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読書の記録です。

「川に死体のある風景」

/東京創元社

六つの川面に浮かぶ死体、描かれる風景。実力派作家6名が「川と死体」を題材に競い合う!美しく、トリッキーなミステリ・アンソロジー。

“玉川上死”(歌野晶午)
冒頭のひっかけがいい感じ。すべては推測に過ぎないけれど、動機にいじめをからめた辺り、歌野さんカラーが出ていました。少しパンチ不足?

“水底の連鎖”(黒田研二)
これも出だしがいい。同じところから発見された3台の車の謎。謎解きも無理は無いのですが、そこまで心酔する気持ちがわからない。

“捜索者”(大倉崇裕)
あとがきにも書かれている通り、山ミス。笑。山ミスとしてなら、おもしろいと思います。いや、雪山は危険です。今年も何人か下山できなかった人がいたみたいだし。

“この世でいちばん珍しい水死人”(佳多山大地)
一番読みにくかった。おそらく、全然なじみのない土地が舞台だったせいと、構成がごちゃごちゃしてたからかな、と思います。うーん、この国でないと成り立たないトリックでしたね。

“悪霊憑き”(綾辻行人)
オカルト系。ミステリなのかどうか、判断に迷います。謎解きも、最後にくっつけときましたーって感じの印象でした。そんな偶然があるものなのか。綾辻さん作品は「館シリーズ」読破を目標として、5・6年前に「十角館の殺人」を読んだだけで止まっています・・・。反省。

“桜川のオフィーリア”(有栖川有栖)
一番きれいな印象。死体の姿もそうなんですが、情景や、動機までもが綺麗にまとめられていて、これはこれで不満。笑。この話よりも、わけありのような本編が気になるところ。そういえば、有栖川さんもあんまり読まないなあ。「ジュリエットの悲鳴」しか覚えてないぞ・・・。あれれ。

水死体。それはもう酷い状態だというのが一般的ですよね。私も、水死体はぶくぶくで青紫で、顔を見てもだれだかわからない・・・というイメージがあります。本作では、残念ながら(?)そんなイメージ通りの死体は出てきませんでした。でも、川に対する個々のイメージ、こだわり、そういったベースが良く生かされていたと思います。


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「High and dry(はつ恋)」

よしもとばなな/文藝春秋

十四歳の秋、生まれて初めての恋。相手は二十代後半の絵の先生。ちょっとずつ、歩みよって、恋人のように仲良くなっていく二人にやがて訪れる小さな奇跡。

よしもとばななさんの作品は、すごく久しぶり。
全集を固めて読んだ時期がありまして、その時に胃もたれみたいになってしまったのです。「私には重すぎる・・・。しんどい・・・。」と。それ以来、いわゆる「ばなな断ち」をしてきたのですが、表紙のかわいさに負けちゃった。ピンクと黄緑の組み合わせが素敵です。
そして、物語はポジティブな力に溢れていました。驚いた!今までの作品にも光はありましたが、どこか陰の部分が際立っているような印象が強かったので・・・。
主人公は14歳の女の子。時々不思議なものが見える、とても繊細な女の子。家族の関係も一般とは少し違う感じで、そこは、ばななさんだなあ、と思いました。アイスの新作をチェックする親子っていいなあ。
そんな彼女が想いを寄せるのは、絵画教室の先生・キュウくん。この人が、また繊細で正直で誠実な人。こんな20代後半の男性はいるのか。正直、うさんくさいな~くらいに思ってました。そしたら、ほつみさんの一言「単純ないい人で、きっと精神年齢は14歳くらいだよ」に納得。それからは、キュウくんが、すとんと受け入れられるようになりました。
じわじわと距離を縮める2人。その瞬間は、きらきらと輝いて、とても甘い匂いを放ち、砂糖菓子のように口に入れればすぐに崩れ去ってしまいそう。不思議でかわいい挿絵とともに、ぜひ味わってみて下さい。


「化物語」

西尾維新/講談社

阿良々木暦を目がけて空から降ってきた女の子・戦場ヶ原ひたぎには、およそ体重と呼べるようなものが、全くと言っていいほど、なかった!?西尾維新が満を持して放つ、これぞ現代の怪異!

