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読書の記録です。

「言い寄る」

田辺聖子/講談社

愛してないのに気があう剛。初めての悦楽を教える大人の男、水野。恋、仕事。欲しいものは手にいれた、31歳の乃里子。でも、唯一心から愛した五郎にだけは、どうしても言い寄れない。

3部作の第1作目。
田辺さんは、テレビでちょくちょく見かけていて、いつか本を読もうと思っていた作家さんなのです。カバンとスヌーピーのぬいぐるみに囲まれた姿は、なんともかわいらしい。しかし、なんとも外見のインパクトが強く(すいません)、「ジョゼと虎と魚たち」(映画だけ見た)を書いた人とは到底思えなかったのを覚えている(重ね重ねすいません)。
それは置いておいて。なんてかわいい表紙なのでしょう!と、読むのを決めた本書。前から、独身・結婚・離婚を描いているという話は知っていた。ちょっと昔の用語で言うなら、負け犬の乃里子。同じ境遇とは言えないのだけれど、好きな人には迫れない、という心は良くわかる。というか、そもそも誰にも迫れないんだけれど。笑。あれ、ちょっと違う?まあ、五郎ちゃんの行動に一喜一憂している乃里子は、いじらしく応援してあげたくなってしまう。
その一方で、私自身が浮気できない性格のせいか、乃里子の奔放な男性関係にはびっくりした。「好きな人いるのに!?」みたいな。しかも、それなりに楽しんで、魅力を感じていたりもする。嫉妬もする。恋愛の駆け引きをゲームみたいに楽しんでいるところは、割とうらやましかったり・・・。笑。そんな乃里子も、五郎ちゃんをどうしてもモノにすることができない。なぜか?答えは簡単だった。彼にとって、乃里子は親しい女友達で、それ以上になることなどあり得なかったのです。ここまで、乃里子の五郎に対する執着を読んできただけに、このパンチ力はすごかった!
自分の好きな男が、自分の親友とできてしまう・・・。私、自分がこれをされたら、2人とも切るしかないだろうな、と思いました。だって、もう、美々さん彼女の気持ち知ってたでしょ?って。最初は、あのアホ女め・・・!とか、色々、美々のことを罵っていた私ですが、最後の方には、男女の関係というものは、タイミングが命で、それが合ったか合わなかったかなのだろうな、としんみり思った。
・・・剛と水野に関して、ノータッチだった!どっちも好みじゃないから、ま、いっか(ひどい)。

あまりに衝撃的で、近くにいた母親をつかまえましたよ、ええ。
私「こんな話を読んだんだけど~!」
母「良くある話ね」

ばっさり。


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「乱鴉の島」

有栖川有栖/講談社

臨床犯罪社会学者の火村は、友人の作家・有栖川と休暇に出かける。だが、彼らがたどり着いたのは、目的地とは違う場所だった。そこには、不可解な目的を持った人々が集まっていた。訝る火村たちの前で、殺人事件が発生する。事件の背後に隠された彼らの「秘密」とは何なのか!?

野郎が2人で慰安旅行・・・。
・・・。・・・おっと、腐女子っぽい反応をしてしまった!友達と旅行って、女子も良くするもんね~。フツー、フツー。
最初の設定に足を取られてしまいました・・・。えー、こちらは火村さんシリーズになります。私にとっては、有栖川さんの代表作はこれ、というイメージがあります。
本格ミステリにふさわしく、舞台は絶海の孤島。「鳥島」と「烏島」。勘違いで、目的とは別の島にたどり着いてしまった2人。しかも、迎えの船はしばらく来ない。しばらく宿にやっかいになることに。そこには、著名な作家・海老原瞬、不妊治療の権威・藤井継介、カリスマ経営者・初芝真路などのゲストが集っていた。果たして、彼らの目的とは!?
この目的ってなんなんだー!と気になって、一気読みでした。また、これにかぶせるように起こる殺人事件。有栖川と火村は、招かれざる客人、完全なアウェイです。この困難な状況の中で、どのようにして事件を解決に導くのか?
動機に関しては、わかるような、わからんような・・・。裏テーマとして、クローン技術が出てきています。倫理的な問題により、人間のクローンを作り出すことは禁止されています。しかし、論理的には可能なんだよな・・・。世の中に知られていないだけで、水面下ではもう誰かのクローンが生まれていても不思議ではないよね。自分自身のクローンも、誰かのクローンも欲しいとは思わない。同じ遺伝子を持っていても、私は私しかいないし、同じ時間を共有していないその人を、同じように愛せるとは到底思えないからだ、たぶん。だから、先生も社長さんも、歪んでるなあ~と思いながら読んでました。
謎解きには、目新しいことはなかったんだけど、物語の展開の仕方にひかれました。謎のチラ見せがうまいというか。本格は、やはりオーソドックスでおもしろいなあ。ハズレが少ない。


