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読書の記録です。

「サクリファイス」

近藤史恵/新潮社

勝つことを義務づけられた〈エース〉と、それをサポートする〈アシスト〉が、冷酷に分担された世界、自転車ロードレース。初めて抜擢された海外遠征で、僕は思いも寄らない悲劇に遭遇する。

自転車ロードレースを舞台とした珍しいミステリー。
私は、自転車ロードレースには全く興味が無く、観戦したこともないので、最初は競技自体を飲み込むのが大変だった。・・・やはり、観たことがない競技を理解することは困難だったので、団体で走るマラソンみたいなイメージを持って読んでいました。作中でも触れられているとおり、日本ではまだ注目度の低い競技で、テレビ中継をあまり見かけない。ヨーロッパの方では、認知度も高い国民的スポーツなのですねー。私の愛車は、電動アシスト自転車で、競技用の自転車なんかとてもとても、という感じです。あれで山道を登っている方を見かけると、脱帽ものです。すげえ。
ミステリーというカテゴリーなのですが、枠にとらわれず、競技に携わる人たちのドラマが熱かったと思います。主人公の誓は、達観していて、むしろクールなのですが・・・。私は俗な感情に囚われがちなので、この達観した感じがとても羨ましかったなあ。ロードレースの性格上、アシストという仕事を全うすることが苦ではない、という人がいてもおかしくはないけれど、やはり競技をする上で、いつかは自分も・・・と思わない人がいるだろうか?この無欲さが怖い。
sacrificeとは、犠牲・いけにえの意味。自転車ロードレースでは、エースを勝たせるために、他のメンバーが力を尽くす。石尾の決断には、正直そこまでしなくてもー。と思ってしまいました。みんながひとりのために、という重さを良くわかっている人だったんだなあ。
それにしても、早熟な誓くんのエピソードは果たして必要だったのでしょうか・・・。全体に自転車で風を切るようにさわやかで、一つのテーマに収束しているだけに、妙にそこだけ生々しいのよう・・・。


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「笑酔亭梅寿謎解噺3 ハナシがはずむ!」

田中啓文/集英社

襲名騒動が収まり、やっと一段落した竜二のもとに、今度は師匠・梅寿の危篤の報せが入る。またしても一門を揺さぶる襲名騒動勃発!?

まだまだ続く、落語ミステリー第3段!・・・ミステリーってわけでもないかー。
最近、ポッドキャストで落語を落としてはちまちま聞いています。奥が深いです、落語。気が向くときに、じんわり勉強していきたいなあ。今回は、「動物園」「日和ちがい」「あくびの稽古」「蛸芝居」「浮かれの屑選り」「佐々木裁き」「はてなの茶碗」「くやみ」が題材に使われています。毎度のことながら、落語と竜二の話がうまいことマッチしています。そして、毎度と言えば、梅寿師匠のぶっとび加減もブラボーです!私、何度笑い転げたことか・・・!師匠、サイコー!
「動物園」で、竜二が子供からコケにされるところがおもしろく、「浮かれの屑選り」では、冴えない芸人たちがカッコ良く決めてくれてスカッとした。落語は、「くやみ」を聞いてみたいなあ。当初は、竜二とテルコがいい感じになると思っていたのですが・・・。今はそれどころではないようで・・・。残念。
芸って、努力はもちろんやけど、筋が良い悪いってあるんだなあとしみじみ思った。竜二は自分ではまだ気がついていないけれど、落語家としても俳優としても、荒削りながらもキラリと光るものがある。私は、そんなもん持っていないので、いいなあと思う。嫉妬に近いかもしれない。物語の後半で襲名騒動が起こり、とうとう竜二もビッグ(笑)になっていくのかな・・・。と思ったものです。しかし、最後の落としどころに安心しました。まだまだ、才能はあっても経験が足りてないのだ!良かった。まだ終わりじゃないですよね、このシリーズ。落語なんか知らんし、という方にも読んでいただきたい。オススメです。


「楽園」

宮部みゆき/文藝春秋

「模倣犯」事件から9年が経った。事件のショックから立ち直れずにいるフリーライター・前畑滋子のもとに、荻谷敏子という女性が現れる。12歳で死んだ息子に関する、不思議な依頼だった。

