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読書の記録です。

「5人のジュンコ」

真梨幸子/徳間書店

なぜ私は、あの子と同じ名前になってしまったのだろう。篠田淳子は、中学時代の同級生、佐竹純子が伊豆連続不審死事件の容疑者となっていることをニュースで知る。同じ「ジュンコ」という名前の彼女は、淳子の人生を、そして淳子の家族を崩壊させた張本人だった。

母ともども「人生相談。」で真梨さんワールドの虜になってしまいました。女のドロドロを書いて女たちを虜にするとは・・・。すごいです、真梨さん!しかもドラマ化ですってよ、奥さん!・・・ってWOWOWかーい!見れへんやんけー!最近のWOWOWのドラマはどれもおもしろそうです。ううっ、ゆうりょうほうそう・・・。
題名から、各章ジュンコさんが主人公なのかなと思っていたら違いました。どうやらテーマになった毒婦の事件があるらしいです。私は知りませんでしたが、特に知らなくても楽しめました。
連続不審死の容疑者として逮捕された純子。そのニュースをかつての同級生である淳子が見ていた。同じ名前だったばかりに、彼女にターゲットにされ友達にならざるを得ない状況に追い込まれた。その結果、淳子は不登校になり家庭は崩壊してしまったのだ。一方、純子の事件を調べるジャーナリストのアシスタント・絢子。出会い系の掲示板から、突然姿を消した男性に見え隠れする女の影。社宅での人付き合いに翻弄される課長夫人。少しずつつながった人々が、ちょっとしたきっかけで被害者になったり加害者になったりしています。
人を妬んだり、羨んだり、優越感に浸りたかったり・・・。人間誰しもそういう部分があります。無いっていうヤツはウソつきだね!ブラックな私全開。
「人生相談。」ほど複雑な構成にはなっていませんので、スイスイ読めます。最後には、あれあれ?という展開も・・・。悪いのは純子だけではなかった!最初の章を読み返してしまいました。私も学生のとき、2人っきり戦法(笑)というのはなかったですが、ある程度の人数のグループで特定の子とだけ喋るっていう閉鎖的コミュニケーションだったなーと思い返してました。何回人生をやり直しても、社交的になれる気がしない!まあ、いくらなんでも2人っきりは寂しいですね。でもありそうでコワイヨー。
一番上手いなあと思ったのが、絢子が元同僚とカフェでお茶する場面。かつて絢子が上司と不倫関係にあったのを知っていて、上司に2人目の子供ができたと話す元同僚。対して自分の職場は青山(だったかな?)にあることを暗に自慢する絢子。ほしたら、自分の部署が都会に移ることを話す元同僚。おそらく心の中で舌打ちしながら「職場が近くなったら、またランチ行けるね♪」と微笑む絢子。同じく微笑みながらさりげなく指輪を見せ付けつつ、「あたし結婚して来週には仕事辞めるの。ごめんなさいね。」ときたもんだ!最後に、実はそのあと同じカフェで同業者と情報交換の約束をしており、元同僚に自分の仕事の充実ぶりを見せ付ける魂胆があったことまで判明。(これは未遂に終わったけど)・・・うわああ。あったよこんなこと・・・!女性のみなさん、こんな経験ありますよね!?これは極端な事例だけど、なんかいいことあったよ的な話をしたときに、もっといいことあったよ的な話で返されたりとか。ほんと見栄の張り合いチョー疲れる・・・。結果、今はもっぱら自虐の多い負け犬です・・・。わん・・・。
あと、旦那が勝手に貯金解約して上司に貸してたとか!そら発狂するわ!笑。もー、なんで貸しちゃうかなあと私も怒っていたら、もっと悲しい事件が起きて、順子さんの話が一番かわいそうだった。
そういえば、純子の起こした事件は手付かずでした。
真梨さんの本もいろいろ読みたいなあ。


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「秋の花」

北村薫/東京創元社

絵に描いたような幼なじみの真理子と利恵を苛酷な運命が待ち受けていた。文化祭準備中の事故と処理された女子高生の墜落死。親友を喪った傷心の利恵を案じ、ふたりの先輩である『私』は事件の核心に迫ろうとするが、疑心暗鬼を生ずるばかり。考えあぐねて円紫さんに打ち明けた日、利恵がいなくなった。