「私の男」

桜庭一樹/文藝春秋

優雅だが、どこかうらぶれた男、一見、おとなしそうな若い女、アパートの押入れから漂う、罪の異臭。家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に遡る。

・・・びっくり。
この作品で、桜庭さんは直木賞作家になってしまわれたのですか・・・。こ、これは、他人に一番オススメできないではないですかっ!私は、近親相姦がダメなんです~。トリハダが立っちゃうよ~。ブツブツ。
震災で、幼い頃家族と死に別れた花は、親戚の淳悟に育てられる。やがて花は成長し、結婚式の日を迎える。彼女は、この生活から脱け出せる、と思う一方、養父から離れられないであろう自分も自覚する。果たして、この親子の間にある秘密の匂いの正体とは、何なのだろうか・・・。
語り手を代え、時代を遡りながら2人の過去が暴かれていきます。それも少しずつ、というところが上手だなあ、と思います。上手と言えば、この時系列も良かったのでは。淳悟が、花を本当に大事に思って引き取った、という心情を最後に持ってきたことで、いくらか嫌悪感も和らいだかなあ、と。
私は唯一、大塩のおじいちゃんとシンクロできましたよ!笑。「家族って、そういうことをしなくても一緒にいられるものなんだ」的セリフには、うんうん頷くくらいでした。これも、私がごく普通の家庭に生まれ、両親からの愛情を受けて育ったからでしょうか。こうしないと、つながりを実感できないなんて。依存しないと生きていけないなんて。
色々感想を拝読していると、この2人の関係を容認している方が多いことにびっくりしました。いやー、私は心にトリハダが・・・。なんか、実の娘にわいせつなことをして、その画像をネットに流す本当にケダモノのような父親とか、そういうニュースを思いだしてしまった。児童ポルノの問題とか。たとえ、花自身も求めた関係であったとしても、父親は子供にすがって助けを求めるべきではないだろう、と思う。これは精神的にも言えることだと思う。娘にすがって「おかぁさん」は、ちょっと、おかしい、でしょう?アンタ、それを娘に求めるの・・・?
本来のテーマは、もっと違うところにあるのだろう。と想像してみるけれど、こみ上げるのは嫌悪感だけで、わからない。


「クローズド・ノート」

雫井脩介/角川書店

堀井香恵は、文具店でのアルバイトと音楽サークルの活動に勤しむ、ごく普通の大学生だ。彼女は、自室のクローゼットで、前の住人が置き忘れたと思しきノートを見つける。興味本位でそのノートを手にする香恵。閉じられたノートが開かれたとき、彼女の平凡な日常は大きく変わりはじめるのだった。

