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読書の記録です。

「塗仏の宴 宴の始末」

京極夏彦/講談社

「成仙道」の幹部・刑部を前に、家族を“喪った”男・村上貫一は大きく揺れた。同じころ、「韓流気道会」の毒手は、突如消息を絶った木場を追う二人の刑事、青木と河原崎へと伸び、華仙姑処女は“開かずの間に居たモノ”にまつわる戦慄の体験を語りはじめる。

支度に続きましての始末編。
京極堂曰く、これは自分の事件である、と。そして、この現象を解消するには、関係者を全員揃えなければ、憑き物落としは成功しない・・・。関係者が韮山に向かうなか、タイミングにずれが生じないように頑張る京極堂一派。
なぜ、これが京極堂の事件かというと、背後には戦時中、京極堂が所属していた軍隊が関係しているからなんですね。それぞれの派閥の側近が、それぞれ過去軍隊で催眠術やら薬剤やらの研究をしていたようです。そして、敵対していた新興宗教団体とか怪しげな団体とかの派閥のボスは、過去に戸人村に住んでいた佐伯家の面々だったのです。佐伯家の人々が、抱えていた鬱屈した思いに目をつけ、催眠術で過去を書き換え「そうであるように」巧みに誘導していたのです。なんで、佐伯家が軍隊に目を付けられたかというと、不死の言い伝えのある「くんほうさま」が家宝として伝えられていて、この調査のために邪魔だったから・・・だそうで。そして、すべてを裏で操っていたのが堂島という男。彼がこの一連の出来事の黒幕だったのです。
なんか、すごいざっくりしたまとめになっちゃいましたけど・・・。いつものことか・・・。
催眠術で最後まで押し切りましたね!薬もあったか。催眠術ってどうなんですか?かかるんですか?かかり続けるんですか?と疑問に思いながら読んでいたんですけれども。しかし、分冊で6冊読んできた最後が催眠術でしたは・・・。脱力ですねえ・・・。皆殺しじゃなくて殺されたのは一人だけだったし・・・。で、佐伯家の嫁さんが産んだ甥(親戚の人?)の子供が藍童子となって、その藍童子を京極堂のように、演説家・・・ではなく、憑き物落としにしようとしているのが堂島さん。京極堂をもう一人作ってどうすんの?新興宗教団体でも立ち上げるのか?なんかよくわからんとです。古本屋でないことだけは確かだ。笑。
くんほうさまを蹴り飛ばす榎さんにほれぼれしつつ、結局ほったらかしの関くんなんだよなーと同情してました。どうやら釈放されるらしいです。良かったね。
次は百鬼夜行の予定。


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「鴨川食堂」

柏井壽/小学館

京都・東本願寺の近くにあるというその食堂には看板がない。食堂を切り盛りするのは、鴨川流とこいしの親子二人。この食堂では、もう一度食したい食べ物の味を少ない手がかりから再現してくれるという。店に辿り着く手がかりはただひとつ、料理雑誌に掲載される<“食”捜します>の一行広告のみ。

京都・食の探偵。食堂と探偵事務所は分かれていて、食堂は流(父)が切り盛りして、探偵事務所はこいし(娘)が所長ということなんですが・・・。こいしは依頼人から話を聞くだけで、実際に料理を探してきたり作ったりするのは流なんですねー。・・・こいしの存在意義はどこに?しかも「難しいかもわからへんわ。」と後ろ向きだったり「頑張って探しいや」とエラそうだったり、コメントは一丁前なもんで余計イラっときますね。笑。お前何もでけへんのやったら、だまっとれ!という感じです。
お料理を探すのはもちろん、その人の大事な思い出まで蘇らせる流さんの手腕はすごいですね!元刑事という経歴だから、食探しもお手の物なのか?元刑事・・・ハリウッド映画だったら元FBIは事件に巻き込まれたり、家族が人質になっちゃうところですが、今のことろそういう展開はなさそうです。笑。亡くなった奥さん一筋のようで。
しかし、謎解きの過程はあっさりしすぎで物足りなかったですね。もうちょっと謎を考える尺がないと、これをミステリーと呼ぶのは厳しいところ。料理は「ナポリタン」の印象が大きかったかな。鉄板の上でジュージュー焼けるナポリタン・・・。想像しただけでヨダレが出そう・・・。あとは「とんかつ」も良かったかなー。衣へのこだわり!「ビーフシチュー」もおいしそうでした。
鴨川食堂は初めてのお客さんは、流さんの「おまかせ」のみになるのですが、このおまかせが一番おいしそうでした~。色々なお料理が少しずつ楽しめて、ご飯もおいしそうだし、椀物もステキだし、食後のお茶までおいしそうでした。
最初に書いた、何もしない所長・こいしと、報酬の価格設定をお客さんに決めさせるシステムはいかがと思いますが・・・。あと調査は2週間で何とかなるもんなの?という疑問も・・・。まあ、料理がおいしそうだったので、グルメ人情小説と考えれば良いのかなあ。


