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読書の記録です。

「チーム・バチスタの栄光」

海堂尊/宝島社

大学病院で結成された、心臓移植の代替手術である「バチスタ手術」の専門チーム。そこで術中死が続発。内部調査を押し付けられたのは、不定愁訴外来担当の万年講師と厚労省の変人役人だった。

インパクトのある黄色い表紙と、何かと色んなブログで見かけた本。いつも本屋でちらちら横目で眺めている間に、青が出てキラキラが出て、ついに赤い表紙を見かけるようになっていました。出すペースが早いのと、私のアクションが遅いのとの相乗効果ですな・・・。
専門分野を持つミステリーというのは、ともすればウンチク一辺倒になりがちです。ぱっと思いつくのは、京極堂とかQEDとか超常現象モノなんですが。苦笑。結論から言うと、専門用語は飛び交いますが、難しく考えなければ普通に楽しめました。外科手術中の心停止が医療事故かそれとも誰かの故意によるものか、という謎が、手術室という密室の謎も加わり、よりミステリーっぽかったです。トリックと犯人のあたりは、ストレートに攻めてきたなあ、という印象。あっけなかったです。ただ、動機は納得いかず。一番の被害者は患者さんだよなあ。すがる思いで手術を受けているのに、こんな目に合わされたらたまったもんじゃないよ。医者やってすごいハードワークで大変だと思います。ストレスも溜まるだろうし、待遇が悪いところだってあるかもしれない。だけど、それはあなたの問題でしょう?と思いますね。
探偵役は窓際族で欲がまるで無い不定愁訴外来の医師。ときたら、エンターテイメント小説にぴったり。途中から、白鳥という役人も加わるのですが、この人がまた独特です。伊良部に似てないこともないんだけど・・・。私は白鳥が好きになれなかったなあ。あの暴言はちょっと受け付けない・・・。うどんの食べっぷりはブラボー!でした。次作はマコリンの、より一層のご活躍を期待して読みたいと思いまっす!


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「虹色天気雨」

大島真寿美/小学館

ある日突然、幼なじみ奈津の夫・憲吾が姿を消した。市子は、夫捜しに奔走する奈津から一人娘の美月を預かる。女性の影もちらつく憲吾の失踪だったが、事態はやがて、市子の元恋人も登場して意外な展開を迎える。

どんだけ年を取っても、友達と会っている時は心がその時代に戻ってしまうのです。中学・高校・大学・前職場・・・。その人を取り巻く環境が変わっても、その子の印象や本質は変わらないんだよなー、としみじみ感じました。
しかし、私は友達の友達とか、友達の彼氏・旦那さんとか、いわゆる友達ネットワークに乏しい人間なので、この集団には共感できなかった。うーむ。こう、私にとってはやりにくい人間関係のような気がする。
途中まで、憲吾さんは一体どこへいったのか、帰ってくるのか、非常に気になるところでした。奥さんとかわいい娘を置いて、ある日突然失踪。ちらつく女の影!今までの私だったら、「非常識な!許せん!」と思ってます。ところが、私、最近の心情の変化により「どうやって、妻子ある男性の心を掴んだのか」が非常に気になるところでした。えー、道徳的な問題は置いておいて。奥さんだけなら何とかなりそうな気がするのです!笑。だけど、子供って、奥さんより強敵やと思うんです。奥さんはさておき、子供を放り出すような人は嫌やというか。
これ、たぶん物語の本質から、かーなーり、ズレてます。悩める女性の友情を描いた作品です。美月ちゃんもかわいいしな!そして、意外というより、あっさり無難な着地点におさまったのが少し不満。


「大切な人を失って泣くことも、好きだった人とうまくいかなくなることも、その瞬間の痛みも、残念ながらお互い嫌になるくらい経験し、それがどういうことなのか、我が事のように理解できるようになってしまった。こちらもまだ初心者で、いちいち狼狽えたり、おろおろと戸惑うばかりだった頃は、失恋の傷が、ただ無意味な傷のようにしか見えなかったけれど、今では、そこにあるのが傷だけでなく、たくさんの勝ち取ったもの、手の中に思いがけず残ったものなどもまた、傷ついた皮を剥がせば、ちゃんとそこにあると知っている。」


「λに歯がない」

森博嗣/講談社

密室状態の研究所で発見された身元不明の4人の銃殺体。それぞれのポケットには「λ(ラムダ)に歯がない」と記されたカード。そして死体には歯がなかった。事件を推理する西之園萌絵は、自ら封印していた過去と対峙することになる。

今回は、いまいちでしたなー。
謎の提示と、可能性の検討まではとってもいい感じだったのですが・・・。ページ数が少なくなってきて感じた不安が、見事に的中しましたねー。現実には、事件が解決するきっかけなんて、こんなもんだろうとは思いますけれども。ええ、そのスジの情報からだと思いますけれども。・・・つまらんよー。ひねりがないよー。
あと、密室はお得意のジャンルのトリックで。きたきたきたーっ!と思いました。驚きも怒りもなく、ただ納得してしまったというか・・・。もう、これは森さんの特権ではないでしょうか。
萌絵さんの出番は増える一方で、海月とか加部谷の存在感が薄くなってしまっていたのが残念。犀川と萌絵をカルピスの原液だとすると、かれらはカルピスソーダみたいな薄さですから。霞むのは仕方ないかも・・・。おばさまが出てこないだけマシか。しかしながら、萌絵さんの内面に踏み込んだ場面があったのは良かった。最初から、メインをここに据えておけば良かったのでは・・・?