主人公の香恵は、何かもやもやとしたものを感じながら、日々を過ごしている。友人・葉菜が、アメリカ留学に旅立ち、残された香恵は、寂しさを感じながら、バイトとサークルに通う日々を送る。そんな時、以前、自分のアパートを見上げていた男性と、偶然再会する。また、葉菜の彼氏からアプローチされたり・・・。疲れきった時、アパートの前の住人が忘れていった日記を、香恵は偶然読み始める。前の住人は、伊吹という名前の女性で、小学校の教師。日記に綴られる、子供たちとの日々、伊吹先生の奮闘、そして恋が、香恵をゆっくりと癒して導いていくのだった。
「天然」という言葉は、私とは無縁でして。常識的な言動、反応を返すことが常なので、天然さんのような、狙っていない突飛な反応、ずれた発言は非常にうらやましいのです。(褒め言葉)主人公の香恵さんは、まさに天然のお嬢さんで、かわいい。万年筆に関するうんちくもなかなかのもの。この万年筆のくだりは、著者の雫井さん自身も、お好きなんだろうなあ、と思うくらい愛情が感じられました。この癒し系が、男性にはたまらないんだろう、とやっかみ半分に思うくらい。香恵の周囲に、2人の男性が現れます。どちらもクセモノなわけですが、私はやはり石飛さんの方がいいよねえ・・・と思いながら、読んでました。確信犯的に女性にルーズなのと、無意識に女性が寄ってくるのと・・・。好きになって、しんどいのは石飛さんタイプだろうなとは思うのですが。
鹿島&星美の、香恵の障害は強力でした。私は、女性の嫌がらせの方がこたえます。読んでて気分が悪かった。いくらなんでもやることが、大人気ないでしょう。大人な女性の対応を!余裕を失くすくらい、香恵ちゃんが大きな存在だったかも、という説もありますが。
一応、香恵の恋と伊吹さんの恋がクロスするということで、ラブな話に目がいってしまいがちです。しかし、一度、こういったジャンルの括りを忘れて、1人の女子大生が様々な素敵な出会いを経て、1人の人間として成長していく物語として楽しむこともできると思います。まだまだ香恵の恋は始まったばかり。伊吹先生をお手本に、じっくり焦らず、熟成させていって欲しいな。最後の展開は、多少予測はつきましたが、裏切って欲しかったなあ~。悲しかった。
この本を読むと、マンドリンと万年筆に俄然興味が沸いてきます。笑。ミーハーな私・・・。
「犯人に告ぐ」は、映画がいまいちだった記憶があって、原作までいきつかなかったのですが、今度読んでみようかなあ。映画化で、伊吹先生に竹内結子を持ってきたのはナイスキャスティングだと思う。
オススメです。


「ジーン・ワルツ」

海堂尊/新潮社

東城大学医学部を卒業、帝華大学に入局した美貌の産婦人科医、曾根崎理恵。顕微鏡下人工授精のエキスパートである彼女のもとを、事情を抱えた五人の妊婦がおとずれる。一方、先輩医師の清川は理恵が代理母出産に手を染めたとの噂を聞きつけ、真相を追う。

医療というものは、倫理と常に隣り合わせだなあと思います。臓器移植や尊厳死、そして不妊治療、代理母出産。生と死にもっとも近い場所で、やり取りされる言葉の重さ。
私は幸運にも、今のところ健康で何不自由なく生活しています。そして、時々、心の片隅で少し残酷なことを思うこともあります。今にも無神経なことを言ってしまいそうで怖い。そんなデリケートなものをはらんでいると思います。海堂さんは、現役医師として、フィクションの世界を通して、現実の医療の問題、あるべき姿を提唱されてきました。意外にメディアへの露出が多いなー、とびっくりしました。サービス精神が旺盛なのか、結構出たがりなのか・・・。笑。今回、クローズアップされたのは、産婦人科医療。
と、医療問題については、私が書いてもさっぱりなので省略(笑)。
きれいなお姉さんスキーの私としては、美人女医が主人公っていうのは嬉しかった。ジゴロの清川?そんなやつは知らん!現実の女医さんにも、きれいな人が多くて、「天は二物を与えやがった・・・。」と思うことしばしば。でも、手術のくだりは、誰でもうまくいかないこともあるんだな、ってしんみりとした。子供が産めないということは、私が想像する以上に、女性が感じる最大級のコンプレックスなのだと思う。
最終的に、理恵さんの論理は完璧だったんだろうけど・・・。なんだか、お見事!とは言えない感じ。倫理的にそれ、どうなの?と。たぶん、技術がすごく進んで、ある程度のことが可能になったとしても、越えてはいけない一線があるはず。それを守ることが、人間の分をわきまえるということ。神の領域には、決して立ち入ってはならない。