「神去なあなあ夜話」

三浦しをん/徳間書店

100年先を見据えて作業をしている、神去村の林業の現場。そこへ放り込まれた平野勇気も、村で暮らして1年が過ぎ、20歳になった。山仕事にも慣れ、憧れの直紀さんとドライブに出かけたりもするようになったけれど・・・。

前作の「~日常」がおもしろかったので・・・。いつの間にやら映画化もされてますねー。
今回は、神去村のクリスマス~年明けで、勇気と直紀の恋の行方が描かれます。・・・まあ、なんやかんや言っても、ハッピーエンドだろ・・・と思ってましたよ。ふっふっふっ。
他にも、神去村の昔話。ヨキと清一さんの両親が亡くなった事故について。ヨキとみきさんの馴れ初め。神去村のクリスマス!と神去村マメ知識がいっぱいです。むく犬のノコも元気だよー!
事故の話はヘビーで、子供の頃に両親を亡くすことって想像できないくらい大変なことだけど、その中でがむしゃらにでも頑張ってきた彼らはすごいなと思う。ヨキとみきの馴れ初めはワイルドで、さすがのみきさんの粘り勝ちでした。相手にされてなくても、フラれても、この人じゃなきゃイヤだ!と頑張れる人がいるってすごいなあ。しかも、あの神去村の狭い範囲内で見つかるとは。笑。そして、決して折れない心。見習わなくては!
子供が少ない(というより、山太ひとり?)の神去村のクリスマス。とうとう小学校で「クリスマス」「サンタ」「プレゼント」というキーワードを聞いてしまった山太。山太のためにクリスマスパーティを企画する大人たち。神去村は、林業が盛んで山には木がたくさんある。だけど、モミの木は・・・ない!そこで用意された赤松。笑。赤松を飾りつけってシブいなー。そして山太へのクリスマスプレゼントは・・・清一さんお手製の木で作ったロボット!でも、山太は赤松ツリーも木のロボにも大喜び。ええ子やなあ。獅子舞の話には吹き出してしまいました!確かに、夜中に獅子舞が登場したら悪夢やと思いますね。ちびりますね。笑。
繁ばあちゃんも超かわいかった!ラブシーンは納屋ですか・・・。笑。パスワードに気付くのはいつになるのかしら。っていうかパスワードを見破られた時点で、「shige」に変える勇気もいいよね。
過疎化だ斜陽産業だと言われる業界でも、人手不足はただ人が来ればいいとか、売れないものが売れればいいとか、そういう解決方法じゃダメなんだよなあ。私、素人なのでエラそうなことは言えませんが・・・。勇気のように、この土地を理解して仕事に誇りを持って、村の人々を愛してくれる若い人々の力が本当の村の力になるのかな?と思いました。
本を読んでぼんやりと未来を思うことはありますが、現実の自分の祖先や子孫のことなんてあんまり考えないよなあ。もしや私は終末思想者?と思ったりした。結論→田舎暮らしは大変です。


「図書館の魔女」

高田大介/講談社

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声をもたない少女だった。

第45回メフィスト賞受賞作。メフィスト賞って、45回もやってるんだ!話題作、あんまり見かけないですよね~。下火なのかな?
こちらは、上下巻あわせて1400ページのボリュームたっぷりのファンタジーです。1400ページになんてビビらないぜ!なんせ、「錨を上げよ」1400ページを読みきったからな!(←何の自信)あれを読んでから、たいていの本を読みきる自信が生まれました。何が幸いするかわかりません。笑。
山奥で修行していた少年キリヒトは、師に連れられて一ノ谷へ。王宮よりも高くそびえ立つ「図書館」に仕えることになる。世界中のあらゆる言語で綴られた様々な時代の書物を収集している図書館。この図書館の主は、幅広い知識と深い洞察で時には影で政治も動かすと恐れられている。別名「図書館の魔女」の正体は、キリヒトよりも幼い少女、マツリカだった。
声を持たないマツリカの専属の手話通訳となるべく、司書たちに習って勉強を始めるキリヒト。主だった司書は2人。白い髪の毛に白い肌。日光は害なので、日中は外に出ない、笑い上戸のハルカゼ(石が好き)。対照的に褐色の肌に黒髪。負けず嫌いで使用人の娘から軍師の養女になったキリン。実は、2人とも最初は図書館に送り込まれた間諜だったのですが、マツリカのカリスマ性に惹かれ、図書館こそ自分のいる場所と思い定めた人たち。
上巻はマツリカとキリヒトの交流を描きながら、巧みに伏線を忍ばせていきます。上巻の最後には、キリヒトの真の使命が明かされます。夜の井戸での2人の邂逅はせつなかったです。あと、キリヒトがマツリカに手で水を飲ませてあげるシーンが・・・官能的!手ってエロいですねえ・・・。上巻では、ただの近衛兵だと思っていた人々が、下巻で図書館のメンバーに加わったのも驚きでした。しかも結構活躍してて、メンバーそれぞれに個性があって好きでした。ヴァーシャが一番重要な役どころですが、アキームとイラムの恋の行方なんかも微笑ましかったです。笑。
下巻では、ニザマの企みを阻止しようと会談に乗り出します。波乱の船旅。催眠術によりマツリカの左手が封じられ、催眠術を解こうと潜入した下手人のアジトに潜む罠・・・。まあ、とにかく色々あって、大団円!かと思いきや、大人は若い2人を引き裂くのです・・・。というか、しばしの別れなんですが・・・。これまでが濃密な密着度だっただけに、寂しいだろうなあ。
マツリカが最初は超クール!だけど、物語が進むにつれてキリヒトと仲良くなって、実はお酒大好き!とか船がコワイ・・・とか感情が垣間見えると途端にかわいく見えてきました。先代のタイキやニザマの国王をジジイと言ってのけるふてぶてしさも、かわいいです。
私が喋る言葉も、手話で語られる言葉も、指話で表現される言葉も全て同じ言葉。しかし、受け手が受け止められなければ(あるいは読み手が読み取ることができなければ)それは伝えるべきものを伝えられず、消えてゆくだけ。マツリカが最後に敵であった双子座について、彼の言葉を受け取ることができなかったと悔やむシーンが印象的でした。イラムとアキームは、まだ上手く会話できていないけど、気持ちは通じあっている。魔法は出てきませんが、言葉の持つ力、表現の可能性の広さについて考えさせられる物語でした。
指話は常に相手と手をつないでいるという非常にロマンチックな構図。これを先代でやる(タイキには必要ないけど)とタイキ(おじいさん)と先代キリヒト(おじいさん?)になるわけで・・・。・・・代替わりして良かったね!
キリヒトとマツリカの関係は、主従関係から好きとか恋とかそういう感じを通りこして一心同体。誰にも代えられない、自分の片割れに会えたんだねえ。いいなあ。


