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読書の記録です。

「ミステリマガジン700【海外篇】」

/早川書房

日本一位・世界二位の歴史を誇るミステリ専門誌“ミステリマガジン”の創刊700号を記念したアンソロジー“海外篇”。

翻訳モノはとっつきにくいのでは・・・という私の予想をひっくり返す読みやすさ。色々なテイストが混ざっていた国内篇に比べ、直球ミステリーが多かったです。
簡単に印象に残ったものの感想を。
「決定的なひとひねり」(A.H.Z.カー)女は強い!強盗がやられるシーンは爽快でした。
「憎悪の殺人」(パトリシア・ハイスミス)まあ、閻魔帳をつけたい気持ちはわからんでもない。最後に燃えさかる炎の迫力はすごい。で、1人だけ生き残ったのもすごい。笑。
「マニング氏の金のなる木」(ロバート・アーサー)たぶんお金を横取りされるんだろうなあ、という予想は当たったけど、それだけではない後味のいい話。道徳の教科書に載ってそう。
「二十五年目のクラス会」(エドワード・D.ホック)キレイにまとまりましたが、どうして当時気付かなかったんだ!って思うよね。笑。水着、それが彼を惑わせたのか!?(←違うって)
「拝啓、編集長様」(クリスチアナ・ブランド)まさかの大逆転!ウマイ!
「名探偵ガリレオ」(シオドア・マシスン)こちらはホンモノのガリレオ先生です。実験の最中に起こった殺人事件。疑われるガリレオ先生!・・・お父さん、彼氏を殺すよりも男を連れ込んだ娘をビンタしてください。
「子守り」(ルース・レンデル)泥沼不倫の結末は、大抵決まっているのだ。納戸に閉じ込められるシーンは怖かった!子供は何でも知っている・・・。ああ、怖い。
「リノで途中下車」(ジャック・フィニィ)長いうえに、何回もやめようと思っては、結局賭けて損をする流れが印象に残っている。予想に反して、少しの負けで終わっているところがお洒落な雰囲気。私は一文無し→人生の破滅コースだと思ってたんで。
「肝臓色の猫はいりませんか」(ジェラルド・カーシュ)こちらは異色作。捨てても捨てても戻ってくる猫。ホラーテイストです。肝臓色の猫がどうしても思い浮かばず、出てくるのはレバ刺しのみ・・・。
「十号船室の問題」(ピーター・ラヴゼイ)謎が解けた・・・と思ったら、沈んじゃったよ!笑。タイタニック号だから仕方ないんだけど。そもそも沈む船じゃなくたっていいじゃない・・・。
「犬のゲーム」(レジナルド・ヒル)ボーダー・コリーが出てきた!すいません、それだけです・・・。
「フルーツセラー」(ジョイス・キャロル・オーツ)亡くなった父は、貯蔵庫で何をしていたのか?色々なものごとが、ひとつの事実を指し示す。自分の親が性犯罪者とか、カンベンしてよ!ちゃんと証拠隠滅しとけよ!って私だったら思う。彼らは扉を開けるのだろうか。何を見るのだろうか。


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「ゴーストハント4 死霊遊戯」

小野不由美/メディアファクトリー

新聞やテレビを賑わす、緑陵高校の度重なる不可解な事件。マスコミは集団ヒステリーとして結論づける。生徒会長・安原の懇願を受け、SPR一行が向かった学校には、様々な怪談が蔓延し、「ヲリキリさま」という占いが流行していた。数カ月前に起きた男子生徒の自殺と、一連の事件との関係は?調査が難航するなか、麻衣が不気味な夢を見る。

小野不由美さんの本も色々気になっているのです・・・。「十二国記」とかホラー系とか・・・。とりあえず、とっつきやすそうな「ゴーストハント」シリーズを読んでいます。4巻にして初めての感想。
学校の怪談って、前にも読んだような・・・。高校で怪談騒ぎが多発するので除霊の依頼があり、例によって愉快な仲間達と一緒に除霊・・・というおなじみのパターン。またもやコックリさん・・・に似たヲリキリさま?みたいな占いが発端。確かに流行りました、コックリさん。私の場合は1回で飽きたけど・・・。
前と違って、今回は麻衣がかなり危険な目にあっていたのが意外だったなあ。4巻目にして、霊能力の片鱗を見せ始めた麻衣だけど、これまではただの素人。危険な目にはあわないだろうと思っていたのですが・・・。学校に乗り込むところは、ちょっとヒヤッとしました。こんなに無謀だったかしら?と。実は何も考えてなかったという、いつも通りの麻衣さんでしたが。笑。ぼーさんがカッコ良く見えました。
話の方は、怪談の調査に乗り出したSPRは、やがて事態の真相に気付きます。多発する怪談の目的は、霊を共食いさせより大きな悪霊を作り出し、ある教師を殺すことにあったのです。ここまでたどり着く調査がまどろっこしい!ミステリ好きが調査のシーンをめんどくさがってはいけないのですが・・・。私の中で、ホラーってもっと粘っこくて何でもアリなんです・・・。調査とか理屈は関係ないって感じ・・・。
最後は、ナルの機転で生徒全員の偶人(身代わり)を作ることによって、呪いが本人に返るのを防ぎます。先生にそのまま呪いをかけちゃえば良かったのに!(←ひどい)まあ、それくらい悪い印象だったということでー。
調査対象の高校教師が言ったこと、私も2巻以降ずっと気になっていました。麻衣って調査のときは学校行ってないのかな?って。本人の談では、許可を得ているから大丈夫らしいのですが、バイトで休みの許可なんか出るか?もしくは出す学校って大丈夫?両親は知ってるの?など、余計に疑問が深まりました。


