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読書の記録です。

「とっぴんぱらりの風太郎」

万城目学/ 文藝春秋

天下は豊臣から徳川へ。重なりあった不運の末に、あえなく伊賀を追い出され、京(みやこ)でぼんくらな日々を送る“ニート忍者”風太郎。その人生は、1個のひょうたんとの出会いを経て、奇妙な方向へ転がっていく。やがて迫る、ふたたびの戦乱の気配。だましだまされ、斬っては斬られ、燃えさかる天守閣を目指す風太郎の前に現れたものとは?

ニート忍者の響きから、ぐうたら忍者が騒動に巻き込まれて、おもしろおかしく大冒険!みたいなのを想像してたんですが、全然違います。一瞬、ひょうたんの話かと錯覚しそうにもなります。どれだけ重要なんだ、ひょうたん!笑。ごめん、風太郎。熱いぜ、忍者魂!
そもそも、風太郎がニートじゃない!伊賀を追放されたけど(リストラにあったような感じ?)、お金が無くなれば日雇いの仕事をし、ごはんも自分でつくるし、身の回りのことは自分でしてる。ひきこもってるわけでもない。エライやん、風太郎!笑。これだけで、私の中で風太郎株がぐぐぐっと急上昇です。風太郎は、本当は忍者にもどりたい。伊賀からの使いを待つ風太郎のもとに現れたのは、かつての相棒にして疫病神の黒弓。貿易商のような仕事をし羽振りが良さそうな黒弓は、伊賀から知らせを持ってきた。それはひょうたん屋の仕事・・・。もう忍びには戻れないことを突きつけられた風太郎は、ひょうたん屋を手伝うが、その最中おかしな粉を吸ってからおかしな出来事に遭遇するようになる。それはひょうたんの精ならぬ果心居士の仕業だった。かつての同僚たち・・・泥鰌ヒゲがチャームポイントの蝉、絶世の美女だけど実は男の常世、魔性の女百(もも)を手伝ううちに、豊臣と徳川の戦いに巻き込まれていく。
詳しい時代背景が語られないので、歴史に弱い私はぼんやりとイメージしてただけでした。まあ、それでも大丈夫です。笑。徳川家が勢力を強めた頃から、大阪城に残っていた徳川秀頼が大阪夏の陣で敗れるまででしょうか。徳川秀頼って全然覚えてなかったけど、この本に出てくるひさご様はお茶目であったかい人柄で、忍たちが心を動かされるのもわかるな~。
忍は一人で生きていく。仲間と馴れ合ったり、助け合ったりなんてしない。だけど、ひさご様のためにという使命感を持った時、協力しひとつの目的を達成することができた。その代償はあまりに大きかったけど・・・。舞台が戦乱の世なので、容赦なく人が殺されていきます。一人、また一人と死んでいくたびに、主人公だけは生き残って欲しいなあと思ったけど・・・。こんな終わり方になるとは思ってもみませんでした。ひょうたんの精よ、何とかせい!って思ったけど、人間の生き死にに干渉することはできないそうで・・・。まあ、最後に超常現象で強引にまとめても、それはそれでNGかー。分厚い本ですが、最後の盛り上がりはアツくておもしろいです。オススメー。
風太郎が守り抜いた秀頼の子が、プリンセス・トヨトミにつながっていくのかな?本の詳しい内容を良く覚えていないので、もう一度読んで確認したいところなのですが、予約の本が8冊も届いているのです!きゃー!・・・と言ってるうちに、タイミングを逃すんだろうなあ・・・。


