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読書の記録です。

「聖女の救済」

東野圭吾/文藝春秋

男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は、虚数解。理論的には考えられても、現実的にはありえない。

ありえないっ!そんな、草薙刑事が人妻に恋なんてっ!・・・と、驚くほどのモンでもなかったなー、と安心(ひどい)。私の中の草薙ポジションって湯川の引き立て役なんです。地味なんです。
いつのまに、湯川と草薙が仲たがいを?てな感じで、ブランクを感じました。もう一冊の方で何かあったのでしょうか・・・?とっても仲の良いお二人なのに~。40代独身同士で仲睦まじいとくれば、もう、腐りかけの目線で見てしまうのは仕方ない!やむをえない。笑。
薫さんを本で読むのは初めて。テレビでのイメージとは違いますねー。テレビでの薫は理論的な湯川との対比のせいか、感情的な面が押し出されているイメージでしたが、小説の薫は、もっと理知的で冷静だなあという印象でした。女性の直感や、憶測を交えることもありますが、観察眼は鋭かったので。できる女は私大好きですので、今後活躍が増えると嬉しいなあ。
犯人が冒頭で判明する古畑(コロンボ?)方式で、メインはHOWの部分になってきます。どうやってコーヒーに毒を混入したのか?うーん、これは難しいのでは・・・。という気もしますが、1年というリミットがある前提なら、こんな犯人の心理もありえるのかなあ・・・。とにかく、被害者の男性の考え方(子供を産めない女性に意味はない等)からして共感できない。不倫の相手も、犯人にも、前の恋人にも共感する部分はなかった。タイトルの意味は最後に明らかに。一体誰が聖女なんだろうと思っていたので。しかし、相手の命が自分の手中にあるという優越感は、とても背徳的な感じがするので、聖女という響きがしっくりこないです。邪悪じゃん。笑。
福山雅治とのちょっと無理のあるコラボレーションは、正直蛇足だとしか言いようがありません。残念だった・・・!



「僕は君のことを、感情によって刑事としての信念を曲げてしまうような弱い人間ではないと信じている」
湯川先生、かっこいい!と初めて思った。笑。


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「断章のグリムⅢ&Ⅳ」

甲田学人/アスキー・メディアワークス

泡禍解決の要請を受け、蒼衣たちは神狩屋がかつて暮らしていた海辺の町を訪れた。そこで、彼らは神狩屋の婚約者だった女性の妹・海部野千恵に出会う。婚約者の七回忌を明日に控え、悪夢の泡は静かに浮かび上がる。

ここから、上下巻構成になってますねー。今回のモチーフは人魚姫。
私は、人魚姫の王子が大ッキライでねえ。幼心にそんな男、刺しちまえ!って思ってましたねえ。笑。今回、神狩屋さんがめった刺しにされたのも、そんな私の呪いが届いたかのようです。違うけど。
いつも温和で冷静だけれど、どこか謎めいた神狩屋さんの過去が明らかになります。題材として取り上げるのが、予想より早くてびっくりしました。あとは、颯姫や夢見子ちゃんが残ってますよね。葬儀屋の2人の過去も気になるところです。
いやー、今回もエグかったですねえ。(褒め言葉)泡でだんだん溶けてゆく~。歯磨きしてて、口の中のもんが出てきたら、そら発狂しますわー。泡禍が、町全体に及ぶほどの規模だったということもあって、犠牲者の数もなかなかのもの。登場人物たちの壊れっぷりもなかなかのもの。いつものことながら、普通の感覚を持った蒼衣が、逆に浮いているという状況に・・・。不憫。笑。でも、誰よりも壊れているのは、やっぱり神狩屋さんなんだなあ。泡禍と元の人格を切り離して考えて、泡禍をただの現象としてとらえる・・・ようになったとはいえ、泡禍をモチーフに当てはめて考えるという作業をする上で、やはり人格を全く無視することはできないと思うのですが、これいかに。あくまでその作業(泡禍に対する共感・理解)が必要なのは蒼衣だけで神狩屋は無関係という感じかしら?
潜有者の正体にも驚きましたが、千恵ちゃんがまさかそんな・・・!という壊れっぷりもすごい。こ、こわっ・・・。海部野志弦・千恵姉妹の存在感におされて、雪乃・風乃の活躍の場が少なかったのが残念でした。
年明けてから、タンシチュー食べに行きたいねえって話をしてたんですが、この話を思い出すと、何だかもやっとした気分になったよう・・・。