シリーズ3作目。長編です。
夏祭りのお話で出てきた「私」の後輩に当たる、女子高校生2人組の悲しい運命。文化祭の準備のために学校に泊り込んでいた(生徒会のメンバーは泊り込んで準備することが伝統だったそう。)真理子が夜中に、学校の屋上から転落死してしまう。幼なじみの利恵は落ち込み、憔悴する。それから「私」の家に真理子の教科書のコピーなど、彼女の他殺を示唆するものが投函される。「私」は、母校へ聞き込みに行き調査を開始する・・・。
見回りの先生が屋上で人影を見つけ、駆けつけたときには鍵がかかっていて、当時の屋上は密室の状態であった。・・・けど、これは密室殺人の謎を解く話ではないのです。利恵の憔悴ぶりや雨の中を徘徊するなど自分を痛めつけるような行動から、彼女が何らかの形で事件に関与していることは明らかなので、どうやって屋上から突き落としたのか?というよりは、2人の間に何があったのか?という謎が主題かなあと感じました。仲が良すぎたら、かえってこじれたときが大変だよなーと思ったりしたのですが、この2人は本当に最後まで本当に仲が良かったんだなあ。それだけに、この結末はかわいそうでした。なんでこんなことしちゃったんだろう?って、私でも思う。きっと、怖くって、誰にも打ち明けられない。それもわかる。
人は誰でも間違いを犯しますが、相手が死んでしまったり、取り返しのつかない失敗だと、どうやってそれを償っていけばいいのか・・・。わかりませんでした。ごめんなさいじゃ済まないけど、謝るしかできないよ。真理子のお母さんも、娘を喪った悲しみや行き場のない怒りや悔しさを、どう消化していけば良いのだろう?円紫さんの謎解きを読んでから、しばし迷子の気分でした。でも、真理子のお母さんは、割り切れないものがあっても、答えを出したんだなあ。許すことはできなくても、救うことはできる。母親の懐の深さを感じる最後でした。
そういえば、「私」と正ちゃん江美ちゃんで、秋の散策をしてました。前作では散々江美ちゃんに文句をたれていた私ですが、主人公の「私」はもちろん怒っているはずはなく、3人で仲良くお喋りしていて良かったなあと思いました。最初はそうでもなかったけど、だんだん正ちゃんがお気に入りになってきました。さばさばした人が好きです。見ていて気持ちがいい!


「ガソリン生活」

伊坂幸太郎/朝日新聞出版

実のところ、日々、車同士は排出ガスの届く距離で会話している。主人公デミオの持ち主・望月家は、4人家族。兄・良夫がある女性を愛車デミオに乗せた日から物語は始まる。強面の芸能記者。不倫の噂。脅迫と大小の謎に、望月家はが巻き込まれる。

車たちが超かわいい!
この物語では、車は意志を持ち車同士で会話もできるし、人と会話はできないけれど言葉を理解することができます。主人公は望月家の緑のデミオ。
ある日、望月良夫は何者かから逃げている女優・翠を乗せる。その時は何事も起こらなかったけど、後日ニュースで車から降りた翠がトンネルで事故死したことを知る。翠は以前から不倫のスキャンダルがあり、その相手といるところを芸能記者に追いかけられたことが原因と考えられた。
一方、望月家の妹は江口という男と付き合っているが、この江口がトラブルに巻き込まれている。次男の亨は頭が切れるが故に小学校で孤立。いじめっこの標的にされている。これらの事件(じゃないのもあるけど)を伏線を使いながら、まとめていくのはさすがの伊坂さんです。きれいに終わっていたと思います。
主軸は翠の死の真相かなと。ダイアナ妃の事件とオーバーラップしますが、あれにも確か暗殺説とかありました。こちらにも、実は裏がありまして・・・というところ。意外にも、車たちの情報網は広くて、人間達より先に知っている情報があったりします。しかし、教えてあげたくても車の言葉は人間たちに届かない。勝手に自分のパーツを動かすこともできないし、人間たちにハンドルを握られれば、それがどんな人間でどんな目的でも、動かなくてはいけない。なんて健気な車たち!他にも、タクシーはちょっとエラそう、とか配達のトラック尊敬!なんていう車種による個性があったり、電車は車輪がたくさんついているから雲上人のような存在で、踏み切りの最前列は至福のひととき。自転車は2輪なので自動車より下で、言葉が通じない・・・などなど、細かい設定が読んでて楽しかったです。事件とか抜きで、この設定で子供向けの本があってもいいよね~。
車の助言はないけれど、亨の機転や、隣人の細見氏の助太刀なんかもあって、無事に事件は解決します。薄々感じていたけれど、細見氏はやっぱり最強だった!カッコ良い!ザッパもおもしろかった。
ユーモアたっぷりのお話ですが、人が殺されたりしているわけで、その辺は淡々としていて怖いなーと思いました。翠さんの夫は裏表の激しい人で、不幸な結婚生活の果てにたどり着いた不倫だったのかもしれないけど・・・、不倫はいけません・・・。身代わりも犯罪です。色々正当化してますが、この辺「良かったねー」と素直に祝福できないところ。
最後は、幸福な望月家で良かったです。亨くんはやはりモテモテのイケメンですか!笑。