「さいごの毛布」

近藤史恵/KADOKAWA

幼い頃から自分に自信が持てず、引っ込み思案。家族とも折り合いが悪く就職活動も失敗続きだった智美は、友人の紹介で、事情があって飼い主とは暮らせなくなった犬を有料で預かる老犬ホームに勤めることになる。時には身勝手とも思える理由で犬を預ける飼い主たちの真実を目の当たりにして複雑な思いを抱く智美は、犬たちの姿に自らの孤独を重ねていく。

「ペットのアンソロジー」で、すっかり犬にはまってしまったと書かれていたので、動物をテーマにした作品が増えていきそうですね~。
私は犬が大好きで、飼っていた犬が亡くなってからは動物全般が好きです。しかし、「動物の死」となると、おいおい泣いてしまうので、「死」が出てきそうな本は自然と避けているかもしれません(人が殺される話は平気なのに。むしろ好物)。今回も迷いました・・・。でも、飼い主と犬の高齢化が進む現代で、老犬ホームは大事なテーマなので!
主人公は、人付き合いが苦手な智美。家族からも「何を考えているのかわからない」と言われ、孤立しているため実家にも寄り付かない。友人からの紹介で老犬ホーム「ブランケット」で住み込みで働くことになった智美。犬を飼ったこともなく、専門的な知識もない。突発的な出来事に対処するのが苦手な智美だが、オーナーの麻耶子や同僚の碧に助けられて仕事に慣れていく。最初はわからなかった犬たちと飼い主の関係。麻耶子や碧の人間関係。そして自分の家族との関係を見つめなおす。
人生それぞれ。事情もそれぞれ。保健所に連れていくくらいなら、老犬ホームに入れるという選択があってもいいかなあとは思います。でも、大事な家族は最後までちゃんと看取ってあげて欲しい。「子供に死ぬところを見せたくない」という飼い主が一番ひどい。本当にこんな人がいたら軽蔑します。他にも、病気でやむを得なく、仕事の事情で・・・などなど。無責任な人間ではありますが、同時に大事なお客様。いちいち腹を立てていては商売にならない。麻耶子さんが言うように、ペットビジネスは「好きなだけでは務まらない」のです。
老犬の世話は、あんまり大変なことは書かれていなかったけど、実際大変なんだろうなと思います。タヌ吉みたいに愛想のいい犬ばかりではないだろうし。当然ながら病死するワンちゃんもいて、そのシーンではほろりときました。
私が思っていたよりも、人間達の物語にウエイトが置かれていて、特に碧さんの不倫の行方は気になりました。きれいで気さくな碧でも、上手くいかないことがある。世の中を泳ぐのがしんどいのは自分だけだと思っていたけど、意外とみんなしんどいのかな・・・と智美が考える場面では、そうそうと思いました。その碧も泥沼不倫から抜け出せそうで良かった。麻耶子さんも、息子と仲直りできそうだし、智美も家族との距離が少し縮まりそうだ。
全てを手に入れることはできなくても、ひとつずつ拾えそうなものを拾っていく。そういう生き方もありだよね。