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読書の記録です。

「“文学少女”と死にたがりの道化」

野村美月/エンターブレイン

何故か文芸部に持ち込まれた恋文の代筆の依頼。物語を食べちゃうくらい深く愛している天野遠子と、平穏を愛する井上心葉。ふたりの前に紡ぎ出されたのは、人間の心が分からない、孤独な“お化け”の嘆きと絶望の物語だった。

若い。そして、青い!
「何も感じない」と悩んでいる時点で、もうすでに君は人間らしいのよ。そして、他人の心がわからないのなんて当然で、だからこそ理解したいと近づいていくものなのではないでしょうか。というか、本当に「悲しくない」のなら、死んだ人のことなどすぐに忘れてしまうだろうし、そのことで自分に絶望することだってないはず。いやー、そんなことでうじうじ悩むヒマがあっていいねえ。若いっていいねえ、と嫌味のひとつもふたつも言いたくなりますってば。それくらいで死ぬ死なない言われても、ねえ。笑。
・・・と、物語全体のモチーフは気に入らないのですが、遠子先輩がとにかく良い。最後まで、この人は人間なのか妖怪なのかわからず終いだったんだけど・・・。人間だと思っておきます。物語を、味に例えて表現したり、太宰について熱く語ったり・・・。かわいい!私、みつあみ好きですし。ああ、でも、紙を食べるのは消化に悪そうです。遠子先輩の文学への思いは、著者の野村さんの思いが反映されているものだと思います。本への愛は本当に素敵。「グレート・ギャツビー」って、本屋で大量に積まれてるのを見たんですが、今流行ってるのかな。気になるかも。
心葉君の思わせぶりエピソードは挟み方があざとく、露骨。うーん、何となく登場人物全体に、ナルシズムな空気を感じます。私って、こんな過去があるのよ、すごいでしょう。かわいそうでしょう。みたいな。不幸自慢は幸せ自慢より嫌いだな。


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「向日葵の咲かない夏」

道尾秀介/新潮社

小学校を休んだS君の家に寄った僕は、彼が家の中で首を吊っているのを発見する。しかし警察が駆け付けた時、死体は消えていた。「嘘じゃない。確かに見たんだ!」混乱する僕の前にS君の生まれ変わりが現れ、訴えた。僕は、殺されたんだ。

こんな小学生いてたまるかー!とちゃぶ台をひっくり返したくなったこと数え切れず。ミカにいたっては、3歳という設定。自分の歴史を振り返ってみても、中学生でもここまでボキャブラリーは無かったような気がします。
生まれ変わりには正直度肝を抜かれましたが、謎解き自体に影響があるわけではなかったので許容範囲でした。・・・そう、これだけ異常な空気を漂わせておきながら、謎解きは論理的。そこが一番驚いたところです。先生説でも丸く納まりそうだったのに、そこから2転3転・・・ところころ転がっていく推理はどこまで続くのかってくらいでした。無理があるかもしれないけど、向日葵と石けんの関係が好きだなー。
終盤は、意外な急展開に「え?え?えーっ!?」と思っている内に終わりを迎えました。ミチオ君の変身ぶりにも驚きましたなあ。百葉箱のところなんか、めっさ怖かったです。しかし、この驚きと怖さ、気持ち悪さが何ともたまらない。ホラーが意味不明なものなのではなく、ただ単に私にホラーの話の展開についていく柔軟性が無いだけだったのか!と認めることにしました。「独白するユニバーサル横メルカトル(平山夢明)」に続いて、今回もなかなかに楽しめましたよー。いいじゃん、いいじゃん、ホラーとミステリーの融合!
誰が死人で、誰が生者なのか・・・。今となっては、それも瑣末な問題のように思えます。
意外とオススメかもしれません。


「でね、僕、いよいよ死んじゃうっていう瞬間に、その神様にお願いしたんだ。人間以外に生まれ変わらせてくださいって。人間は、もう嫌ですって。」


「いつもの朝に」

今邑彩/集英社

父親を亡くし、画家の母親と兄弟の3人暮らしの日向家。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の兄と、落ちこぼれの弟。ある日、弟は父が残した手紙から恐るべき出生の秘密を知る。戦慄と感動のホラーミステリー。

千夏ちゃんの「ユダ論」がおもしろかったなー。最近、わけあってたまに聖書を読む機会があり、ちょっとキリスト教に触れているもので。信者になるとかではなく、むしろ斜に構えて読んでいるんですが。笑。(信者のみなさま、すいません。以下は読まない方がいいかもしれません。)今のところの感想は、「幸せな人たちだなあ」というところです。良くも悪くも。だって、キリストが本当にいたかなんてわからないじゃない。本当に聖書に書かれているようなことがあったかなんてわからない。というか、あれ、すげーつっこみたいんですけど。笑。そんな不確かなものにすがって安心を得られたり、それをもとにして何かを考えたりすることができるのか、と。
ええと、本編は2人の兄弟の出生の秘密をからめたお話です。謎解き、というよりは、家族の絆を描いた作品。今邑さんの描く人達は、黒さ加減が絶妙で好きです。私自身、コンプレックスの塊で、優太君寄りの視点だったのですが、最後の少しくどい(笑)押し問答で、自分とは全然違う!って思いました。粘り強い、いい子だなあ。私だったら「もう知らん!」ってなってたところでした。
最後は雲の間から光が射すような、非常にきれいな終わり方でした。時間がかかったけど、読んで良かったなあと思わせてくれます。
殺人を犯すのは、血なのか?環境なのか?という問題。あとがきの件は承知していますが、この問題でこの二択は難しいなあ。うーん、私はどちらかというと性悪説よりの考え方でして、人間はミスも犯すし、悪いこともする生物だと思っています。誰もが、殺人者になる可能性を持っている。だから大事なのは、優太君の言った「ブレーキをかける力」を子供の内から身に付けることだと思います。忍耐強いことが美徳とされなくなってきた現代だけど、主張の前にまず我慢、と自分への戒めもこめて書いておきます。仕事然り、人間関係然り。


