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読書の記録です。

「一週間のしごと」

永嶋恵美/東京創元社

拾い癖がある幼馴染の菜加が拾ってきたのは、人間の子供。この行為が、のちに恭平の友人・忍や菜加の弟・克己を巻き込んだ上あんな結末を迎えるとは、このときの恭平には予想すらできなかった。

もう、ことの起こりから拒否反応が・・・。
常識人を自称している私から見れば、菜加の行動のひとつひとつが癪に障るのです。女子には甘めの私も、彼女のわがままは許せないなあ。いくら、その行動が彼女なりの優しさから起こしたものだったとしても、ダメ。許せない。
「横暴で凶暴だ。おまけに傍若無人、非常識、自分勝手、図々しい・・・。」
弟の克己君の独白ほど、彼女を的確に表現する言葉は無いでしょう。
この悪印象が無ければ、楽しめたかもしれない。残念です。
初期から忍君は怪しい匂いをプンプンさせていたのですが、女性の入れ替わりはなかなかいい感じのひねりだったと思います。私はどっちかと言うと、本筋の迷子ちゃんよりも、アパート集団自殺の方が魅力的な題材だったかな。こっちをメインにして欲しかった・・・。と無理な注文。
良い子のみなさんは、くれぐれも子供を連れ帰ったり、学校をずる休みしないようにしましょう~。・・・ほんっと特殊な環境だよね・・・。母子家庭は珍しくないにしても、姉弟だけ2人暮らし(父親単身赴任で、母親と妹は介護の為別居中)とか、離れの一軒家が勉強部屋とか、メールで連絡が取れれば安心する親とか・・・。私なんか、高校までばりばり親の庇護下でしたが、現代はそんなもんなんでしょうか。


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「ゴールドベルク変奏曲」

五代ゆう/ホビージャパン

妙なる調べは視覚となり、紡がれた幻が現実と交錯した時、“幻奏”能力者オルガの物語は始まる。至高の奏者・文殊の死によって出逢ったオルガと監察官・普賢。“幻奏”が織りなす謎は、やがて意外な真相へと普賢を導いていく。

「一番素晴らしい楽器は人間の声だー」という言葉を聞いたことがあります。一番かどうかはさておき、私も心を揺さぶってくれる、ヒトの声がとても好きです。
本作はそんな歌、そして世界にあふれる音を閉じ込めた一冊。「はじまりの骨の物語」でデビューする前の作品です。
しかしながら、前情報が無ければ普通に新作だと思うレベル。すごいなー。「はじまりの~」は未読なのですが、このクオリティならぜひ読みたいです。
私は五代さんの描く世界観がとても好きでして、今作も旋律で幻覚を作り出す技能が生かされた物語でした。ちょっとSFなところが意外な感じでした。最初はオルガが主人公かと思っていたのですが、実は普賢メイン。弱ってるところとか、こう、母性本能をくすぐられます~。オルガについては、気がついたらたくましくなって、気がついたら美人になっていたという印象を受けました。い、いつの間に!笑。
ラブストーリーとしても十分楽しめます。ライトノベルにもラブストーリーはたくさんありますが、例えば「腕に胸が当たってどきどきする」とか「何かのはずみで女の子を押し倒してしまった。」という描写よりも、ただ二人が見つめあったり相手の事を想う仕草が、艶っぽく感じてどきどきするのです。これは男性と女性の感性の違いというものなのかな。
感動のラストシーンだったのですが、私は「こうあるべきだった世界」なんて見たくないなあ、と思ってしまいました。うーん、うまく言えないのですが、すべてがうまくいった世界が正しくて理想的だ、とは思えないし、道を逸れてしまっても軌道修正する必要なんてないのではないかと思うのです。どんな道を辿って、最後に行き着くのはどこかなんて、行き着いてみなければわからないもので、こうしようああしようと考える事自体本末転倒というか・・・。考えすぎ?
心地よい文章が読みやすく、一気に読破してしまいました。ファンタジーが好きな人におすすめです。


「ザレゴトディクショナル」

西尾維新/講談社

戯言シリーズにまつわる様々な言葉を、著者自らが解説。ネタバレ要素満載につき完全袋とじ。これさえ読めば、戯言シリーズの謎がほんの少し解決するかも?

立ち読みしようと思ったら袋とじで、むきー!となった本。いえ、辞書。
図書館で見つけたので、借りてきました。「ネコソギラジカル」のエンディングに非常に腹が立ったゆえに、全巻売り払ってきてしまったんですよねー。今から思えば、サイコロジカルまでは置いてても良かったかも。と思ったり。
本書はいわゆるファンブックというもので、戯言シリーズを全巻読んだ方向け。一番最後に読むことをオススメします。というか、最後に読まないと駄目。
当然のことながら、いーちゃんの名前は明かされず、これからも明かされることがないと判明しました・・・。他にも色々裏話がのっています。呪い名とか殺し名には興味が無いので、その辺つまらなかったなー。西尾さんが回文好きだということがわかったのが、なんだかうれしかった。あとは、英題が好きだったので、その辺の話はおもしろかった。やっぱり造語なんだ。そうだよね!
これを読んではじめて、森博嗣さんとの共通点の多さに気がつきました。遅い、遅いよ自分!


