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読書の記録です。

「夜の床屋」

沢村浩輔/東京創元社

慣れない山道に迷い、無人駅での一泊を余儀なくされた大学生の佐倉と高瀬。だが深夜、高瀬は駅前の理髪店に明かりがともっていることに気がつく。好奇心に駆られた高瀬が、佐倉の制止も聞かず店の扉を開けると・・・。

何かの本の巻末紹介がおもしろそうだったので・・・。実は内容に関する記憶が虫食い状態です。あちゃー。おかしなところがあるかもですが、ご勘弁を。・・・いつものことかしら?
「夜の床屋」なんかの受賞作。山で迷い、無人駅で一泊することになった主人公たち。深夜、さきほどは暗かった床屋があいていることに気付いた2人。好奇心を抑えきれず、入店してしまう。予約まで少し時間があるので洗髪だけならできる、という店主。洗髪してもらった2人は、翌日下山してから事の真相に気付く。なぜ、床屋は深夜に開店したのか?なぜ、洗髪だけだったのか?そして、微かに香った香水の香り・・・。翌日発覚した誘拐事件に、首をつっこみかけていたというオチでした。華はないけれど、着実に推理を進めていく過程がよかった。
「空飛ぶ絨毯」主人公の地元で過去に起きた不思議な話。消えた絨毯の謎が今明かされる!・・・って、コレ何かのアンソロジーで読んだ記憶があります。そのときも、あまり好感触ではなかったなあ。友達が女の子のために殺人を犯した(と本人は思っているが、相手が生きている可能性もあった)のもなんだかなあっていう流れだし、女の子もそれを気にやんでいて何故か病気で急逝。女の子死なす必要ありましたかね?謎自体はおもしろかったのに、それをとりまくアレコレがなんかモヤモヤしていて、モヤモヤさせる必要があるのかすら不明で、気持ち悪かった。
「ドッペルゲンガーを捜しにいこう」少年と廃工場で鬼ごっこをすることになった主人公。しかし、彼らには他の目的があった。何の根拠もなく、大家のおばあちゃんを疑っていた私。実際は、子供同士が入れ替わって、普段は会えないお父さんに会いにいっていたといういい話でした。ここで心の平穏を取り戻したような気が。笑。
「葡萄荘のミラージュ1」「葡萄荘のミラージュ2」主人公の友達から、別荘に泊まって宝探しをしないかと誘われた主人公たちは、葡萄荘を訪れるが、肝心の友人はどこかへ出かけてしまっていた。独自に謎解きを始める主人公たち。そして現れたお宝とは・・・?幻の香水のレシピまでは良しとしよう!しかし、人魚はなあ・・・。宝探し自体は好きなので、書斎の背表紙を使った暗号や、シャンデリアの位置などは楽しめた。最後に友人が、ブツを売りさばきに行ったかも、と匂わすラストもエゴむき出しで好きです。
「『眠り姫』を売る男」人魚商の話・・・だったか・・・?ファンタジーへと話は流れます。謎解きの部分はおもしろいのに、それに肉付けされるエッセンスがどうにもモヤモヤする。なぜ、それなのか?どうして幻想の方向へ話を持っていってまで、連作短編にする必要があったのか?ひとつひとつは良い切り口なのに、最後に無理に統一性を持たせたおかげで、台無しになっちゃった感じがして残念でした。


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「ブラック・ベルベット」

恩田陸/双葉社

東西文化の交差点・T共和国。この国で見つかった、全身に黒い苔の生えた死体。入国後に消息を絶った、気鋭の女性科学者。ふたつを結びつけるのは、想像の域を遙かに超えたある事実だった。

