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読書の記録です。

「星の民のクリスマス」

古谷田奈月/新潮社

最愛の娘が家出した。どこへ?クリスマスに父が贈った童話の中へ。父は小さな娘を探すため小説世界へともぐりこむ・・・。残酷でキュート、愛に満ちた冒険譚。

第25回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作らしいです。そんな賞があったんですねえ。・・・ポチポチ(検索)。森見さんの「太陽の塔」しか読んだことないわー。
あらすじに、残酷でキュートとあったので、雰囲気として映画「パンズラビリンス」をイメージしながら読んでいたのですが、まあ、特に残酷な描写はなかったと思います。ちなみにキュートでもありませんでした。ファンタジーの世界に理屈を通そうとすると、こうなるね!って感じです。
史実を書く仕事をしている父の娘は、孤独?から、幼い頃父親が書いてくれた物語の世界に迷い込む。そこは雪をあらゆる原動力にして人々が暮らす世界だった。娘は、父親がくれたもうひとつの名前・・・ズベン・エス・カマリと名乗り、この世界で生きていく。一方父親も、いなくなった娘を探して物語の世界に迷い込む。しかし、父親の場合は影になってしまい、街の人に気付かれずひっそりと彷徨うのです。そんな父親を発見するのがキツツキの子。(この世界では名前がなく、あだ名?で呼び合うようです。)キツツキの子は、娘が銀色(郵便配達員)のところに彼の娘としてかくまわれていることを知る。父親と娘は出会えるのか?
とにかく、お父さんがかわいそうでした。別に、もとの世界でも娘をほったらかしにしていたわけではなく、ただ仕事が忙しかっただけだし・・・。娘には思うところがあったのか、物語の世界に迷いこんだあと、すんなり銀色の娘になり、仕事をして物語の世界の住人として生きることを選びます。特に父親を恋しがる様子もなく、エンジョイ!後に、彼女は外からきた存在であることがバレて投獄されるのですが、そこで父親に助けてもらっても、やっぱり物語の世界がいいんだって。うーん、娘の思考が理解できない・・・。
最後の最後で、この物語が三重構造になっていることがわかります。物語の世界<物語が書かれた世界<この本を書いた父親が現在いる世界・・・ってな感じでしょうか。含みのある終わり方で、終わり方はいいなと思いました。父親だけが現実世界に帰ったのか、娘は失踪した日にすでに亡くなっていて、これは娘のために書かれた物語だったのか、父親はそのまま消滅してしまったのか・・・。色々考えられますが、どの結末であったとしても、これは父親と娘の別れの物語なのだなあと思うと悲しいですね・・・。


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「雪月花黙示録」

恩田陸/KADOKAWA

大和文化を信奉する「ミヤコ民」と物質文明に傾倒する「帝国主義者」に二分された近未来の日本。美青年剣士の紫風が生徒会長を務めるミヤコに謎の飛行物体が飛来した。それは第三の勢力「伝道者」の宣戦布告だった!

今回はSFでした。
ミヤコの中で、代々権力を握ってきた春日家の面々が主人公。生徒会長の紫風に、凄腕の剣士の萌黄。元気娘の蘇芳。もともとミヤコに敵対する勢力として、帝国主義者が存在していたが、第三の勢力「伝道者」が暗躍し始める・・・。という、学園モノかと思いきや、ミヤコの成り立ちの謎にも触れられたりして、一言で説明できない話ですね。とりとめがないというか・・・。ネタばらしになるけど、ミヤコのPVみたいな話なのかなあ。これはイントロダクション?
紫風と萌黄を救出するあたりがヤマかなと思っていたので、その後あっさり救出し、うだうだとその後のエピソードが続いたのが残念だった。日本の大多数は帝国主義で、ミヤコはモデルケースとして意図的に残された地域である云々・・・と種明かしを読んでも、特に・・・。「ふーん」で終わりました。笑。蘇芳が合宿先で謎の生物兵器に襲われたり、佐伯の正体は?とか、ところどころはおもしろいんですが・・・。
話のことはおいておいて、恩田作品にしては珍しい、裏表のない蘇芳が好きでした。明るくて元気いっぱいの蘇芳がかわいかったから、この本が最後まで読めたと言ってもいいと思う。他にも、派手好き蘇芳好きで裏に何かありそうなミッチーや、愉快な双子姉妹も好きでした。まあ、こんな感じに登場人物を楽しむと良いかもしれません。
恩田さんのミステリーを、そろそろ読みたいなあ・・・。