「時の罠」

/文藝春秋

知ってる作家さんばかりだったので、ハズレはないだろうと踏んで読みました。題名からミステリー系を想像していましたが、そんな感じもなく。どこらへんが罠なのか不明です。
「タイムカプセルの八年」(辻村深月)タイムカプセルの話(←題名を見ればわかるか・・・。)主人公は大学教授の父親で、辻村さんのお話でこの年代の方が主人公って珍しいな~と新鮮な気持ちで読みました。意外にも上手くてびっくり。息子を持つ父親の機微が良く伝わってきました。不器用だけど、ちゃんと息子のことを考えている。優しくしたり、べったりするだけが愛情じゃないよなーと思いました。先生はダメダメでしたね。こういう外面だけいい先生、たくさんいそう。逆にオヤジの面々はカッコ良かった!そういえば、自分のタイムカプセルってどうなったのかな?とっくに開ける予定の年をオーバーしてるけど・・・。
「トシ&シュン」(万城目学)俊(しゅん・男)と瞬(しゅん・女)のカップルが主人公。小説家を目指す俊と女優を目指す瞬。どちらも芽が出ないまま年月が経つが、お参りに訪れた神社の神様が、2人を夢へと導く。・・・のですが、2人が夢をかなえると、別れてしまうことが判明。それでも夢を叶えさせるべきか?神様が行ったことは壮大なシュミレーションで、2人の時はまだ動いていない。見えないものに導かれる運命もいいけれど、チャンスを掴んだのも努力をしたのも当人たちで、当然の結果として成果がついてくればいいなと思います。同じパターンを2回読むのは正直飽きる。笑。最後のオチは・・・個人的にはなくてもいいかなーと思ったり。なんせ、私は縁結びの神様は信じてませんので(キリッ!)!
「下津山縁起」(米澤穂信)実は米澤さん目当てだったんですが、小説なのかなんなのかという形式で、びっくりしました。電気信号が確認できれば、その物体に意思はあるのではないか?という前提で、山が長い期間をかけて人間に働きかけ、他山を消滅させたという・・・。意外性はありましたが、これがおもしろいかというと、ビミョー。
「長井優介へ」(湊かなえ)一度読んだことがありました。4作品しかないのに、タイムカプセルネタがかぶるのはいただけない。湊さんをミステリー作家として扱うのは、間違いではなかろうかと思う今日このごろ。
余談ですが、表紙は猫のシルエットだったんですね!ずっと時空の裂け目だと思ってました。時空の裂け目って何なんだ、と自分に聞きたい。


「黒猫の約束あるいは遡行未来」

森晶麿/早川書房

仏滞在中の黒猫は、ラテスト教授からの思想継承のため、イタリアへある塔の調査に向かう。建築家が亡くなり、設計図すらないなかでなぜか建築が続いているという“遡行する塔”。だが塔が建つ屋敷の主ヒヌマは、塔は神の領域にあるだけだと言う。一方、学会に出席するため渡英した付き人は、滞在先で突然奇妙な映画への出演を打診される。

文庫は買ってあるんだけど、買った本より図書館の本を優先させてしまいます。私のような人間にとっては、アクションを起こすには期限が必要なのです・・・。それにしても、森さんは続々と作品を出されてますね!気になるものが色々あるのですが、これは追いつかないな~。笑。
ラテスト教授の容態の悪化が進むなか、思想継承の一環としてイタリアの塔の調査を依頼された黒猫。この塔は、建築家の自殺により建設が途中だったのだが、最近になって塔が成長しているようなのだ。今はヒヌマという日本人の所有物となっている塔は、個人の敷地内にあり、第三者が勝手に侵入することはできない。さらに、この建築家は設計図を引かないことで有名で、彼が亡くなった今、建設を続行することは不可能なはず。黒猫はマチルダと共にイタリアへ向かう。リモーネ祭でにぎわう街中で、黒猫は成り行きから映画に出ることになった付き人と再会する。
第一部はマチルダ視点。第二部は付き人視点です。
塔の謎はおもしろくてスイスイ読めました。で、この塔が、ラッパ型に下に向かっているそうなんですけど、形がイメージしにくかったです。塔が勝手に成長するわけないんで、勘違いか錯覚か・・・という私の予想を裏切って、実は塔の設計自体が第三者の手によるものだったという結論に落ち着きました。付き人が出演することになった、映画の監督の話も関わってきます。この映画はトッレ監督が初恋の人に、15年後に撮るように言われた作品だったのです。そして、その初恋の人とは・・・。お屋敷の人々の謎もなるほどーではあったのですが、小手先で終わらせた感があって残念でした。黒猫シリーズの魅力といえば、黒猫のわけのわからん美学講義と情景の美しさ、色彩の鮮やかさ・・・といったところだと思うんだけどな・・・。
気になる二人の関係はちょっと前進。しかし、寝ぼけたフリしてキスするなんて、黒猫って精神年齢低いの?と呆れてしまいました。付き人も付き人で、キスされたのにものすごく冷静で不気味でした。好きな人にキスされたんでしょ?もっと、こう、うわーっとならないかい?と思ったのですが・・・。笑。私がおかしいんでしょうか・・・?ちょっとこの2人の不器用さ加減がよくわかりません。思わせぶりな仕草だけで、はっきりと言葉にせず付き人の反応を観察する。・・・だから、黒猫はズルいんだっての!日本男子たるもの、決めるときはビシッとキめなきゃ!
マチルダも付き人も、かわいらしいから、黒猫なんかに執着することないのにー。読めば読むほど黒猫の良さがまったくわかりません。最後はいいカップルだね、とコメントしたいものです。笑。