「MAZE」も「クレオパトラの夢」も読んでいたはず。しかし、ウィルスハンター神原恵弥シリーズという認識がないまま読んでいました。なんとなくオネエ言葉の人また出てきたな・・・くらいに思っていたかもしれません。まさか、この人が主人公だったとは!わかってなくて、すんません。ほんまにすいません。
主人公と認識していなかった神原恵弥は、バイセクシャルの男性。大手製薬会社に勤務。彼は知り合いから女性科学者の捜索を依頼され、同時に画期的な新薬の存在を探るため「アンタレス」と名乗る人物とも接触をはかる算段で、T共和国を訪れる。
イスタンブールは伏せなくていいのか?という疑問を感じましたが、とにかくトルコのイスタンブールが舞台でしょう。後半、アンタレスと接触するため、カムフラージュで観光をするのですが、景色はキレイそうだし、料理はおいしそうだし、元カレとのムードは盛り上がるし(疑惑も盛り上がるけど。笑。)、いいところだねえ・・・と擬似観光モードに入ってました。もちろん、謎の方も魅力的でした。冒頭から刺される女、日本で起こる事故、黒い苔に覆われた死体・・・。どうつながるのか?そして恩田ミステリは投げっぱなしの可能性も高いので、肩透かしのときの心の準備も怠ってはいけません。笑。あとは、橘の秘めた情熱の炎なんかが、いやーんな感じでしたね!(←どんなや)なんとなく、ゲイの恋愛の方が業が深そうですよねえ・・・。
今回は、ちゃんと物語が着地していたので驚いた!しかし、「なーんだ」とは思ってしまいましたが・・・。特に、黒い苔にはそそられてたので残念っす・・・。最後に、風のように通り過ぎた彼女の一言はさわやかで、イスタンブールの美しい色彩とマッチした終わり方で良かったと思います。今、トルコ周辺も不穏で観光にいくのはためらわれますね。いつか、安心して行けるような情勢になると良いのですが・・・。
この本の結末がたとえ投げっぱなしでも、私激怒はしなかっただろうなあと思います。ほかの作家さんが結末投げっぱなしばっかりだったら怒ってるだろうけど、恩田さんの持ち味が疑心暗鬼だと思ってるからかなあ。物語の雰囲気がとても好きなのです。恩田作品を読み返したい病が出てきました。


「あの女」

真梨幸子/幻冬舎

タワーマンションの最上階に暮らす売れっ子作家・珠美は人生の絶頂。一方、売れない作家桜子は安マンションで珠美を妬む日々。あの女さえいなければ・・・。ところが、珠美がマンションから転落。女たちの運命が逆転したが、それは悲劇の始まりに過ぎなかった。次々現れる怪しい女、女、また女。女がいるところに平和なし。

最近はまり気味の真梨さん。文庫の新刊かと思いきや、ハードカバーを文庫化するにあたって改題したものだそうで。文庫化にあたって改題、ときどき見かけますが、ややこしいのでやめて欲しいなあー。新刊と間違えて買っちゃったらどうしてくれる!
さて、今回の主人公は女流作家。女と女の間に見えない火花が散ります!所沢にあるタワーマンションに暮らす売れっ子作家の珠美。元OLのぽっと出の作家の桜子。お互いを意識する2人。しかし、珠美がマンションから転落し植物状態になり、パワーバランスが崩れる。意識不明(脳死?)だと診断されるも、意識がある女の独白。夢と現のはざ間を行ったり来たり。一方、珠美の小説の構想を引き継いだ桜子は、執筆がはかどらない。本当は映画監督志望だった珠美は、趣味で8mフィルムを撮りためていた。彼女が死の直前に撮ったフィルムを探す桜子。完成した小説をセンセーショナルに売り出すために、彼女がとった行動とは・・・。
同時に真梨作品にはまった母親も読んでいたのですが、読み終わったあと「作家って本売るためやったら何でもするん?みんなこんな人なん?」と聞いてきました。あたしゃ作家じゃないからわかんないよ!まあ、いないでしょうけどね!笑。ちょっと極端かなあ。
今回は、叙述トリックが効いていました。
普通に読んでいたら、意識不明なのは当然珠美だと思います。私もずっと珠美だと思っていました。でも、実はこの人が・・・というのが明らかになったあと、ラストは畳み掛けるように意外な犯人が登場します。この犯人が部屋に踏み込んできたときの凄みといったら・・・。編集の西岡も相当むかつく奴・・・というか、この人が元凶なんだから仕方ないかなあ・・・。登場人物は、みんな腹に一物ある人々で、どんな目にあっても特にかわいそうとは思わなかったんだけど、西岡の家族は、西岡のために人生狂ったようなもんなので、それはかわいそうだったな。
後は、珠美と桜子が双方の視点からの相手に対する感情がおもしろかった。見下しながらも羨ましい・・・。嫉妬と認めるのが悔しいからこき下ろしているのか?相思相愛ともとれるような。ややこしいね、女ってやつは・・・。
中盤以降に出てくる、タワーマンションの部屋を購入した漫画家(だったか?)のエピソードはいらなかったような気がします。という点も含め、話の構成が好みじゃなかったです。
最後の驚きが良かっただけに、残念。


