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読書の記録です。

「あなたが名探偵」

/東京創元社

『ミステリーズ!』連載の人気企画「犯人当て小説」が1冊に。
わかったのは、既読だった1話だけ。当てたというより、思い出した・・・。

“蚊撮湖殺人事件(泡坂妻夫)”
泡坂さんの本は一度読まなければ!と思っているのですが、なかなか実行できていません。硬い文章だと思っていたのですが、ユーモアを含む読み易さでびっくり。これは、ますます読んでみたくなりました。

“お弁当ぐるぐる(西澤保彦)”
以前、確か怪獣が出てくる短編を読んだことがあって、それから苦手意識が・・・。今回は意外にフツーの設定で、正常な謎解き。このテンションならついていけそうです。かみ合っていない思考がおもしろい。

“大きな森の小さな密室(小林泰三)”
既読だったのはこれ。大分前だったのですが・・・。ありがちな証拠隠滅にまんまと騙されて悔しかったなあ。それもこれも、ロマンスのせいだ!

“ヘリオスの神像(麻耶雄嵩)”
一番フェアな謎解きだったと思います。だんだん、麻耶さんの作風が普通の味付けになってきている・・・?「鴉」がわりと好きだったので、これはこれで残念なような気がします。

“ゼウスの息子たち(法月綸太郎)”
入れ替わり、そして偽者の正体。あっさり騙されました。仕掛け自体はとても良いと思うのですが、着目するきっかけが神話というのが・・・。知らない人は置いてけぼりですヨー。

“読者よ欺かれておくれ(芦辺拓)”
冒頭で、あれだけフェアだフェアだと強調していたくせに、アンフェアです。取り決めを破ってはいないのですが、私は叙述トリックはアンフェアだと思っていますので。これが、何の注意書きも無かったら、こんなに腹が立つことはなく、むしろおもしろいとさえ思えていたかもしれない。残念だなー。

“左手でバーベキュー(霞流一)”
霞さんといえば、バカミス。というわけで、一体どんな無茶をするのかと思っていたのですが、意外に地味で普通のトリック。しかし、左手を切り取った理由がなんともまあ・・・。こだわりは人それぞれですけどねー。

“読者よ~”以外は、フェアな問題編だったと思います。
作家さんに対する先入観を覆される作品に多く出逢えて良かったです。これが一番の収穫。


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「本を読むわたし」

華恵/筑摩書房

「ずっと本と一緒だった。アメリカでも、日本に来ても、一人のときも、いろんな人に出会ったときも。」4歳から14歳までに出会った本を手がかりに、その時々の自分を振り返って描写していくセルフ・ポートレート。

下手なコラムより読みやすい。文章の端々から、本を大切にしていることが感じられます。そこがとても好感が持てる。いやー、私は良く読んだ本を忘れるので、見習わないと、と思います。
14、5歳の頃の自分を振り返ってみると、作文や読書感想文など、文書を書くときにヘンに格好つけてみたり、難しいことを書いてみたりして、結局「何が言いたいの?」という出来上がりだったものです。ところが彼女は、気取ることなく、淡々とした筆致で思い出を振り返っています。そこがすごい。しかも、こんな小さな頃の思い出を、良く思い出せるなー。私は、幼稚園以前は全くと言って良いほど記憶がありません。うらやましい・・・。
読んだ後は、華恵ちゃんファンになりました。まだまだ若いので、色々なことにチャレンジしていかれることと思いますが、できれば、また彼女の書いた本を読んでみたい。
この本からは、彼女をつつむ、本と周りの人たちへの感謝と愛情が滲み出ています。ページをめくる度に、優しい気持ちになれます。


「手を抜かない味だね。」
お祖父ちゃんの話がとても良かった。私は、お祖父ちゃんとはあまり良い思い出が無いので、余計そう感じたのかもしれない。


「天の前庭」

ほしおさなえ/東京創元社

事故で意識不明となり、そのまま9年間眠り続けた柚乃は目覚めたとき、すべての記憶を失っていた。父は同じ事故で死亡、母は柚乃が子供の頃に失踪していた。柚乃は、パソコンに残されたかつての自分の日記の中に、自分にそっくりな少女に出会ったという記述を見つける。