「ピース」

樋口有介/中央公論社

埼玉の西部・秩父で起きた連続バラバラ殺人事件。事件を追う老刑事は、被害者たちが1985年の日航機墜落事故現場にいた少年少女であることを突き止める。「ピース」の意味が明かされるとき、すべてが繋がる。

バラバラ殺人事件は、ミステリーの題材の中でも、非常に魅力的な題材だと思います。日常の謎系ミステリーも好きですが、意外に猟奇的殺人事件も好物な私。いちいち注釈をつけるほどのことではないのですが・・・、念のために書いておくと、私は実際に死体を切り刻む以前に、現実に殺人事件を犯す感覚が理解できません。あくまで、フィクションを好んでいるということです。・・・いや、なかなか理解してもらえない機会が多くて・・・。実際いるんだよね、ミステリーやライトノベルみたいに益の無い本を本と認めない人って。まあ、私も本を読むことで何かを得ようという気持ちなんてさらさらないけれど、何かを得なければ意味が無いというのもおかしな話。
話はそれましたが、連続バラバラ殺人事件を、2方向の視点から追いかける構成です。定年間際のおじさん刑事の無駄話には辟易しましたなー。ベテランの勘と、粘り強い捜査で少しは見直しましたけれど。バーサイドの方、こちらはこちらで第二の主人公のバーテン君が、老成した雰囲気を漂わせています。そんな感じで、全体を通してだるさにも似た感覚を覚えました。緊迫した空気は、後半まで無いですね。
しかし、ピースのダブルの意味には唸らせられました。それで、殺害時にあんなことをしたんだ・・・。そして、衝撃のラスト。予想を裏切って、徹底的にやるところまでやりましたね。後半、平警官の詳しい描写が無ければ、勢いに乗って読めたのになあ、と思うと残念です。
ミステリーとは関係ありませんが、食事のシーンがとてもおいしそうで良かった。新鮮な生野菜は本当に、醤油をたらしただけで食べれるのかしらん。


「さよなら、いもうと」

新井輝/富士見書房

トコが死んだのは三日前のことだった。由緒正しい魔法の日記に書かれていた「お兄ちゃんと結婚したい」という言葉のせいなのか、妹は生き返り、また俺と暮らすことになった。どこにでもいる普通の兄妹の、普通ではない数日間の物語。

私の大好きな、きゆづきさとこさんが挿絵を描かれているのです。メガネー!
きゆづきさんの漫画はオススメです。かわいい4コマに目がない方はぜひ!
宣伝終了。
妹モエーな話だということは、承知の上なので、その点に関しては色々思うところあったのですが、苦言は差し控えたいと思います。この広い世の中に、近親相姦設定が好きな人が確かに存在するんだよね・・・。アンビリーバボー・・・。
とは言っても、この話に関しては一線を越えることは無いので、ご安心頂きたい。この本の良さというのは、「妹は妹以外の何物でもない」と結論付けたところだと思います。そう、妹は性欲の対象でもなく、将来嫁になる可能性など1gもなく、切っても切れない血縁者なわけです。私も兄、妹なのですが、兄どころか父のお嫁さんにすらなりたいと思ったことはないし、私にとって兄は大事な家族でそれ以上でもそれ以下でもないのです。しかし、これ、もし私がミノリの立場だったとしたら「もし彼の妹と何かあった時に、この人は私の味方になってくれないだろう」と失望を感じるだろうな。笑。だからヒロシくん、これから先、死んだら終わりなんて思っていても言ってはいかんよ。
後半からは水着選びから始まってプールイベントと、ほとんどヒロシの日常で、これならトコとのデートをもっと詳しく書いた方がよろしいんじゃござんせんか。と思いました。いやー、トコちゃんはかわいいっすよ。妹のいない男性諸君は、これはあくまで創作物であるということをお忘れなきよう!妄想は自由ですが、幻想は自分を傷つけるだけですよ。
全体的にいい話、の中にイラッとくる奴がいまして。その名も、テツマル。あー、もー、お前の話はもういいよー!と本を閉じたくなること数回でした。
あと、あとがきが良かったです(焼肉じゃない方)。久しぶりにいいあとがきを読みました。私も、もうすぐ25歳になるのですが、未だにライトノベルを手放せません。他のジャンルを読むようになって、いつか、大人になった私はライトノベルに興味が無くなるのだろうなあ、と漠然と思っていたのですが、興味が無くなるどころか逆に興味津々で、読みたいライトノベルは増える一方です。
本屋でライトノベルの棚の前をうろつくたびに、「自分は大人になり損ねた」「子供みたいで情けない」「恥ずかしい」という思いが渦巻きます。しかし、これが実は「不思議を手放すことに納得できていない」ということとも捉えられることに目からウロコでした。そう考えると、少しふっきれるかも。