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「桜ほうさら」

宮部みゆき/PHP研究所

父の汚名をそそぎたい。そんな思いを胸に秘めた笙之介は・・・。人生の切なさ、ほろ苦さ、人々の温かさが心に沁みる物語。

いつも通りの本の分厚さ(笑)。でも、おもしろかったです。
舞台は江戸。父親の不正疑惑によりお家断絶となった古橋家の次男・笙之介。武芸より文事が性にあっている笙之介は、先生の身の回りの世話をして過ごしていたが、お家再興を目論む母やその他の思惑により、江戸へ出てきて写本で生計を立てながら事件の真相を探ることになる。江戸居留守居・東谷(本名:坂崎さん)によれば、笙之介の父は濡れ衣を着せられたようだ。もとから父の無罪を信じていた笙之介は、賄賂の証拠となった文書を偽造した人物を探そうとするが・・・。その人物は、真似られた本人が驚くほど正確に字を似せて書くことができるという。同じ長屋に住む人々や、貸し本屋の治兵衛の助けを借りて、真相に迫る笙之介。事件の黒幕は誰なのか?
父を陥れた犯人を追う内に、もっと大きな企みに気付くというミステリー仕立てでありながら、人情あり、恋愛ありと盛りだくさんな内容です。どれもとってつけた感じではなく、うまく混ざり合って一つの物語になっているというか・・・。どれがかけても物語として成立しない、絶妙なバランスで構成されています。
合い間にはさまれる、お吉の話(自分が義理の娘だと知り、狂言誘拐を企て本当の両親のもとに逃げた・・・が、実は悪い男がバックについており、お吉は彼の女になっていたのだが、彼にとって彼女はただの金づるだった。)なんか、胸が悪くなったし、うまくまとまってもモヤっとしたものは残りました。
笙之介と兄・勝之介の関係についても、勝之介の本性が暴かれたあと、これにて一件落着かと思いきや、最後に勝之介の執念が読後感の重みとなりました。そこまでしないといけないのか、と半分狂っているかのような勝之介を理解することができなかった。跡取り・遺産相続・・・と家族だからこそ泥沼問題ってありますけど、理屈抜きの味方になってくれるのは家族だけですから。できるだけ家族とは仲良くしたいですねー。
笙之介の恋のお相手の和香さんは、要所要所でかわいくって、とても好感が持てました。家族関係がこじれまくった笙之介だけど、和香さんと仲のよい家族の輪を作っていって欲しいなと思いました。読後感は重いですけど、起こし絵(昔の立体模型みたいなもの?)とか、大食い競争(武部先生、残念だった!)など、町の人々の暮らしが見える楽しいエピソードも盛り込まれています。
それにしても、最後の最後であの家系図が出てくるとは・・・。宮部さんお見事!


「謎解きはディナーのあとで3」

東川篤也/小学館

宝生邸に眠る秘宝が怪盗に狙われる?体中から装飾品を奪われた女性の変死体発見?続々と発生する難事件に、麗子ピンチ!一方、影山の毒舌と推理は絶好調!

ドラマの方も観てましたが、北川景子の麗子お嬢様も、桜井くんの執事も何かが違いましたね・・・。風祭警部は良かったですが、今度は椎名桔平さんに風祭警部のイメージが定着してしまうという悲劇が私の中で起きました。笑。
「犯人に毒を与えないでください」大富豪が殺害された。当初は、愛猫が失踪したため自殺したと思われていたのだが・・・。犯人が誰か、よりも、犯人特定のきっかけとなった、ペットボトル湯たんぽのインパクト大でした。最近のペットボトルはお湯入れても大丈夫なの?あったかいの用?
「この川で溺れないでください」川でおぼれたと見せかけて、実は風呂場が殺害現場だった・・・というどこかで読んだようなトリック。桜の花びらがポイント。あまり印象に残らず・・・。
「怪盗からの挑戦状でございます」宝生家の「金の豚」が怪盗に狙われた!寝ずの番をする麗子とお抱えの探偵。しかし、盗まれたのは価値の劣る「銀の豚」だった・・・。いつもとは違うテイスト。平にして背中に隠す・・・。まあ、できないこともないですが・・・。美しくないなあ。怪盗に出し抜かれてしまい、珍しく負けの一戦となってしまいました。
「殺人には自転車をご利用ください」殺人の容疑者は元・競輪選手。殺害現場と自宅を自転車で時間内に往復できるのか?・・・というアリバイ崩しに意味はなく、殺害現場は犯人の自宅だった。犯人はママチャリの後部座席にお祖母ちゃんの死体を乗せて運搬していたというオチ。自転車の後ろに死体を乗せて走ってる図がシュール。
「彼女は何を奪われたのでございますか」女性の遺体が見つかるが、彼女はアクセサリーの類を全てとられていた。一体何をカモフラージュするためだったのか・・・?眼鏡とコンタクトの関係性。外れたときは外れたときで何とかなるから、コンタクトしてるときに眼鏡は持ち歩かないけどなあ。・・・私だけ?
「さよならはディナーのあとで」泥棒と間違えて殺されちゃった事件。ミステリーでは、人を殺したあとに、平然と現れる犯人の精神力とウソの証言をさらりとこなす演技力に感心しますね。最後に、風祭警部の衝撃の昇進が明かされるのですが・・・。大丈夫か!?オーフェンでコギーが昇進しそうになると、いつも感じるあの不安感を感じました。笑。メッキはすぐにはがれるでしょうが・・・。これで一応シリーズは終わり・・・という感じですね。こういう一発ネタのような設定は、ダラダラ続けるより時期を見てすっぱり終わらせた方がいいと思います。