「英子の森」

松田青子/河出書房新社

英語ができれば世界は広がる。それは誰かが作り出した幻想かもしれない。英語を使う仕事を切望しながら、派遣社員を続ける英子。自分のアイデンティティに疑問を持ったとき、母親と2人で暮らしている森が崩壊し始める。

母経由の本。自分では選ばないであろうジャンルの本でした。新聞で松田さんの記事を読んだときは、綿矢りささんに雰囲気が似てる?という印象でした。実際読んでみると、淡々とした語り口調には共通点が見えますが、作品全体の雰囲気は違いました。
「英子の森」表題作。母親の「あの人みたいになってはいけない」という呪縛にからめとられた英子は、とにかく英語を使った仕事に就くことを希望していた。英語の仕事は色々あるように見えて、成功している人はほんの一握り。英子は派遣会社に登録しているが、英語を使う仕事と普通の仕事の時給の差はたった50円。・・・うーん、私は英語がからきしダメなので、英語を使う仕事のなかで、こんなヒエラルキーがあることも知りませんでした。英語が喋れれば未来は約束されている!っていうのも短絡ですけど(笑)、まあ、英語できないよりできた方が絶対良いですよね。英語できるからって、グローバルっていうのもちょっと違うと思いますけど。最近は社内の公用語を英語にしたりする会社があって、グローバルってそういうことなの?とひっかかります。まず、日本語をきちんと使えるようになろうぜ!母親と娘の閉塞した森は、一度崩壊するけれど、最後に再生する。母娘の関係の破壊がテーマかと思っていたので、えっと・・・、再生していいの?と思いましたけれども、本人たちが良ければ良いのでしょう!オッケー!・・・英子の彼氏、すかしすぎてぶん殴りたくなったのは、私だけでしょうか?なんだよアイツ!何がオレの森だよ!枯れちまえ!
「※写真はイメージです」すべては脳が認識しているもの・・・ということ?ちょっと謎でした。
「おにいさんがこわい」人は思っていることの八分の一も言葉にできない。思っていることの全てがダダモレてしまうと、大変なことになっちゃうわけで。これくらいがちょうどいいのかなあと思った。うたのおにいさんやおねえさんはすごいのです。
「スカートの上のABC」よく覚えてないんですが・・・。久しぶりにスカート欲しいなと思った。スカートって、気分が上がります。
「博士と助手」精神病の治療を研究する博士と、博士のことがヘドが出るほど嫌いな助手。ちょっとSFな雰囲気。
「わたしはお医者さま?」暗闇のなかで職業を当てるゲームをする人々。本当の職業だったり、架空の職業だったり・・・。ペンギンナデはいいですねえ。欲を言えばペンギンだけでなく、色々な動物をなでなでしてまわりたいですねえ・・・。と和む話ではなく、もうすぐこの世が終わってしまう瞬間であることが最後に明かされます。どんな自分であったのか?本当はどうありたかったのか?自分の人生を振り返る機会があることは幸せなのかな・・・。星新一さんの世界観を思い出します。本の中で一番好きな作品。


「白ゆき姫殺人事件」

湊かなえ/集英社

化粧品会社の美人社員が黒こげの遺体で発見された。ひょんなことから事件の糸口を掴んだ週刊誌のフリー記者、赤星は独自に調査を始める。聞き込みの結果、浮かび上がってきたのは行方不明になった被害者の同僚。ネット上では憶測が飛び交い、週刊誌報道は過熱する一方、匿名という名の皮をかぶった悪意と集団心理。噂話の矛先は一体誰に刃を向けるのか。

