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読書の記録です。

「この本が、世界に存在することに」

角田光代/メディアファクトリー

なきたくなるほどいとおしい、ふつうの人々の“本をめぐる物語”が、あなたをやさしく包みます。心にしみいる九つの短編を収録。

途中まで、エッセイだと勘違いしていました。何となく「できすぎた話だなー」とは思っていたのですが・・・。“引き出しの奥”で「んんん?これはもしや・・・」と思い、次の話で一人称が「ぼく」となっていたので、間違いに気付きました。そう、これは創作です。
私もアホだったんですけど、エッセイだと勘違いするような自然な思考と動作も少しは関係してるんじゃないかなーと自己弁護。冷静に見ると、やっぱりできすぎた出来事なんですけどね。でも、自分がかつて売った本に外国で出会ったり、不幸を呼ぶ本があったり、旅先で別れの手紙を見つけたりしたっていいじゃない、と思います。あと、商店街の本屋さんとか古本屋さんっていいな、と思いました。私の生活エリアにある古本屋はブックオフと似たような感じの店ばかりだし、本屋さんはショッピングセンター内か大型書店くらいだし。きれいで整頓されていて、買い物は非常に快適なんだけど、本の匂いはしないんですよ。それが少し寂しいですね。
ええと、あと、プレゼントに本を送るのは、よっぽど相手の趣味を把握していない限りはやめておいた方が無難だよな。私、基本的に本って自分で選択するものだと思っているので、オススメを教えてもらうのは嬉しいのですが、いきなり「これ、とってもいい本なの!」って現物をもらっても困ると思う・・・。
こんな風に、本にまつわるちょっと非日常な出来事が起こったら、きっと楽しいだろうなー。


「本を読もうが読むまいが人は人より優位には立てないのだし、好きになる気持ちにそんなことはさほど関係がない。」


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「はじまりの骨の物語」

五代ゆう/ホビージャパン

焔の魔術を操り、「冬」と戦う女戦士ゲルダ。彼女が属していた軍は、彼女の恋人であり養い親であるアルムリックの裏切りによって壊滅する。裏切ったアルムリックを討つため、ゲルダは復讐の旅に出る。

富士見ファンタジア大賞受賞作が再刊!・・・したのは嬉しいのですが、なぜHJ文庫で?という疑問を感じざるをえないのです。富士見から版権をひきあげて、HJで再刊・・・?と勘繰ってみました。いや、たぶん、たまたま再刊してくれるというところがHJ文庫だったと。それだけだと思いたいなあ。
下世話な詮索もあって、本への入りはマイナスイメージだったのですが、どんな裏事情があるにせよ無いにせよ、いいものはいい、ということで非常に楽しめました。
作中も、世界を脅かす存在のモチーフに「冬」が用いられていて、気温マイナス。こちらは、王道ファンタジーの世界観で良かったと思います。
裏切り、別れ、出会い、そして別れを繰り返す様は、正にドラマチック。いやー、私はかわいい王子さまが好きだったので、途中で読む気を無くしそうになりましたよ。はあ・・・。次は、やっぱりゲルダかな。ジャガー横田さんが、「プロレスやってる女の人は、そこら辺の着飾っている女より女らしい」と言っているのを聞いて、なるほどと思ったことがあります。それは、物語の世界にも通用することで、戦う女性は、男性的ではなく女性的だと感じます。何だろう、強いんだけど、かわいいんだよね。
ゲルダが、アルムリックに執着するように、アルムリックもまたゲルダに執着しているのだと私は思ったのですが、どうなんだろうな。王子に関しては、絶対にアルムリックのやきもちだと思う!なんだよー、心の狭い男やなあ。
クライマックスに関しては、とても自然な流れだったと思うし、ゲルダはどこまでも自由であって欲しいなあと思います。
ただ、途中の樹の中へ取り込まれるあたりから展開が苦しかったかな・・・。ちょっと強引。これ、後半だけで1冊費やしても十分だと思います。


「善悪の区別などもろい砂の城にすぎない。立つ場所を変えれば、やすやすと崩れ去る。」


「樹霊」

鳥飼否宇/東京創元社

植物写真家の夏海は北海道の撮影旅行中「巨木が数十メートルを移動した」との話を聞き日高の奥へ。その森はテーマパークのために乱開発されていた。開発反対者が失踪し、墜落死体が発見され、夏海は〈観察者〉探偵・鳶山に助けを求める。

