気扇のあたりが、ものすごーくご都合主義だ・・・。ありえん・・・。
終盤になって、障害が無くなったと感じた途端に愛情も未練もなくなった千明の気持ちがわかる。笑。女性に多い傾向だと思うんだけど、要するにロマンチストなんだろうなあ、と思います。千浩くんは、もうちょっとしっかりできないのか!決断力が無いのはいかんな!まあ、彼を甘やかしている千明もいかんのかもしれないけど・・・。だからこそ、最後の突き放し方にすっきりしました。本当に、終盤の彼女のあっさりさ加減は、薄情だなあと思いつつ、気持ち良かったりもするのです。


「見えない誰かと」

瀬尾まいこ/祥伝社

「以前の私は人見知りが激しく、他人と打ち解けるのに、とても時間がかかった。社会に出てからも、わざわざ親しくもない人と一緒に何かするくらいなら、一人でいたいというつまらない人間だった。でも、」誰かとつながる。それは幸せなことだ。待望の初エッセイ。

著者の瀬尾さんは、中学校で国語の先生をしておられる兼業作家である。というさわりのプロフィールは知っていたけれど、10年の講師経験の後に採用試験に合格し、教師になられたということで、実は苦労人なんだなあ・・・と思った。しかし、このエッセイを読む限り、葛藤はあっても、愚痴っぽさが感じられない。私の瀬尾さんのイメージが、とても穏やかでマイペースなせいかもしれない。講師といえば、「図書館の神様」の感想で書いた友人は、見事採用試験に受かり、今春から学校で正式な先生として働いています。素直にすごいなあと思う。他にも何人か講師をしながら、先生を目指している知人がいるのだけれど、みんな大変だ大変だと言いながら、生徒との話を本当に楽しそうに話すのだ。私は、10以上年の離れた子達と、一体何を話すんだろう?と、もう彼らがエイリアンのように見えているのだけれど、彼・彼女の話を聞いていると、意外とかわいいところがあったり、ニュースやテレビの特番で騒がれるほど彼らはまだ崩壊していないんじゃないかと思うのです。むしろ、先入観という色眼鏡で見ているのは、私たち大人だなあと。
と、いう感覚に近い読後感。もちろん、学校の中のことだけじゃなくて、楽しい家族やおもしろい友人との体験談なども楽しめた。ミーハーおばあちゃんと、妹さんが好きだなー。これ以外にも、瀬尾さんは雑誌「ダ・ヴィンチ」でエッセイの連載をしておられたと思うのですが、あちらもぜひ読みたい!


「鋼殻のレギオス」

雨木シュウスケ/富士見書房

大地の実りから見捨てられた世界。汚染獣たちが溢れ、人類は自立移動都市の中で暮らしている。その一つ、学園都市ツェルニの新入生レイフォンは、奨学金を得た一般科の生徒。彼は、ある事情から入学早々転科することに。

富士見祭り(?)も、4冊目で終了です。珍しく固めて読んだなあ。
さてさて、何かと話題のこのシリーズ。刊行ペースが恐ろしく速く(ほとんどのラノベに言えることだけれども)、気が向いた時には、もう8巻まで進んでいました・・・。私にとって、よくある状況なのですが・・・。ラノベ以外の本も読みたいしー。そしたら追いつかないしー。エンドレス。
移動する都市、という設定がおもしろかったなー。「ハウルの動く城」を関連して思い浮かべたのですが、あれはあくまで個人の家だから、もっと大きくて複雑な仕組みなのね。かつて栄えていた人類が衰退し、汚染獣たちが勝ち残った、という世界観が気に入りました。レジェンド・オブ・レギオスが詳しそうなので、そっちを先に読みたい誘惑に駆られます。
人間同士のバトル、または汚染獣とのバトルも描かれ、それも本作品のみどころだとは思いますが、私の印象としては、やはりこれは青春学園ファンタジーかな、と。だって友達女の子ばっかだし。笑。
まあ、それだけではなく、物語の中心には、迷って揺れているレイフォンの姿が常にあるからかもしれません。自分の思惑とは違い、逃げてきたはずのグレンダンでの過去に縛られる。本気を出さなかったり、だけど必要に迫られて出してみたり。「戦う」ということに、何か理由を求めているところに、青春モノの青い香りを感じます。一体彼はどこに行き着くのかなあ。レイフォンがうじうじうじうじしてるもんだから、対極にいるニーナが本当に眩しく見えてしまう。彼女のストレートさは、これからも生かされて欲しいところです。フェリは・・・。そうだな、たぶんレイフォンに引っ張られて、これからも戦いで実力を発揮する状況に追い込まれていくことだろうという想像を超える何かが起こればいいなと。
えー、最後に言わせてもらうと。
みんな、こんなニブい男のどこがいいんだっ!?
私は恋愛対象としては、レイフォンはダメだなあ。こんな暖簾に腕押しで、ぬかに釘だったら、失望してあきらめちゃうなー。


「わたしたちの力がなんのためにある?なんのためにこの力はわたしたちに宿ったのだ!?この時のためではないのか?」