一人称の書き出しを見て、思わずゲンナリしてしまいました。また一人称か・・・。一人称が嫌いではないのですが、一人称ってずるいとき(叙述トリック)があるからなー。これが湊さんの作風、と割り切るしかないのかもしれませんが、馬鹿のひとつ覚えみたいに一人称の作品を書き続けるのはどうかと思います。これだけ本を出されているなら、作品によって視点を使い分けて欲しいところです。
内容はこれまた湊さんの十八番です。ザ・腹黒女!ドロドロしてましたねー。OLって大変ですねー。やっぱ美人って苦手やわー。性格が悪いっていうより気が強いんですね、たぶん。
話のスジはシンプルです。化粧品会社の美人社員・三木典子が殺された。被害者の同僚・城野美姫が、母親の危篤を理由に会社を欠勤しているが、それはどうやら嘘らしい。2人の間に何があったのか。城野美姫とはどのような人物なのか。容疑者の関係者が語り始める。インタビュー形式で話が進んでいきます。本人はメモ書きですが・・・。こんなメモ書く奴いるか?笑。
両親・兄弟・親戚・友人・元恋人・同僚・近所の人・・・。当たり前のことですが、人は1人では生きていけないわけで。これまでの自分の人生を通して関わってきた人たちが、必ず何人かはいるはずなんです。この人たちが、自分のことをどのように第三者に説明するのか。あんまり聞きたくないですけど。笑。両親の懺悔にはびっくりしましたね!他の人が何と言っても、親なら信じてあげようよ。これはかわいそうでした。
ネット書きこみ、マスコミの報道。どれが真実なのか、どれが誤りなのか。まったくの部外者である人々は、判断することができないにも関わらず、より過激でおもしろいものを真実と思ってしまうのです。しかも、大体話を盛る。これは事件とか関係なく、私も話をおもしろくするために演出を加えることがあるなー、と反省。情報が一人歩きし、当の本人も自分の本当の姿を見失ってしまう。マスコミの報道合戦や、インターネットの普及による個人情報の暴露の加速。犯人はともかく、被害者の個人情報(フェイスブックやブログの公開)はダメでしょ!と思っていたので、このテーマは良い視点だと思った。
それにしても、後半の事件資料にはやられた。各章に事件資料の番号が載っていて、本の後半には番号の振られた資料があるのだけど、物珍しさからついつい全部をざっと読んでしまいました。気がついたときには、犯人の名前が出てました・・・。うっかりしちゃった☆テヘ☆・・・と言ってみても犯人が変わるわけもなく、驚きは皆無でした。どなたかが感想で書かれてましたが、資料は各章のあとにつけましょうよ!資料と各章の証言は重なる部分もあり、クドさを感じました。
「芹沢ブラザーズ」って見るたびに、マリオが頭の中を駆けめぐった。


「悟浄出立」

万城目学/新潮社

俺はもう、誰かの脇役ではない。砂漠の中、悟浄は隊列の一番後ろを歩いていた。どうして俺はいつも、他の奴らの活躍を横目で見ているだけなんだ? でもある出来事をきっかけに、彼の心がほんの少し動き始める。西遊記の沙悟浄、三国志の趙雲、司馬遷に見向きもされないその娘。中国の古典に現れる脇役たちに焦点を当て、人生の見方まで変えてしまう連作集。

沙悟浄がどんな大冒険をするのかな?と思ってたら、短編集だった。しかも、最初の1話だけだった・・・。「とっぴんぱらりの~」からがらっと雰囲気が変わって、中国のお話です。・・・わからん。
「悟浄出立」西遊記から沙悟浄。西遊記という話を知っているつもりだったけど、あくまで脚色された日本のドラマを見ただけで、本を読んだわけじゃないんだよなーと思った。猪八戒もただの豚の妖怪だと思っていたら、もともとは凄腕の軍師だったとか。ひねくれた傍観者であった沙悟浄が、物語に参加しようと一歩を踏み出した・・・といういい話なんですが・・・。最初に書いたとおり、私は大冒険を想像して読んでいたため、地味な話の展開に少々拍子抜けでした。意外にも悟浄って、悟空のことが好きだったんですねえ。
「趙雲西航」三国志より趙雲。もうわかりません。もう有名な諸葛孔明しかわかりません。話もなんだか入ってきませんでした。
「虞姫寂静」項羽の愛人である虞美人。四面楚歌のエピソードは知っていますが、その程度では到底話についていけるはずもなく・・・。しかし、虞美人の鬼気迫る舞がこの本の中で一番印象に残っています。まあ、私ならお言葉に甘えて、すたこらさっさと逃げますが。笑。
「法家孤憤」始皇帝暗殺の話ですかね?結局未遂に終わってしまうのですが、この下手人のケイカと同じ読みをするケイカさんが主人公。HEROのジェット・リーを思い出していました。ケイカの漢字、忘れちゃった。
「父司馬遷」司馬遷の娘。司馬遷は史記を書いた人って習ったと思うけど忘れてましたすいません。司馬遷も色々大変だったのねーと思いました。娘さんがぶち切れたところが印象に残っています。いつの時代も女は肝っ玉が据わっているのです。
万城目さんの中国古典への愛を感じて、中国史もおもしろそうだなあ・・・とは思いました。脇役がメインなだけに、聞いたことがある、知っているだけでなく、ちゃんと理解している人が楽しめる本なのだと思います。私がこのジャンルを読むのは当分先になるだろうなあ。