舞台は北海道だー。私、一人旅ができる女になって、流氷と屋久杉を見にいきたいと思っていたのですが、屋久杉の方は人がたくさん来ることによって、生態系が狂っちゃってるみたいですね。観光地になるってそういうことなんだよな。本当に、自然を愛するなら何人も入れないようにするべきなのかもしれない。
作中でも、乱開発は問題になっています。有意義なテーマパークなんて、この世に存在しないよなー。動機は、「そんなことで」と思う反面「でも、理解できるかも」と行ったり来たり。自然のことを思っていても、犯人も含めて結局はみんなひとりよがり。そもそも、自然を守ろうと思うこと自体が思いあがりなんです。スーパーの袋を有料にするよりも、車に乗らない日を設けた方が、極論で言えば人類いなくなった方がよっぽど効果的だと思いますけど。ところで、少子化って問題でも何でもないですよね。誰が困ってんの。今だって税金上がってるじゃん。機械化が進んで仕事も少なくなってるし、人類減った方が地球もハッピーなんじゃないかなあ。
話が大分逸れましたが(笑)、巨木が移動する謎の導入はおもしろかったし、謎解きは無難でインパクトには欠けましたが、常識の範囲内に収まっていて良かったと思います。シリーズ初読なのですが、恋する猫田さんにものすごい違和感を感じました。その口調でときめかれても・・・。読み終わっても特徴を掴めず。どっちかというと、後半で出てきた鳶山さんの方がわかりやすい。鬼木君はオチも含めて、もっとわかりやすい。意外性の演出になってないし・・・。
北海道の地名って、独特な読み方をするんですよね。そういうのが残ってるのっていいなあ。流氷は諦めるにしても、イクラ丼を食べにいきたい。お土産は新巻鮭・・・。


「あたかも身悶えしながら天に救いの手を求めているような印象があった。傾き、捩れ、ひん曲がりながらも、大地にしっかと根を下ろしている。樹幹はいくつものいびつな瘤を抱え、樹皮は深くひび割れている。洞が開いている部分もあれば、枯死してしまった部位もある。それでも迫りくる老いには屈服しまいと、巨木は日光を求めて懸命に枝を広げていた。」


「退屈姫君伝」

米村圭伍/新潮社

吹けば飛ぶよな二万五千石の小藩に五十万石の姫君が異例のお輿入れ。いたずら好きの姫君は、田沼意次も絡んだ陰謀を探り当て、さあ大変。幕府隠密、くノ一、長屋の町人も巻き込み、藩の命運を賭けた大勝負の始まり始まり。

見目麗しいいたずら好きの姫君、その名もめだか姫。めだかって、また独特のネーミングセンスだな。ところがところが、段々この名前のひびきがかわいく思えてくるから不思議です。それも、このめだか姫の世間ずれしていない素直さ故。いいところをストレートに褒めれる人って、ほんとにスゴイと思います。
時代劇モノは、ものすごくブランクがあって(たぶん中学生以来ではないかな)、世界観に溶け込むのが大変でしたが、そこは落語のような軽快な言い回しのおかげで、まずまずのペースで読めました。テンポがとてもいいです。
ただ単に、悪人の陰謀を暴くという話ではなく、六不思議の謎を解いてみたり、町人の人生模様が見えたり、女の友情があったり、遅まきながら春の来た老女がおもしろかったり、見所は色々ありますよー。登場人物がみんな生き生きしていて、とても魅力的でした。
下ネタ、というほどのものではなく、ちょっとしたお色気シーン(しずかちゃんの入浴シーンのようなもの?)では、いかにもおじさん的言い回しが目立って、そこは微妙でした・・・。
続編が何冊か出ているようで、こちらも気になりますなー。


「逆説探偵」

鳥飼否宇/双葉社

綾鹿警察署・五龍神田刑事が、次々と起こる事件の謎に挑む!事件解決のヒントは、正体不明のホームレス十徳治郎が握る。あまりにも意外で皮肉な12人の真犯人とは!?そして、最後に残る物語最大の謎とは!?

表紙はダンボールとビニールシート。どっかで見たことあるパターンと、ホームレス。これ、読んだことあるかもと思っていたら、ここに載ってたものではないですか!シリーズものとは知らなかったなあ。正直、このパターンが続くのはしんどい。笑。2段構えの謎解きはおもしろい。タイトルからしてもう、ヒントみたいなもの。語呂がいいです。“ひとりよがりにストーカー”“猫も杓子も殺人鬼”とか。しんどいのは、後半、五龍神田君の的を外した推理。彼が得意気に推理を披露している時、すでに謎は解かれた後なんですよ・・・。か、哀しすぎる・・・!心が痛む。
事件や犯人にも、色々バリエーションがあって、設定は良かったですよ。最後の方は、じっとくの謎など山場があって盛り上がりました。メッセージに隠された意味、という点で、やはり“敬虔すぎた狂信者”が一番きれいにまとまっていたかな、と思います。というか、あれはダイイングメッセージじゃないですね!笑。すいません、感想間違えてます。何を思ってキーを叩いていたのやら。