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読書の記録です。

「福家警部補の挨拶」

大倉崇裕/東京創元社

現場を検分し鑑識の報告を受けて聞き込みを始める頃には、事件の真相が見えている?!おなじみ刑事コロンボ、古畑任三郎の手法で畳みかける、四編収録のシリーズ第一集。

刑事コロンボ好きの父親は、古畑任三郎を見る度に「これはコロンボのパクリやー。」と言っていたものです。うるさかった。パクリでも何でも、おもしろければいいじゃない。
熱烈なコロンボファンである著者が書いた本作も、コロンボ・古畑と同じスタイルを取っています。犯人は分かっている。殺害方法も分かっている。仕掛けたトリックも、大方予想がつく。冒頭ですべて種明かしがされているのに、何故こんなにもおもしろいのか。犯人の犯したミスを見逃さず、じわじわと追い詰める刑事の手腕も見ものの一つでしょう。しかし、私はやはり福家警部補の個性が好きだったなあ。コロンボは良く知らないんですが、古畑さんも福家さんも、飄々としていながら時々鋭い観察眼を見せ、嫌がられるほどしつこいのに嫌いになれない。人懐っこいのかな。得な性格してるなー、と思います。
昨今の犯罪事情を見ていると、理由があるだけまだましか、と錯覚しそうになります。なんて世の中だ。自分を殺すために、こんな緻密な計画を立てていただけるなんて、被害者冥利に尽きますね。古畑さんは、突発的殺人のパターンもありましたので、もし第二集が出たときは、そんなパターンも読んでみたい。
最後に、福家警部補萌え~、でシメさせて下さい。ああ、かわいい・・・。


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「僕たちは歩かない」

古川日出男/角川書店

ある雪の夜、東京で、レストランで、あるいは山手線で、時間のひずみに入り込んでいく人たち。不思議なやわらかい雰囲気は、次第に緊張感に変わっていく。奇跡の物語を、美しい挿絵とともに描いていく。

私は、3次元の世界にでも入り込んだのかと解釈したのですが・・・。たぶん、実際に不思議ワールドに入り込んだんだろうな。「僕たち」は料理人を目指す若者たち。ひたむきな情熱を持って、いつか一流のシェフになるために、26時間の東京のキッチンで鍛錬を積んでいる。怖いほどの自信と野望に満ちている彼らが、私は怖かった。職人を目指す人は、こうでないといかんのだな。うーん。
挿絵が独特の世界を支えていて、大人向けの絵本としてもいけそうな気がします。
仲間の大切さを説いているのかと思いきや、最後の最後、ホリミナの一言で、違う、孤独を描いているのではないか、と思った。最終的に、一人で旅立ってゆかねばならないのだと。死へも、未来へも。希望にだって。それは、決して悲観することではなく、困難な試練でも越えなければならない壁でもなく、誰にでも訪れる自然な階段なのだと思いたい。


「骸の爪」

道尾秀介/幻冬舎

ホラー作家の道尾は、取材のために訪れた瑞祥房で、口を開けて笑う千手観音と頭から血を流す仏像を見た。話を聞いた真備は、早速瑞祥房へ向かう。20年の時を超え彷徨う死者の怨念に真備が挑む。

あえて2作目から読んだのは、表紙の立体感がステキだったから!あれ、仏様の手なんですねー。全然違うオブジェだと思ってた。
てなわけで、仏像の世界のミステリー。
前半はまったりで、「これはミステリーなのか?」と思ったのですが、仏像ならではのトリックが出てきておもしろかった。特に後半は、隠された人間関係が暴かれて、最後まで一気に読んでしまいました。大方は予想通りで、驚きは無いんですけど、登場人物のリアクションや言動が気になるところというか。
仏像が流す血は、ちょっと強引かなーという気はしました。うーん、そう見えるかな。見えるのかな。ちょっと実際に見てみたいかも。引くところも含めて!心霊研究者とは言っても、意外にリアリストな真備さん。笑う仏像は、まあ、そんなところだろうとは思っていましたが・・・。犯人とニアミスって、どきどきものですよね。
骸って、死体って意味もあるんだろうけど、「もぐら」の意味もかけてるあたりがうまいなあ。最後は悲しい結末でした・・・。ちょっと火サスの匂いも残しつつ。


「でも、きっと人の心なんて、軽々しく論じることはできないんだろうね」


「笑酔亭梅寿謎解噺」

田中啓文/集英社

無理やり落語家に弟子入りさせられた、不良少年の竜二。師匠にどつかれ、兄弟子には嫌がらせを受ける毎日。逃げる機会をうかがっていた竜二だったが、そんな中、事件が起きる。

落語とミステリーの相性はなかなかよろしいようで。
以前読んだ「七度狐(大倉崇裕)」もおもしろかったのですが、連作短編のこちらもおもしろかった!落語とミステリーの融合も良いのですが、登場人物がみなさん個性的すぎてたまらん。特に、梅寿師匠の奔放ぶりが素晴らしいですよ。律儀に心の中でつっこんでしまう竜二と、いいコンビです。この竜二という子も、天性の落語の才を持っていて、うらやましい。やはり、何事にも上達の早い子っていて、そうやって回りを出し抜いたことのない私は、梅雨が嫉妬のあまり嫌がらせをする気持ちがわからんではないのです。
セミだったり双子あたりは、「う~ん・・・」って感じでしたが、まあ、一話がきれいにまとまっていたのではないのでしょうかー。落語との関連づけは無理がなく、そこは本当にお上手です。続編では、全国大会でしょうか。東西対決、読みたいなあ。
この前、偶然深夜の落語番組で「たちきり線香」を見たのですが、事前にあらすじを知っていたのにも関わらず、最後まで見てしまいました。ううむ。若くても、さすが落語家、恐るべし。・・・あれ、誰だっけ?


「本格ミステリ06」

本格ミステリ作家クラブ編/講談社

今回は既読のものが4作ありました。
それ以外の作品でいい感触だったのが、「太陽殿のイシス(ゴーレムの檻 現代版)」(柄刀一)。密室脱出トリック。そら無理やろーと思わないでもないのですが、実名を伏せた語り方といい神話とのシンクロといい、先へ先へ読ませる力を感じました。うわ、他の話も気になるかも・・・。
あとはー、「流れ星のつくり方」(道尾秀介)とても読後感が良かった。ホラーのようでいて、どこかほっとする空気。子供の動かし方がうまいですよね、道尾さん。「刀盗人」(岩井三四二)。これはトリックがシンプルで良かった。後味の悪い結末が意外で好み。
逆に、ちょっとアウトーな作品は「黄鶏帖の名跡」(森福都)。舞台の馴染みの無さも読みにくい原因のひとつかなあ、と思います。中国の歴史は良くわからない・・・。一番のマイナス点は、短編なのに長く話の展開がダラダラしていてテンポが悪いところでしょうか。
連作短編集のうちの一作、というポジションの短編がほとんどで、これを読んだだけではおもしろ味がわからないのかもしれません。私も連作短編集は大好きです!でも、たまには読みきりがあったっていいじゃん。そう見ると、蒼井上鷹さんは1作が独立していてなおかつクオリティの高い短編を書かれているなあ。すごいなあ。・・・どうして「最後のメッセージ」が収録されているんだ・・・。一番面白みに欠ける作品なのにー。残念。