「肉小説集」

坂木司/KADOKAWA

肉×男で駄目な味。おいしくてくせになる、絶品の「肉小説」。

お肉の部位をテーマにした短編集。おいしい料理が出てくるのかな~と思っていると、足元をすくわれますので要注意!
「武闘派の爪先」舞台は沖縄。極道に憧れた主人公は、脱サラをしてその道に入るものの、仕事をしくじり、しばらく姿をくらますことに。沖縄で潜伏生活を送る彼は、1軒の店に入る。コミカルなタッチだったので、最後は助かるんだろーなーと気楽に構えていたのですが・・・。あれ?もしかして?という不穏な空気が残ります。コラーゲンたっぷりだけど。美容にいいらしいけど。豚足苦手・・・。
「アメリカ人の王様」主人公は、祖父から教えてもらった「粋」なものを愛するデザイナー。しかし、彼女の家庭は彼の粋とは正反対のものばかり・・・。いちいちお義父さんのあとに()書きされているコメントがおもしろい。笑。彼と彼女の出会いである、ごま塩パッケージの仕事の話も良かったけど、お義父さんの懐の深さも良いなあと思った。豚カツ、おいしいのに。
「君の好きなバラ」反抗期真っ只中の主人公は、自分の母親に不満がある。もっときれいで、料理が上手で・・・。ある日、道端で出会った女性に、理想のお母さんを重ね合わせるが・・・。その理想のお母さんは、行きつけの理髪店の店主の奥さんで、自宅はボロいアパート。子供がいなくて少し寂しそうな雰囲気・・・と予想と違う現実の姿に、現実に引き戻された主人公なのでした。子供とはいえ、自分勝手!とイライラした。勝手に理想を抱いて、勝手に幻滅しただけでしょー。角煮、あっためて食べたらいいのに・・・。
「肩の荷(+9)」主人公は中年にさしかかり、歯の隙間が気になる会社員。かつての上司が会社を去り、自分がリーダーとなったが、果たして部下は自分についてきてくれるのだろうか?いいチームを作れるだろうか?老いってどうしようもないよなあ、と読んでて悲しい気分になったのですが、部下たちがいいプレーを見せてくれたので、良い読後感でした。いい部下たちです。しかし、飲み会がモツ専門店だったら、私なんとしてでも行きません。
「魚のヒレ」ずっと気になっていた彼女の部屋に上がりこむことができた主人公。ここぞとばかりにアタックを仕掛けるも、「おもしろい話を気に入ったら、考えてもいいよ。」という彼女に翻弄されることに・・・。まあ、魚のヒレと豚のヒレは違うよね・・・。うーん、なんか、普通の大学生の話で、どうでも良かったです。笑。
「ほんの一部」塾に新しい子が来た。彼女の夕飯はいつもサンドウィッチ。でも、主人公がコンビニで買うハムのサンドウィッチと、彼女のサンドウィッチに挟まっているハムは違う。それは生ハムというらしい。・・・うーん、最後の妙にエロティックなシーンがいただけない。なんか、気持ち悪かったです。生ハムってそんな生々しいイメージ?しょっぱいイメージでしたけど。ちなみに、生ハムとメロンは別がいい派です。
全体的にもっと肉料理のおいしさが醸し出されていればなーと思いました。


「wonderful story」

/PHP研究所

昔話でおなじみの犬もいれば、地名の由来になった犬もいる。はたまた、悪者が連れてきた犬もいるし、人のために働く盲導犬や、やたらと見つめてくる犬も・・・。犬にちなんだペンネームに改名(!?)した人気作家5人による犬をテーマにした5つの物語。

犬も好き!本も好き!・・・なら読むしかないでしょ!
遊び心いっぱいの試みで、こういう企画っていいなあと思います。
「イヌゲンソーゴ」(伊坂幸犬郎)伊坂さん、さすがの直球です。何せ犬が主人公。ムサシとポチの大冒険。犬にまつわる昔話や童話ってたくさんあります。犬は人間のトモダチだもの。最後の颯爽とした黒ラブがカッコ良すぎる。黒ラブってシュッとしてるよねー。
「海に吠える」(犬崎梢)うーん。これは・・・。さわやかなお話だったんですが、私が思っているのとは違うドッグフレーバーでした。似たような話(湊かなえさんの作品)を思い出したせいか、新鮮味もなかったな。
「バター好きのヘミングウェイ」(木下半犬)バターといえば・・・犬!って何年前の下ネタだよ!そういう話と思わせて、実は再起の話だったのです。まあ、そのままバター犬の話になっても困ったちゃんだったので、良い落としどころだったと思います。シェパードは好きだけど、この犬につなげる無理やり感が好きになれない・・・。
「パピーウォーカー」(横関犬)盲導犬の話としても、ミステリーとしても成立していて、おもしろかったです。去年あったお仕事中の盲導犬を傷つけるという、ひどい事件を思い出しました。彼も家庭の事情があったとはいえ、ひどいことをしたものです。主役のコンビがいい感じ。
「犬は見ている」(貫井ドッグ郎)振り返れば犬がいる・・・という言葉の響きだけなら、のどかな感じがしますが、実は犬に監視されているとしたら・・・?友人の恋人との破局話から一転、陰謀めいた話につながり、意外にもこれはサスペンス!というおもしろさでした。オカルト好きでも、カッコ良かったらもてると思うけどなー。