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読書の記録です。

「儚い羊たちの祝宴」

米澤穂信/新潮社

ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、本書は、「ラスト一行の衝撃」に徹底的にこだわった連作集。古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ。

ブラック米澤さん、光臨!
「バベルの会」という大学の読書サークルが、ちらほらと登場するのですが、あんまり最初と最後の話以外は、なくてもいいような・・・。セレブな家を舞台にした短編集。本の紹介では、ラストのオチをウリにしているような感じですが、ラストが意外だったのは、1つ、2つだったような・・・。
それでは、各話の覚え書きを。
「身内に不幸がありまして」。そ、それだけの理由で・・・。仮病使ったらええやん・・・。この先、このスタンスが続いてゆきます。シュールな作品ですが、まだジャブ。
「北の館の罪人」。丁寧言葉な人に、甘ったれと罵られると、ぞくりとします。私、Mっ気は無いはずなんですが~。妹さんは、全てを察しているということで、よろしいでござんすよね?
「山荘秘聞」。えー、それだけのために・・・。という話。限りなくクサイ終わり方でした。きっと口約束を信じない人だから、口を封じるなら確実な方法をとるよね。いかなるときも、微笑みを絶やさないのが、一流の使用人!
「玉野五十鈴の誉れ」。一番、最後が意外だと思った作品。五十鈴さんは、きっと本当は純香さんのことが好きだったんだよーと思うことにした。赤子をさっくりと殺してしまう、このブラックさが良い・・・。
「儚い羊たちの晩餐」。カニバリズム!レクター博士もびっくりの唇の蒸し物が登場いたしました・・・。ええもん食べ過ぎると、こんなもんまで食べたくなるもんかと思うと、粗食のままでいいや・・・って思うなあ。アミルスタン羊という呼び名は初めて聞きました。「特別料理」(スタンリイ・エリン)という作品に登場するようで、読んでみたいような、読まないほうがいいような。「わたしは、」この後何が起こったんすかー!?と、誰かの肩を揺さぶりたくなること必至。
ブラックジョークな感じで、えぐい描写は一切出てきません。すべては、私たちの想像力にゆだねられているのです。私の現実と夢想を隔てる壁は、もろいのか?頑丈なのか?試されていたのかもしれません。


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「目薬αで殺菌します」

森博嗣/講談社

神戸で劇物の入った目薬が発見された。目薬の名には「α」の文字が。その頃、那古野では加部谷恵美が変死体を発見する。死体が握り締めていたのは、やはり目薬「α」。探偵・赤柳初朗は調査を始めるが、事件の背後には、またも謎の組織の影が…?

萌絵さんと犀川ティーチャーが、け、け、け、けっこん!?
その辺の話を詳しく!目薬なぞ、どうでもいい!笑。
という、私の叫びも空しく、さらっとスルーされてしまいました。ちえっ。結婚してても遠恋でも、あの2人はうまくいってそうですよね~。そんな2人の距離感が理想的です。
探偵・赤柳さんが大活躍でした。事件の全貌に迫るのは、加部谷たちではなく、彼なのでは?という気がしてきました・・・。加部谷、もうそれどころじゃなさそう・・・。野次馬モードではなく、恋する乙女モードにスイッチが切り替わったようです。うん、でも、がんばったよ!相手は、究極の草食系男子だからさ・・・。しかし、ここまで乙女な加部谷を前にして、平静を保つ海月が怖いな・・・。
犀川は、犀川なまんまでしたが、萌絵さんが、ちょいと感じが変わったなあという気がしました。「あきらめろ」なんて言うタイプじゃないのに。本当に悟ったのか、最後の萌絵さんは、真賀田博士がなりきったとか・・・。色々詮索してしまいますが、どれも、当たっていないような気がする。
今回は、少し、真賀田博士の目的みたいなものに触れていて、すっきりしました。まあ、それに何の意味があるのか?という疑問が残りますが。頭いい人の考えることは、やっぱり良く分からないなー。


「小説以外」

恩田陸/新潮社

本好きが嵩じて作家となった著者は、これまでどのような作品を愛読してきたのか?デビューから14年間の全エッセイを収録。本に愛され、本を愛する作家の世界を一望する解体全書。

恩田さんのエッセイを読むのは初めて。
まえがきで書かれているように、読書絡みのエッセイを引き受けられることが多いため、恩田さんの作風のルーツがちょっと垣間見えたような気がしました。
私は、世の読書家のみなさまと比べて、本を読むのが遅いなあと日々感じています。そのくせ、ちょっと違うジャンルに手を出してみたり、あれが読みたい、これが読みたいと欲ばかり膨らんでどうしようもない人です。それが、このエッセイのおかげで、もっと膨らんでしまいました・・・!どうしよう・・・!うれしいんだけど・・・!紹介されている本は、恩田さんの巧みな解説によって、魅力を引き出され、私の想像をかきたてます。特に、海外のSF作品が多い印象を受けました。ああ、「ねじの回転」「ロミオとロミオは永遠に」は、こんなところから影響を受けていたんだー、と感心。気になる本は、ノートにメモメモしておこうと思います。
どこかで、「作家になるには最低でも1000冊は読んでおくべきだ」という話を読んだことがあります。逆に、作家に限らず役者さんやミュージシャンでも「影響を受けるのが嫌だから」という理由で、あまり他者の作品に触れない方もいるそうです。しかし、オリジナリティは、模倣から生まれるものだと思いませんか?それが、すでにあるものなのか、そうでないものなのかを知ることは、とても大切です。また、新しいものだけではなく、使い古された手法も人々に愛されている。・・・脱線?えー、まあ、だから、こんな風にあれに影響を受けた、これが発想のきっかけであるとわかると2倍おいしいのです。そんな意味で、とても楽しい本でした。
製作秘話を読むと、あれやこれや、読み返したくなりますね~。やっぱり文庫を買おうかなあ。