「人間って、結局は自分の人生しか知らない。自分の時間しか経験していない。すべては、それと比較して、それを基準にして、推論するしかないんだ」


「紅牙のルビーウルフ 5」

淡路帆希/富士見書房

奪われた神具を求め、ルビーウルフがやって来たローラティーオーは、二つの部族が暮らす外界から断絶された世界だった。次々とルビーウルフに襲いくる厳しい現実と裏切りの中、ミレリーナも神具と共にイグニスに連れ去られてしまう。

4巻から続いた話も決着。
期間をあけて読んでいるせいか、毎回世界観に疑問を持ってしまいます。うーん、他の作品ではそんなに感じないんだけどな・・・。
結局エリカさんの裏切りの理由は、期待ハズレなものでがっかり。ふーん、で終わってしまいました。あとひとやまで終わらなければ、このシリーズを読み続けるのはちょっと厳しいかも。あと、組織の姿がちらりと見えてきたので、そろそろ大ボスを出して欲しいなー。この話、前後編に分けるほどの内容でもなかったなあというのが率直な感想。今回は、エリカとローラティオーとあと神具のヒミツに迫って欲しかったなあ。ルビーさんの葛藤は、ここでは前面に押し出すべきではなかったと思います。というか、ジェイドとルビーの微妙な両思いも、いい加減くどい。うーん、ヘリオトロープとティグル、ラークとエミリエンヌのカップリングもいらんなー。そうね、さっさと子供作ってしまえばいいんでないの?と投げやりな気分にもなりますわな。
世界観が弱いのが一番の弱点。せめて、そこが気にならないような物語の展開を読ませて欲しい。


「自分を責めてはいけないよ、ミレリーナ。それは、諦めることだから。終わったものを振り返ることだから。まだ終わっていないんだよ。わかるね?」
ベルンハルトお兄様が、実はいい男だったという発見が一番の収穫。笑。


「ぼくのメジャースプーン」

辻村美月/講談社

小学校で飼っていたうさぎが、何者かによって殺された。幼なじみのふみちゃんは、ショックのあまりに全ての感情を封じ込めたまま。ぼくは、うさぎ殺しの犯人に与える罰の重さを計り始める。ぼくが最後に選んだ答え、そして正義の行方とは。

人が人の罪を裁く。やってもいいじゃんって思ってました。法で裁くなんて生ぬるい。自分が殺した方法で、犯人を死刑にしてしまえばいいと。しかし、はたと気付いたのです。
それ、誰がやるの?
死刑の執行人か。被害者の家族か。恋人か。友人か。・・・うーん、結局また被害者と加害者が生まれるだけなんですよね。我ながら浅はかな考えでした。
主人公のぼくは、うさぎを殺してふみちゃんの心を壊した犯人を許せなかった。というよりも、彼が、自分がしたことで苦しんだ人間が何人もいたことを知らないまま、これから先の人生をのうのうと生きていくことが我慢ならなかったのでしょうな。犯人に罰を与えたって、ふみちゃんは戻って来ない。ただ、自分の手を汚すだけ。こんな力が無ければ復讐など実現しなかったのに。でも力があったから罰を与えることができる。本当に葛藤という言葉がぴったりで、ぼくがどのようにして自分の力と折り合いをつけて、そして事件に対してどのような答えを出すのか、一緒に考えさせられました。深いなあ。
ふみちゃんは、「凍りのくじら」に。秋先生と元ゼミの学生は「子どもたちは夜と遊ぶ」に登場していたような・・・。めんどくさくて確認をとっていないのですが。今作では、ぼくがどのようにして自分の力と向き合い、そして犯人との決着をつけるのかという心の動きに重点を置いていました。辻村さんの作品って、もともと内面がすごく繊細に描かれていると思うのですが、今回は特に主人公が子どもということもあり、行ったり来たりの不安定な感情が良く描かれていたと思います。主人公ももちろんですが、心を閉ざしたふみちゃんの細かな変化が良い。反応は無いけれど、言葉や思いはちゃんと届いているんですよね。
動物を殺しても、器物損壊の罪にしかならないって知った時、私もショックを受けたことを覚えています。確かに動物は人間とは違うし、じゃあ虫を殺すのと何が違うの?と聞かれれば、それは大きさや愛着の違いだけだと答えるしかない。いたぶって快楽を覚えるために殺すのと、邪魔だからと無意識にティッシュでつまんで捨てるのと、どちらがより残酷なのだろうか。