「模倣犯」は未読なのですが、事件そのものがつながっているわけではないので、問題はありませんでした。しかし、滋子の心情を描写する上で、大きく影響している事件であるため、できれば「模倣犯」の方を先に読んでおくべきだったかなーという後悔は少しあります。あのボリュームを前にして、ためらわない人の方が少ないと思う・・・。
荻谷敏子という女性の依頼は、息子・等のある「力」についてのものだった。等は、16年前に殺害された少女のことを、遺体が発見される前に予言していたのではないかと、敏子は語る。そして、それを確かめて欲しいのだと。最初は、刑事事件に関わることを避けていた滋子だが、敏子の想いに打たれ協力する内に、自分も9年前の事件と向き合うようになります。ESPですよ!これが恩田さんなら、最後はぐにゃんぐにゃんに終わってますよ!笑。(褒め言葉です。)
宮部さんは、こつこつタイプの物語を書かれる方だなあと良く感じるのですが、これもまさに宮部節全開でした。敏子の生い立ちから始まり、どのような家庭環境で育ったのか。等の出生にまつわる話と同時に、等が透視したとされる16年前の事件にも、敏子は迫ります。本当に細かい。ここまで必要なのかな?って思うくらい。取材の過程で、敏子は9年前の事件が、未だ終わっていないことを実感します。私は、この敏子という人の知りたい、という欲求、行動力に頭が下がる思いでした。ものを書く人って、ここまで執念深いのか!と。この執念深さがあったからこそ、等の超能力と16年前の事件がつながり、事件の真相を解き明かすことにつながったのだろうな、と思った。最後にすべてがつながった時には、感動した。この感動は、細かく描かれた登場人物一人ひとりの人生を、私が共有できたからこそ、だと思う。
事件の真相は酷で、決して美しいものではなかった。正直、茜の言動には呆れてものが言えなかった。手を汚したご両親の方に、同情したいくらいの気持ちだった。誠子の葛藤の決着もいい兆しは感じられず、土井崎家の未来が心配です。でも、乗り越えて欲しいなあ。敏子さんのエンディングの方は、あったかい気持ちになれて良かった。こんなに良い人なんだもの。人生は最終的に、良いことと悪いことがプラマイゼロになるようにできているそうです。辛い思いをいっぱいした登場人物の皆様に、これから幸せな出来事がたくさん起こりますように!



「終末のフール」

伊坂幸太郎/集英社

2***年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されてから5年が経った。恐怖心が巻き起こす、殺人、放火、強盗…。社会に秩序がなくなり、世界中が大混乱に陥る中での、仙台市北部の団地に住む人々の葛藤を描く。

おおお、やっと読めたよ・・・。文庫落ちより、図書館で見かける方が早かった!なかなか文庫落ちしないものですね~。しみじみ。
隕石の衝突が3年後に迫った地球で、生き残った人々は、その現実をどう受け止めるのか。隕石の衝突が報じられたのは、5年前。物語の中で、5年の間に起こったパニックが語られているのは、妙にリアルだった。私は、日本だけは絶対に平和で暴動なんて起きないだろう、と思いたい部分があって、それが覆されたのがショックだった。物流や治安も、当たり前に行われていたことが、上手く回らなくなるんだー、と。それだけでなく、自ら命を絶った人もいるという。世を儚んで・・・。そういうリアリティのある背景に衝撃を受けた。
本書の登場人物は、別の著書でのリンクは無いそうです。しかし、ヒルズタウンで繰り広げられる物語のため、短編でちらほらいろんな顔を見かけます。あっ、こんなところにこの人が!というのが好きな人にはたまりません。一番好きなのは、最後の「深海のポール」に出てくるおじいちゃん。あと、「冬眠のガール」の彼女も好きだわー。話としては、「終末のフール」「天体のヨール」が良いと思いました。うーん、世界滅亡に相対しても、自分のペースを守り抜いている人がかっこいいのです!
自分なら、最後の時を誰とどこで、どう過ごすのだろうか・・・。と想像してみたけれど、結局いつも通りだろうなあという無難な結論しか出ないや・・・。


「アコギなのかリッパなのか」

畠中恵/実業之日本社

21歳の大学生・佐倉聖は腹違いの弟を養うため、元大物国会議員・大堂剛の事務所に事務員として勤めている。ここに持ち込まれるのは、大堂の弟子にあたる議員からの様々な問題。昔は不良だった事務員が、その裏にある日常の謎を解決する現代ミステリー。

畠中恵さんと言えば、「しゃばけ」とか「うそうそ」などから読むのかな~?と漠然と思っていたのですが、全然見当違いの本をチョイスしてしまいました。たまたま図書館で見かけたもので・・・。
と、いうわけで議員ミステリー。政治云々の話は、謎解きにはからんでこないので、安心したような、残念なような気分です。物語の空気は、坂木さんの小説の空気に似ているなーという感じ。日常の謎に、時々人情モノが絡んでくる構成。「白い背広」なんかが良かったと思います。しかし、他の題材はいまいち・・・。なんというか、元不良のキャラって、小説にすると痛いんですね。話し方とか、もう、あいたたたって感じで。小原さんの当選に、ケーキを用意してあげようっていう心意気はいいな、と思ったけど。
政治家の秘書って大変なんだー、と思ったけれど、議員さんの仕事に興味は特になく。市民の代表のようでいて、市民からは最も遠いような気がする。時代ものの方は、おもしろいのかな~?と思いつつ、しばらく畠中さんの本からは遠ざかりそうです・・・。