正直に言って、気持ち悪い読後感としか言いようがありません。物語自体はハッピーエンドだったのですが、最後の真相解明のところが、あまりにもころころ変わりすぎ。タイムスリップしただの、やっぱりしてないだの、でもやっぱりしてるだの・・・。「どっちなんじゃーい!」と頭をはたきたくなる。いや、途中まではきれいにまとまりそうだったのです。でも、最後の「やっぱりタイムスリップしてたんだ」っていうのがぶち壊しなんです!だったら、なんでその日柚乃とユナが、同じ車に乗っていたのかを説明する必要があるような。詩情的な独白なら蛇足。
物語の流れも、思いつきをそのまま書いたものを読んでいるのかと錯覚するぐらいつまらない。日記は色々な謎を匂わせてまあまあだったのですが、記憶を失ってからがつまらない。くどい。無意味に長い。後々新興宗教団体に話が移っていき、白骨死体のあたりの謎を重点的にして欲しかった私としては、不満だったなあ。教団も、やってることはオ○ム真理教と同じようなもんだから、面白くないしなー。最後は、唐突に絵本の話が挿入されます。謎。いや、これが例の兄妹を象徴する話だという意味はわかるのですが、なんでこういう形にしたのか・・・。これ、かなり、イライラしますよ。笑。
つまりはみんな、妄想、あるいは幻覚だったということです。そう思うことにしました。


「BG、あるいは死せるカイニス」

石持浅海/東京創元社

天文部の合宿の夜、学校で殺害されたわたしの姉。姉は誰かからレイプされかけたような状態で発見されたが、男が女をレイプするなんて、この世界では滅多にないことなのだ。捜査の過程で次第に浮かび上がってきた“BG”とは果たして何を指す言葉なのか?

あらすじを読んでいただければわかる通り、少し特殊な世界設定。人類はまず女性で誕生し、優秀な個体のみが男性へと転化することができます。男性化するためには、まず優秀であることと、出産を経験している必要があります。男性化した後は安定した生活を保証され、複数の女性と婚姻関係を持つことになります。まあ、そんなわけで基本的にこの世界での男性は女性に不自由することがなく、この世界でのレイプは、数の多い女性の方が集団で男性を襲うという意味で使われています。
・・・とまあ、こういうSF的世界観がOK!という方は読んでみるとおもしろいかもしれません。設定を生かした謎解きです。この世界じゃないと、起こらない事件だし、起こせない事件。まあ、下調べが色々あったわりには、謎を解くきっかけがつまんないけど・・・。
私はこの謎めいた題名に魅かれてこの本を手に取ったのですが、最後まで読んでなんとなく腑に落ちた気分。特にBGと男性化の社会問題の辺り、リアリティがありました。複雑な世界観だけど、良く練り込まれていたのでは。優秀とは何をもって優秀と言うのか、そこが一番しっくり来なかった・・・。あとは、性に関する感覚がちょっと違うかなあ。こればっかりは人それぞれでしょうね。
この世界の中で人類は、優秀な個体を残す為に、性転化というシステムを構築したけれど、私から見ると逆に弱体化しているように見えます。なんとなくですが。男性がみんな優秀であるならば、その子供も優秀であるはずだ、という仮定の上に成り立っているんですよね?そんなに優秀な人間だらけだったら、みんな男性化してるはずではないだろうか。生殖を繰り返しても、男性になれるほど優秀な人間がまだ一握りしか生まれないのならば、このシステムは失敗なのでは?


「館島」

東川篤哉/東京創元社

巨大な螺旋階段の下に倒れていた当主の死因は転落死ではなく墜落死だった!?天才建築家・十文字和臣の死から半年後、関係者が再び死の舞台となった館に集まった時、新たな連続殺人が起こる。

嵐の孤島モノ。でも電話はつながります。
読んでいる時は、「おおお、そうだったのか!」と目からウロコの思いだったのですが、振り返ると建物仕掛けトリック特有の「この建物ムリあるよね」感があります。やっぱりね、ここまで大きいとね。まあ、現実に無理であっても、謎解きは綺麗にまとまっていて好きです。色々ネタをバラまいておいて、どれも直接的には関係無いっていうのがすごい。笑。ある意味動機においてのミスリーディング?
ちょっと疑問に思ったのが、探偵さんが解説してくれるのはいいのですが、彼女がいつ建物の謎に気付いたのか、という点。だって沙樹さんは、してないよね?う~、ネタばれになるのでこれ以上は書けない~。建物に関してはネタばれすると本当に興ざめなので、自粛。
独特のコミカルな掛け合いや、登場人物のみなさんがマイペースで、全体的にいい意味で軽い雰囲気を出しています。色々疑問に思っても「まー、いっか」という気分にさせてくれます。作戦!?