「読書とは、突き詰めていくと、孤独の喜びだと思う。」


「荒野」

桜庭一樹/文藝春秋

恋愛小説家の父をもつ山野内荒野。ようやく恋のしっぽをつかまえた。人がやってきては去っていき、またやってくる鎌倉の家。うつろい行く季節の中で、少女は大人になっていく。

桜庭さんの初期作品はいつか読みたいなあ、と思っていたところでした。こちらは、「荒野の恋」第一部と第二部を加筆修正したものに、書き下ろしとして第三部を加えたもの。残るは、「赤×ピンク」「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」「推定少女」・・・かな。
主人公、山野内荒野は、黒髪のストレートロングに黒縁の眼鏡をかけた地味な女の子。・・・そして、巨乳。普通なら、非モテになりかねない標準装備ですが、彼女も彼女の友人もモテます。・・・納得いかない・・・。まあ、そんな私のひがみは置いておいて。そんな荒野が初恋に落ちる物語。相手は、父親の再婚相手の息子・悠也。同じ屋根の下で破廉恥な・・・!と思いきや(中学生男子と同レベルの思考)、悠也はアメリカに留学し、帰国後東京の高校に。2人は、月に何回かの逢瀬を楽しむのです。このデートの様子が初々しくて、私も鎌倉デートがしたくなりました。ロンリー。1人ものに、こいつはきついぜ。父・正慶さんは、こんな2人の関係に気づいていた様子ですね。さすが恋愛小説家。父の方が鋭い。このお父さんが、私は好きでした。自分の娘のことを「黒猫ちゃん」と呼び、娘からは蜻蛉のようなと評されるつかみどころのないキザなおっさん。母性本能をくすぐるタイプっていうのもありますが、こんなあやうい感じの人に女性は弱いのかも。ハングリー・アートという言葉がありましたが、何か大事なものを犠牲にして、凡人にはできないものを作り上げている人って、やっぱり憧れますからねえ。
恋の甘くてふわふわした側面からではなく、苛立ちや嫉妬心、戸惑いなど負の側面から捉えたところが桜庭さんらしいなあと思いました。恋のしっぽをつかまえた荒野は、最後、安定期に入ったかのように見えますが、ところがどっこいですよ。倦怠期とかあるからね!遠距離は危ないからね!?と嫌味なことを考えてしまった私です。2人は、うまくいきそうですけど。うまくいったらいったで、大変という・・・。
思い返せば、ずっと物語の中の若者に嫉妬していたなあ。まぶしすぎるぜ。ダメ男の正慶さんを取り巻く愛人たちの心情にシンクロできるか、といえば、そうでもないんだけど。笑。
最近、ガールズ・ラブを良く見かけます。ダ・ヴィンチでも特集してたし。GLはストイックな感じがして、少し、憧れもありますが、好きになろうと思って好きになれるもんでもないしなあ。やっぱり、よくわからないです。笑。
そうそう、最後に一つ、名言を紹介しておこう。


「スレンダーは秀才。巨乳は天才。」


「弱法師」

中山可穂/文藝春秋

かなわぬ恋こそ、美しい。能をモチーフに現代の不可能な愛のかたちを描く、著者初の中篇小説集。

「弱法師(よろぼし)」は、能の曲目で盲目の乞食、俊徳丸の物語だそうです。ということは、表紙の能面は、盲目の少年を表したものなのかな?ネットで能面見たら、めっさ怖かった・・・!夢に出てきそう・・・!
では、各話ごとの感想を。
「弱法師」。医師の鷹之は、治療が困難な脳腫瘍の患者・朔也と母の映子に出会う。親子に魅せられた鷹之は、彼らと共に生きることを選ぶが、朔也の病状は悪化してゆく・・・。映子さんの妖艶さよりも、朔也の危うげで儚い脆さのほうが恐ろしかった。無機質なんだけど、粘着質・・・?獲物は、捕らえたら離さない!ゴキブリホイホイのような子だねえ・・・。絶望しているのに美しいのは、海に降る雪のせいだろうか。
「卒塔婆小町」。作家の高丘は、墓地で1人の老婆と出会う。老婆は、業界で伝説と言われた作家、深町遼の担当編集者だった。深町さんのストイックさは、いいなあと。だから、ここまで熱烈に愛される百合子さんが、うらやましい~。女性しか愛せない彼女が、彼にそこまで肩入れしたのは、性別を越えた愛があったんだろうなあ。決してバイセクシュアルに目覚めたわけではないと思いたい!笑。
「浮舟」。父と母、そして叔母。3人の間には、過去に何があったのか。母の死をきっかけに、過去が明らかになる。一番好きな作品。薫子おばさんが男前でねえ。かっこよかった。だから、薫子さんと母が昔恋人同士だったと聞いても、まったく違和感を感じなかった。寝取るのも、どっちも好きっていうのも、心を奪っていくのも、みんなずるい。3人ともずるいことしたんで、おあいこだな、と勝手に決着をつけた。1人の人をずっと好きでいるって、どういう気持ちなのだろうと思うと、甘く苦しい心地がした。碧生もこんな気持ちだったに違いない・・・。
静かで、美しい言葉が散りばめられている物語。しかし、怖いです。輪郭は見えないけれど、そこに潜むなにかが、怖い。


「でも、わたしはいつもあなたのそばにいる。」