「どこかに行きたいと思うこと。
 ここに居たくないと思うこと。
 違うかと言われれば、それは一緒のこと。」


「砂漠」

伊坂幸太郎/実業之日本社

「大学の一年間なんてあっという間だ」学生生活を楽しむ五人の大学生が、社会という“砂漠”に囲まれた“オアシス”で超能力に遭遇し、不穏な犯罪者に翻弄され、まばたきする間に過ぎゆく日々を送っていく。

これまた超能力が出てくるんですが、前作「魔王」と同じく物語のエッセンスとしてさらりと扱われているところが、非常に好感が持てます。
気になったのが、某大国への抗議のメッセージ。まあ、私も戦争が始まった時はトップの2人がリングに上がって殴り合いで白黒つけりゃいいのに、と思っていたクチなので、主張の内容に異議は無いのですが、ちょっとうるさい。その主張をしている西嶋君。やっぱりうるさい。でも、一番おもしろいキャラクターをしていて、途中まではとても好きでした。そう、シェパードをひきとるまでは・・・。
私は野良猫や鳩にエサをやる人種が大嫌いでして。ああいう人は、自分の気が向いた時だけ、同情したりかわいがったりして、いざその猫が、車に轢かれたり首を絞められて殺されたり病気になったりした時に見て見ぬフリをするのです。排泄物の処理もしません。死骸の処理なんてもってのほか。少なくとも私の知る範囲ではそうです。無責任な愛情ほど残酷なものは無い。西嶋がやっていることも同じなんです。飼育するあても無いのに、老犬を引き取って、飼う場所が無くて困ったから、実家に住んでる友達に飼ってもらおうなんて気まぐれ以外の何物でもないでしょう?お前は何様だ。とそう思ったのです。・・・私情が入りすぎました。反省。
軌道修正。
登場人物はそんな西嶋を始め、5人ともひとクセある奴らばかり。でも、探せばいそうな気がする。特に東堂さんがかわいいなあ。西嶋には勿体無いぜ・・・。あと、鳩麦という名前の響きがすっごく気に入りました。真面目にハンドルネームに組み入れようかと思うくらいにかわいい響きだ。途中、ハードな展開になりつつも、あくまで爽やかな路線を貫きましたが、失うということはそんなに簡単に吹っ切れるものでは無いのでは、という思いが最後まで残りました。
物語は終わってしまったけれど、どこかで、それこそ社会という砂漠の片隅で彼らは、今もおもしろおかしく生きているのではないかと思わせてくれます。


「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」

J.K.ローリング:著、松岡佑子:翻訳/静山社

十五歳になったハリーは、蘇った「例のあの人」との新たな対決を迫られる。額の傷痕はますます激しく痛み、今までとは違うなにかを告げていた。夜な夜な夢にうなされるハリー。長い廊下、黒い扉。真実はその扉のむこうか?十五年前になにが起こったのか?いよいよ真実が明かされる。

「最新刊はプリンスだろうが!」とポッタリアンの皆様にお叱りを受けそうですが、5巻目です。図書館で本棚に並ぶのを待ってたら、こんな時期になっちゃった。(基本的に予約はしない人です。)
告白すると、私は翻訳本を読むのが苦手です。古典ミステリー読んでみたいんですけどね・・・。アガサ・クリスティの「黄色いアイリス」でダウン。翻訳独特の言い回しっていうんですか、それがどうも読みにくい。原書で読める頭脳が欲しいなあ。今は、児童書が精一杯ってところです。
さて、本筋に戻りましょう。
どきどきさせる展開はこれまで通り、だんだんと過去も明らかになってきます。当事者が全体像を把握できないっていうのはつらいよね。大きくなる一方の自尊心や、大人への不満。気になる女の子。ハリー君、思春期真っ只中です。ある人の死により、大きな悲しみ、怒りを感じる描写はとても感情が良く伝わった。あんなあっけない死に方ってあり?しかも、暖炉で話した時に「暖炉じゃなくて、私が渡したものを使え」って一言言えば済む話なんでないの?お粗末な結末が私も悲しいよ・・・。
実は私、ハリー・ポッターシリーズのすごいところは、これでもかと吐き出される、剥き出しの悪意だと思っています。これは1巻を読んだ時から感じていたことで、教師も生徒もその他の登場人物も、ここまであからさまな憎しみに満ちた児童書って見たことありません。笑。これ、子供が読んでどう思うんだろう。そんな私は、一番公平っぽいマクゴガナル先生のファンです。かっこいい。
続きが気になるところではありますが、また図書館で出逢うその日まで楽しみに待ちたいと思います。