良くも悪くもライトノベルの作風、という印象。
まあ、主人公の男がね、モテモテなんですよ。登場人物の女の子は、みんな彼のことを憎からず想っているんですよ。それで、当の本人は「あいつの好きな奴って誰だろう?」とか思っちゃってるんですよ。あはははは、ムカツクー(爽やかな笑顔で)。同性の友達がいない男ってモテるか?あと、戦場ヶ原と委員長の阿良々木争奪戦(?)は、私は早いモン勝ちだったと思います。一概には言えないのですが、早い遅いがある時ってあると思う・・・。
西尾さんの言葉遊びは、時々こちらの意表をつくような鋭さがあって、そこが好きだったのですが、今作での言葉遊びは鋭さ皆無です。ウケ狙いに徹しているというか。掛け合いならば、秋田禎信さんの方がテンポもネタも上手。この掛け合いを削って、もっとシンプルにまとめた方が綺麗だと思います。
怪異は、最終的に人の心に絡んでくる展開で、その辺は良くお約束が守れていたと思います。私は少し含みのある「なでこスネイク」の終わり方が好きだったな。
作者の趣味全開・・・ということで・・・。スク水、ブルマ、猫耳、眼鏡っ子委員長、ツンデレ、妹、等・・・は、まあ、まあ、良くあるオタクネタとしても、「ねこねこ幻想曲」や「きんぎょ注意報」もシュミなんですか・・・。もしや「赤ずきんチャチャ」も・・・!そういえば、麻耶さんの作品にも「わぴこ」が出てくる短編があったような・・・無かったような・・・。
ダジャレで誤植ネタやる前に、本当の誤植を直して欲しかった。上巻・下巻各1箇所。12ヶ月連続刊行しても、こんな雑な作りじゃ読み手もイライラするよー。ほとんどの本読みさんは、スピードより質を重視、だと思います。装丁も1600円という値段に見合った本に・・・。


「風味絶佳」

山田詠美/文芸春秋

孫にグランマと呼ぶことを強要する祖母は真っ赤なカマロの助手席にボーイフレンドを、バッグには森永ミルクキャラメルを携え、70歳の今も現役ぶりを発揮する。表題作ほか、お互いにしかわからない本能の愛の形を描いた珠玉の6篇。

表題作「風味絶佳」は、映画「シュガー&スパイス」の原作だそうで。予告編を見たんですが、全然雰囲気がかぶらなーい。気になってた映画なだけに、微妙な先入観を持ってしまったことが残念・・・。
さて、本編は・・・。表題作が一番読んでいておもしろかったです!特におばあちゃんがキュート。同性として、将来、こんな風に得体の知れない魅力にあふれたおばあちゃんになりたい。笑。駆け引きは難しい・・・。でも、他の短編における現実感の希薄な女性たちのなかで、乃里子さんは、唯一現実に近いと思った。そういう意味で好感が持てます。
で、一番考えさせられたのが、「春眠」。自分の同級生で、片思いをしていた女性が、自分のお父さんと結婚したよーっていう話です。常識的に考えれば、「みっともねえよ」(半分は嫉妬)っていう章造君の気持ちが、ごもっとも。でも、この話では、彼の考え方は大人気ないとして、疎外されていきます。そこに、なんとも言えない歯痒さを感じます。もし、自分の片親が私と同い年の人と再婚すると言い出したら、私も反対する。私より若かったら、縁を切る。でしょう。それは、刹那的な感情だけで決めていいことではないよ。彼女が、彼の良き理解者であったとしても。
大人になればなるほど、自分達の世界だけで完結できる恋愛って無くて、周りの人に影響を与えていってしまうんだ。どうか、責任ある行動を。


「蝶」

皆川博子/文芸春秋

インパール戦線から帰還した男はひそかに持ち帰った拳銃で妻と情夫を撃つ。出所後、氷に鎖された海にはほど近い“司祭館”に住みついた男の生活に、映画のロケ隊が闖入してきた。現代最高の幻視者が紡ぎぎ出す瞠目の短篇世界。

私はあまり作家さんの年齢が気になりません。若いから、深みのあるものが書けないとは思わないし、キャリアが長ければ技巧に優れているとも思わない。
だから、「この人何歳!?」って思ったのは久しぶりです。ほんと。例によって、表紙借りなので、どんな話なのか、どんな人が書いているのか、全く知らぬまま。年輪を感じさせる文体と雰囲気、そして選ぶ詩。奥付のプロフィールを見て納得した次第です。これは、いくらなんでも若輩者には書けんわ。うん。
そして、読み手としてもひよひよのヒヨコレベルな私は、この物語をどこに位置づければいいのか、未だにわからないのです。む、難しい。詩にこめられた意味も良くわからず・・・。
全体的に、空虚で、じめじめとした日陰のような雰囲気。子供の暗の部分を通して、大人の後ろ暗い汚さが垣間見える。「妙は清らの」「龍騎兵は近づけり」では残酷な心理を切り取って見せた。「幻燈」では官能的な描写。過激なことを書いているわけではないのに、なぜか濃厚。蜜柑を食べさせてあげるところが、もう、やられました。マイナーな嗜好だな・・・。笑。「遺し文」は青年のほのかな想いが微笑ましく、唯一読んでいて穏やかな気持ちになれました。しかし、あの落としどころは・・・!読後のダメージが大きかったです。めっちゃ落ち込んだ・・・。
そう、物語の落としどころがすごいんです・・・。これが理解できるようになる日はくるのか。


「海側の空はふくらんだ雲が裂けて血を滴らせ、東の空は牡蠣のような夜の色になる頃合いだった。」
一番美しいと思った描写。