「馬鹿馬鹿しいロマンチストだわ」

「可哀想な男」


「MAMA」

紅玉いづき/アスキー・メディアワークス

これは、孤独な人喰いの魔物と、彼のママになろうとした少女の、儚くも愛しい歪んだ愛の物語。

人喰い物語3部作の2作目!挿絵がラノベらしくなりましたねえ。
MAMAでは、魔術師の血筋に生まれながら、魔力を持たない少女・トトと、人喰いの魔物・ホーイチとの話。学校ではサルバドールの落ちこぼれと呼ばれ、両親にも悩みを打ち明けられず、一人ぼっちのトト。ガーダルシアの人喰い魔物として、力を封印され眠りについていたホーイチ。孤独な者同士がひかれあい、依存しあうのは当然の流れと言えるかもしれません。しかし、彼らが「私にはあなただけ」「僕にはキミだけ」と言い合うたびに、何か見えないものでお互いを縛りつけているような・・・。悲しい気持ちになりました。
成長したトトは、外交官として城に入ることになります。そこで出会う末姫のティーランというお嬢さんがかっこいいのです!毅然として、社交界を生き抜いていっているという・・・。トトが自分を頼ってくれないことで、がっかりしたり、怒ったりして、本当にいい友達だなあと思いました。恋の相手となるゼクンもなかなかの好青年。私には、この、追いかけられてる構図というのがたまらんシチュエーションですな。もう、悶え苦しみました。笑。なんて甘酸っぱいんだ!
いつまでも、2人で完結した世界にはいられない。だって、世界は閉じていくものではなく、広がっていくものでしょう?ホーイチが、トトから優しく手を離していこうとするシーンは感涙ものです。
ANDでは、盗人・ダミアンと占い師・ミレイニアの話。2人は同じ孤児院の出で、表向きは兄妹ということになっている。ガーダルシアの秘宝を盗み、赤い耳飾に呪われたダミアンは人喰い魔物・アベルダインの魂を鎮めるため、ガーダルシアの元外交官の元を訪ねる・・・。トトの子供の後日談。残念ながら、トトとゼクンは出てきませんでしたが、息子のホーイチくんがいい男になりそうで良かったなあ。(そこか)ティーランは相変わらず粋な女ですね・・・!棘だらけの女性ってステキ!
自分が守ってあげなければならない存在。同時に、その存在を誰よりも必要としているのは自分。意外とみんな守っているつもりで、守られているのだなあ。


「この名をひとつ。そしてこれからの未来を全て」

「キミに、あげる」


「きつねのはなし」

森見登美彦/新潮社

細長く薄気味悪い座敷に棲む狐面の男。闇と夜の狭間のような仄暗い空間で囁かれた奇妙な取引。私が差し出したものは、そして失ったものは、あれは何だったのか。端整な筆致で紡がれ、妖しくも美しい幻燈に彩られた奇譚集。

今までの森見さんの作風とは違う感じ?と思わせておいて、細かいエピソードが積み重なっていくところは、いつも通り~なモリミー節がきいていました。では、各話の感想をちょろりと。
「きつねのはなし」天城さんと古道具屋・芳連堂の店主ナツメさんの話。この天城さんという人が、物々交換が好き?な人。人畜無害そうなナツメさんが、意外にしたたかであったことに驚いた。能面もこわいと思ったけど、狐面もこわいなあ・・・。
「果実の中の龍」先輩と結城さんの話。ほら吹きの先輩が愉快だった。でも、嘘の話って、やっぱりどこか悲しい気持ちになるよね。
「魔」剣道少女萌え・・・!
「水神」男4人兄弟の話。私の中で、4人姉妹といえば「木曜組曲(恩田陸)」。4人兄弟といえば「有頂天家族」。森見さんの書く兄弟の関係がステキなのです。
読み終えて一番記憶に残っているのは、雨の匂い。それも、暗い夜にしとしと降る感じ・・・。


「廃墟建築士」

三崎亜記/集英社

ありえないことなど、ありえない。不思議なことも不思議じゃなくなる、この日常世界へようこそ。七階を撤去する。廃墟を新築する。図書館に野性がある。蔵に意識がある。ちょっと不思議な建物をめぐる奇妙な事件たち。

表紙が気に入りました。レタリングっていいなあ。
一筋縄ではいかない作品だと思って読みましたが、予想の斜め上をいく世界観でした。それでは、各話の感想を。
「七階闘争」七階にそんな歴史が!正直、私は躊躇なく十階へ引越しできる女なので、七階護持闘争に参加する面々の熱い思いを共有することはできなかったー。七階と運命を共にした並川さんは、“となり町戦争”を思い起こさせる。現実味のない、死。
「廃墟建築士」とても好きな世界観。私も廃墟が少し好きになった、かもしれない。廃墟を造るという感覚がまずおもしろい。本末転倒な感じ。例えるならば、ダメージジーンズを作るようなもので、人はまっさらなものよりも、使い古されたものに愛着を感じるようにできているのかしら?
「図書館」本が空を舞う。図書館好きにはたまらない話。ヨダレが出てきそうですよ。じゅるり。図書館と言えば、「静」のイメージだったんですが、実は野生を秘めているなんて、危険なオトコみたいでかっこええなあ。“動物園”の彼女とは、思わぬ再会で嬉しかったです。相変わらず、男運が無いっすねえ。笑。
「蔵守」蔵と蔵守の心が最初はすれ違っていたのが、最後に「ありがとう」と思いを通じあったところが熱かった!蔵の中に入っているものを中和するために、また新たな蔵を「略奪」しなければならない。人類はゆっくりと破滅への道を歩んでいる・・・。中身が何かわからなくても、守るという行為自体に満足を覚える。守るということは、非常に動物的なのだなあと思った。
世界観の特異性は、三崎作品の大きな魅力で、今回もその力が発揮されていたわけですが、それ以上に、登場人物たちがひたむきに注ぐ愛情、もしくは情熱に心を動かされました。特に、自分の仕事に対するプライドは頑固親父の域で、ラーメンは汁まで飲め!という心意気を感じたのです・・・!いやー、おもしろかった。


「廃墟を造るということは、我々すべてが逃れることのできない生命の有限性と、受け継がれゆく時間の永続性とを、俯瞰した位置から眺める視点を持つことに似ている。いつかは崩れ去るという万物に定められたる道程を宿命とせず、むしろ使命とすることのできる者だけが、このはかなくも偉大なる建築を成し遂げられよう」