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読書の記録です。

「苺をつぶしながら」

田辺聖子/講談社

人は自分が愛したもののことは忘れても、自分を愛した人のことは忘れない。結婚生活から「出所」して、ふたたび一人に。乃里子、ピッカピカの35歳。

離婚後2年目の乃里子。
仕事が軌道に乗って、女1人食っていくには困らない。気のおけない友人たちと、気軽にどこへだって遊びにゆける。出所後の生活を楽しむ余裕ができたのだ。
離婚は、彼女の男女の価値観にも変化をもたらした。もっぱら色事に関心が向いていた乃里子だが、人間としての面白みに重きを置くようになった。といって、男性に無関心になったわけではなく、今回もステキな男性が出てくる。しかし、あくまでも離婚後の剛との関係が重点的に描かれている。奔放な乃里子の恋愛を楽しみにしていた私は、正直、拍子抜けした気分でした。ロマンスが足りない・・・!剛は、ロマンス成分が無いからなあ。
女は1人がいちばん!男はともだちがいちばん!このセリフも、離婚という大きな痛みを経験したからこそ中身が伴うもの。別れたあとも、良好な関係が築けるっていいなあと思う。
家庭を持つことも、1人でいることも、どちらも尊い生き方で、優劣などない。人には向き不向きがあって、自分が一番自然にいられる場所で生きることが幸せなのだ。けれど、1人で死んでいくのは心細く、寂しい。そんな一面も突きつけられる。とはいえ、色々な生き方を選べる現代に生まれて、私は良かったなあと思う。
乃里子は、常に今の自分が輝いていると言う。昔に戻りたいなんて言わない。若いころよりも、私はずっときれいになっているんだって、胸を張って言える女性が一体何人いるだろう?「もーあかんわー、年やからー。」と言い訳めいたことを口走る私は、少し反省しなければならないだろう。
女性を輝かせるもの、それは己に対する自信だ。


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「我が胸で眠れ亡霊」

秋田禎信/富士見書房

オーフェンを襲ってきたのは、魔術士殺しとして知られる女殺し屋だった。おそらく、金融業の元締めあたりが、見せしめにするために始末を依頼したところだろう。しかし、ちっとも儲かってない商売が原因で命を狙われるというのは、どう考えても割りに合わねぇぞ。

3冊目!順調~。
今回のゲストヒロインは殺し屋のヒリエッタ。
オーフェンとこのヒリエッタさんのキスシーンがあるのですが、当時の私にとってはアダルトなシーンでして。当時の印象のなごりか、今読んでもアダルトな感じがしました。しかも、オーフェンのウブな反応が、女心をくすぐります。オーフェンがもてるのが、今になってやっとわかったような気がする!母性本能をくすぐるのが上手いんだよなー。
さて、ヒリエッタの本当のスポンサーに会うために、オーフェン一行はキンクホールに向かいます。そこには、いわくつきの洋館があり、オーフェンたちは、謎の奇襲を受ける。オーフェンを狙っていた暗殺者たちが、次々に殺されていくのですが、なかなか生々しい描写でして・・・。おお、こんなに詳細に書かれていたっけなあ・・・と、驚きましたー。
クリーチャーの失敗を経て、フォノゴロスが自分自身を改造した結果が魚人間とすれば、それはちょいと弱すぎやしませんかね?と思っていた。その後、サミイは魔術士を標的にしているので、そこから逃れるために自分自身を改造したのか?という考えが出てきて、それに納得した。私はそれを支持したい!爆発後も、しばらく地下で生きていたなんて、それを最後のシーンに持ってくるなんて。秋田さんは、やはりセンスが良いな~。
地人の2人は、相変わらず余計なことをしているというか・・・。笑。ヘビの抜け殻をかぶったドーチンがかわいかった。のび太みたい。
最強と言われているオーフェンが、毎回苦戦していて、弱いのか強いのか良くわからないなあと思うことがしばしばあります。しかし、なぜか、そっちのほうが燃えるんですよねー。胸中で毒づきながら、最後には勝利するオーフェンがみんな好きなんだー!
オーフェンのバンダナって、光GENJIみたい・・・。


「私的生活」

田辺聖子/講談社

結婚→離婚。乃里子33歳。わたしの私的生活は、彼に侵されてしまった。「愛してる」よりも「もう愛してない」と告げることの、難しさ。

結婚してから、3年が経った。
乃里子と剛は、時々ケンカをしながらも2人の生活を楽しんでいた。しかし、剛の独占欲の強さや、親戚との付き合いのわずらわしさ・・・といったことから、だんだん2人の間にズレが生じてくる。乃里子はこれ以上、剛に優しくすることはできない、と「演技」をやめることを決意する。
ゴロちゃんと美々の再登場は、幸せ太りという印象だけ残して、あっという間に終了。笑。
結婚は忍耐だ、という言葉を良く耳にしますが、まさにその通りだなあと思った。剛と乃里子は、体も心も息のあったゴールデンコンビだから、余計に。お互いに、もっとこうして欲しいのに、という要求があるけれども、それをどこまで我慢できるか。あるいは、相手の要求をどこまで自分が譲歩できるか。それが、乃里子のいう「やさしさの玉」なんだろう。
乃里子は、マンションにつられて剛と結婚を決めたけれど、金持ちと結婚するってことが、あるいは、独占欲の強い男と結婚するってことが、どんな生活になるか、全然想像しなかったんだろうなあ。いやー、あれだけ殴られて、良く結婚する気になったなあ。笑。どっちかっていうと、乃里子の度量の大きさを感じることの方が多かった。いつの時代も、男にモテる女は、懐の深い女の人だよなー、やっぱり。
剛は、本当にやきもちやきで、乃里子の愛されっぷりがうらやましいくらい。笑。けれど、それが行き過ぎて、暴力をふるってしまったり、日記を盗み読みしてしまったり。乃里子が「困ったなあ。それはルール違反でしょう。」という独白があって、それは、すごく私も共感した。今で言うと、ケータイを盗み見るようなもんでしょう?私、それは絶対にやだ。結婚も同棲もしたことないから、想像の域を出ないけど、一緒に住んで、共有のものが大半を占めたとしても、侵してはいけない領域が誰にもあると思うの。それを、プライベートって呼ぶんじゃないのかなあ。
それにしても、結婚してもなお男の影が消えない乃里子。すげえ。