「傍聞き」

長岡弘樹/双葉社

巧妙な伏線に緊迫の展開、そして意外な真相。ラストには切なく温かな想いが待ち受ける。珠玉のミステリー短編集。

いい話で優等生的な本、という評判をネットで見かけた本。良くも悪くもわかりやすい話ではありました。
一応ミステリの体裁はとっているのですが、細かいディテールはともかく、大筋のオチが読めてしまいます。私にわかるくらいですので、世間の大半の方は途中の伏線で気付かれるでしょう。それだけ、読者に対して親切な伏線の張り方をしているとも考えられますが、オチも含めミステリ読みには物足りないんじゃないんでしょうか。
「迷い箱」元・受刑者の更正を目的として施設を作った主人公の女性。その施設から、1人の男が会社の寮へ移ることになった。前から自殺の兆候があった彼のことを彼女は心配するが、寮に越してから謎の行動をとることになる。謎っていうか、もうテレビしかありえないでしょ!悶々と悩み続ける所長。この人、本当にバカなんだろうか、と失礼ながら本の中の人を本気で心配した。
「899」消防士の主人公は、お隣のシングルマザーに好意を抱いている。ある日、お隣で火事が発生。現場へ駆けつけるが、自宅にいるはずの乳幼児がいない。その後、主人公が探したはずの部屋で子供がみつかった。あんなに探したのに、なぜ?虐待はいけないことですが、私刑も許されません。ましてや、人命救助を使命とする消防士が自己満足のために火事の現場で、数分とはいえわざと幼児を置き去りにするなど・・・。謎がどうこうより、モラルを疑った。
「傍聞き」主人公は、刑事であった夫を亡くした女性刑事。娘を女手ひとつで育てている。娘はケンカすると喋らなくなりハガキで物申すクセがあった。昔捕まえた犯罪者の報復を恐れる主人公。娘はハガキを送り続ける・・・。それには意味があった・・・のですが、詳しいところがさっぱり思い出せません!なんかの受賞作で高評価の作品ですが、印象に残りませんでした。ハガキ代もったいない・・・と思っただけかも。
「迷走」救急隊に勤める主人公の婚約者は、昔、事故に遭い今は車椅子での生活だ。彼女の父は彼の職場での上司にあたる。ある日、腹部を男に刺された患者から救急要請が入る。彼は、裁判で加害者の罪をもみ消した検察官だった。救急車のサイレンを利用して、居場所を突き止めるんだよねーと思っていたらそのまんまで吹いた。そのまんまやん!
トリックと物語、両方優れているミステリを書くのは本当に大変だと思います。せめて、物語として読ませる話であれば良かったのになあ。テーマに縛られすぎたのかな?好みもあると思いますが、あなたがこれからミステリを読むつもりであれば、オススメはできません。


「奇譚を売る店」

芦辺拓/光文社

また買ってしまったー。店を出たとき、かならずつぶやく独り言。古本屋には、きっとある。まだ見ぬ、自分だけには価値のわかる本が。魅入られたように読みふけり、このくだらない現実に、二度と戻って来たくなくなるような本が。

ミステリー関係の本などで、芦辺さんのお名前は見かけたことはあるものの、なかなか読む機会がありませんでした。図書館にもいろいろあったのですが、あらすじがおもしろそうだったので、この本を選びました。
また買ってしまった、という独白から始まる短編集です。主人公は、古本屋巡りを趣味とする作家。人物造詣が似ているので、同一人物なのかなあと思ったり、不穏な終わり方から違うのかなあと思ったり。ホラーテイストが強いです。
「帝都脳病院入院案内」一冊の古い病院のパンフレット。その病院に惹かれた主人公は病院をミニチュアで再現。ある日、そのミニチュアの中に人影を見かけた主人公は・・・。正直、話のオチは印象に残っておらず、ミニチュアを作るところで、なんで?と思ったほうが良く覚えている。
「這い寄る影」世にもつまらない小説を書く作者を追いかける主人公。最後には自分も三流小説家の呪いにとらわれていましたとさ。ブラックユーモアで、くすりとさせられる。
「青髯城殺人事件 映画化関係綴」映画シナリオ。昔と変わらない姿の女優。この女優が妖怪かと思いきや、実はただの孫娘。本当の妖怪は、すぐそばにいたのだ・・・!これは、一番こわいなあと思った。いや、もう、あの状況で対決なんてできないし、やられるしかないっしょ?
「時の劇場・前後篇」誰かに追われるようにして古本屋に入った主人公。そこで一冊の本を入手する。下巻は追っ手(?)に買われてしまい、上巻のみしか買うことができなかった。読み進めていくと、この本は自分の先祖の話のように思える。肝心の自分の部分は後篇へと続いているようだった。後篇をどうしても読みたい。読みたい・・・!続きを知りたい・・・!本読みのサガですね。
「奇譚を売る店」ある古本屋で手に入れた本。実は、この古本屋の店主が書いたものだった。最近頻発している作家の行方不明事件が、この店でつながる・・・。ありがちなひとひねり、と言えるかもしれません。しかし、怪奇的な雰囲気をまとったこの本をまとめる話としては良かったと思います。そうだよね、やっぱり別人だよねー、とすっきりしました。