「我が命にしたがえ機械」

秋田禎信/富士見書房

水と人の都市、歴史との邂逅点、麗しのアレンハタムへと、再びオーフェンはやってきた。苦い思い出が残るこの街へと…。

オチを綺麗に忘れてた!2度もだまされたぜ、ステファニー・・・。
順調に読み返しています。すぐ飽きるかなあと思っていたのですが、5冊くらい一気に読めるような気がしてきたー。
この題名、機械と書いてドールと読みます。しかし、これが殺人人形のことを指しているのであれば、人形と書いてドールと読んだ方が内容にあっているような・・・と思ったのですが、これだとカワイイ感じになっちゃうか。
思えば、オーフェンの女難の相は最初から出ていたのです。笑。1巻はアザリーで、ここではステフということに。で、次ではヒリエッタ。しかし、オーフェンの口から「恋」なんて単語が出てくると、すごい違和感を感じますねえ。
この巻では、ドラゴン種族の1つ、天人の遺跡が舞台になります。私は、このシリーズの世界観の設定がとても好きでして、その中でもドラゴン種族と魔術の設定が特に好きです。なんていうか、かっこいい感が出てますよね!我ながら頭悪い感想だ・・・。ウィールド・ドラゴン=ノルニルは、人間に良く似た姿形をしており、瞳は鮮やかな緑色。扱う魔術は、文字を媒体にしたもので沈黙魔術(ウイルド)とも呼ばれているそうな。彼女たちが、人間の魔術士を殺すために作り出した人形が殺人人形。殺人人形ってストレートなネーミング。笑。草河さんの挿絵はなかなか不気味でよろしいですよ~。あれが、「きゃはははははっ!」と甲高い声で笑うところを想像すると、ほんとにゾクッとします。
今回もちょっぴりミステリー仕立てで、最後の天人たちの真意に関する一考察がおもしろかった。
あと、オーフェンの魔術って意外にバリエーション豊かだったんですねー。「我は放つ光の白刃」が一番有名で、あとは「我は踊る天の楼閣」「我が指先に琥珀の盾」とかは覚えてて、「我は見る混沌の姫」「我導くは死呼ぶ椋鳥」「我が左手に冥府の像」「我が契約により聖戦よ終われ」なんかは忘れてましたー。オーフェンも主人公だから、何か響きが良くてカッコいいの言わなきゃいけないけど、ハーティアみたいに「光よ!」とかの方がとっさの時に絶対便利だと思うんだよね。
クリーオウとマジクが、犬みたいにオーフェンに懐いているのが微笑ましい。オーフェンもまんざらではないという、いちゃいちゃ感。笑。ある意味、ボルカンとドーチンへの武力行使も、愛。愛です!


「太陽の坐る場所」

辻村深月/文藝春秋

高校卒業から10年。クラス会に集まった男女の話題は、女優になったクラスメートの「キョウコ」。彼女を次のクラス会へ呼び出そうともくろむが、「キョウコ」と向かい合うことで思い出される、高校時代の「幼く、罪深かった」出来事。

ふふん、お主の手の内はわかっておるわ!
・・・という心構えで読んだ本。期待を裏切らないオチでした。笑。辻村さんは叙述トリックが好みなのかな?ただ、今回は当たり前のことながら、読んでいると人物像にズレが生じるので、わかりやすいと言えばわかりやすい。でも、どっちがどっちかを考え出すと少々混乱気味に。
今回は、物語に浸れなかったな~。私は、彼らと同年代ですが、高校時代のことにこんなに人生振り回されていないもんで。さらに、私の高校時代、地味でしたからー。紗江子ポジションだな。
天の岩戸に閉じこもるアマテラスのように、同窓会に一度も出席しないキョウコを引っ張り出すべく、同窓会常連組みが動きますが、彼女に会った者から企画を降りていく。自由になれたんだなあ、と思った。同窓会はいいものだけど、無意識の内に何かの義務感にかられていたんだなーと。真崎くんは、章立てもしてもらえず、かわいそうかなと思ったけど、小物には小物の扱いってことかーと納得。
リンちゃんは、確かに同性から見ても、考え方の筋が通っていてかっこいい。しかし、私の内の妬み根性が頭をもたげる・・・!というのもあるし、すべてを見透かすような、リンちゃんの人間離れした洞察力は、私には少し恐かった。そのため、響子の方に肩入れしてたかなあ。確かに、やったことはひどいんだけど、自分の好きなようにする代わりに、しっぺ返しもきちんと受け止める。毅然とした態度も、これまたかっこいい。最後に、リンちゃんが頬を膨らませるところは、人間臭くて少しほっとした。
おそらく、彼らは2度と会うことが無いのだろう。そう予感していても、何十年後かに、また彼らの道が交わればいいなあと思わずにはいられない。


「いつか、私は自由になるだろうか。誰も私を縛らず、どこにも囚われることもない。扉は私の内にこそあり、そしてまた、私の内にしかない。」