「注文の多い注文書」

小川洋子・クラフト・エヴィング商會/筑摩書房

ないもの、あります。
小川洋子による注文書・受領書とクラフト・エヴィング商会による納品書のコラボレーション。

図書館で見つけて、「あわわわ、こんな本が出てたのかー!」と興奮して借りてきました。笑。思いがけない嬉しい出会いがある図書館は、やはり私にとって大切な場所です。
小川さんはもちろん大好きな作家さんですが、クラフト・エヴィング商會さんは名前と「どうやらすごいものを作るらしい」というイメージしかありませんでした。ご夫婦のユニットで、著作と装丁を行っているそうで・・・。吉田篤弘さんってお名前、見たことがあるなあー。
「人体欠視症治療薬」依頼者の女性は、恋人に触れた部分が見えなくなる病気「人体欠視症」にかかった。この治療薬を注文される。見えなくなるのは、好きな人だけ。触れなければ見えるけれど、触れずにはいられない。なんてロマンチック!彼女は彼と別れたあとに病気が治り、薬は必要なかった、というオチすらロマンチックです。おばちゃん、切ないわー。元になった小説「たんぽぽ」(川端康成)。
「バナナフィッシュの耳石」サリンジャーのファンの集いには2つの派閥があり、物語を深く読みこむ“梯子派”と広く俯瞰する“グライダー派”がある。梯子派の会長は、サリンジャーはバナナフィッシュの耳石から物語を編み出す作家ではないか?という推論のもと、バナナフィッシュの耳石を注文する。その後、耳石熟成判定キットなるものが納品されるが、依頼者の会長は梯子を持って出たまま行方不明・・・。会長ー!梯子派とグライダー派がそこまで仲が悪かったなんて・・・。自分でバナナフィッシュを探しに行ったのかもしれませんが、もう悪い方の想像しかできません。バナナフィッシュって架空の魚なんですって。危うく信じるところでした。ですよねー。元になった小説「ナイン・ストーリーズ」(サリンジャー)
「貧乏な叔母さん」一緒に暮らしていた祖父が亡くなり、元気をなくした彼の背中に、いつの間にか叔母さんが棲みついた。叔母さんは彼に本を読むよう励まし、彼が元気を取り戻した頃に消えてしまった。他の誰かの背中にいるのか?それとも・・・。そんな彼が依頼者。実はこの依頼は、時間差郵便セットという手紙に書かれており・・・えーっと、わかりません!笑。なんか、時間差で未来に届いたのかなあとか思ったんですけど、なんか、なし崩しで読み終わりました。叔母さんがはげますシーンはすごく好きなんですけど・・・。元になった小説「貧乏な叔母さん」(村上春樹)
「肺に咲く睡蓮」男は指圧師で、治療院を開いている。顧客で人間に寄生する植物を専門に収集する、弟子丸という人物がいたが、彼は亡くなってしまった。生前、「肺に咲く睡蓮」を探していた弟子丸さんのために、これを探して欲しい、という依頼。実は、ほかの同業者も「肺に咲く睡蓮」を探しに行く途中で亡くなっていた。弟子丸さんの骨にも、睡蓮の咲いたあとがあったのだ・・・。人間に寄生する植物。妖しく、エロティックな響きです。小川さんの静かで冷たい筆致が、この妖しい雰囲気とマッチしてとても良かった。これは、映像で見たいなあ。元になった小説「うたかたの日々」(ボリス・ヴィアン)
「冥途の落丁」夫が買ってきた内田百閒「冥途」の初版本。この本は落丁本で非常に貴重なものだった。しかし、この本を読むうちに夫はおかしくなり、日課の卓球の途中で突然死した。この本を引き取って欲しいという依頼。死んだ娘が、お父さんを呼んだのでしょうか・・・。怪談のような一作。モノが本なだけに、この中で一番ありそうな商品。オリジナルがどんなお話か気になります。元になった小説「冥途」(内田百閒)
小川さんの文章はもちろんステキ!な上に、実際にありそうな存在感を漂わせる写真も素晴らしい!
さて、まだ書き残した感想はありますが、今年はここまで。


「水族館の殺人」

青崎有吾/東京創元社

夏休み中盤に風ヶ丘高校新聞部は、取材で市内の穴場水族館に繰り出した。館内を館長の案内で取材していると、サメの巨大水槽の前でサメが飼育員に喰いつくところを目撃する。駆けつけた神奈川県警の仙堂と袴田が関係者に事情聴取していくと、すべての容疑者に強固なアリバイがあることが判明。仙堂と袴田は、仕方なく裏染天馬に応援を頼むことにする・・・。

オタク探偵、再び!・・・でも、前よりオタクのインパクトがなかったというか。おそらく、興味ないネタはスルーしてるからだと思います。喰いつき悪くてすいません。
水族館が舞台のミステリーには、たまーにお目にかかりますけど、水族館大好きな私としては、あんまり血なまぐさい事件は読みたくないっていうか・・・。特に今回は、上半身サメに食べられちゃってます。あんなの見たら、トラウマになりそう・・・。
事件当時、現場にいたのは新聞部の面々で、柚乃は卓球部の試合中。駆けつけたお馴染みのコンビは、容疑者のアリバイを崩すことができず、渋々天馬の協力を求めることに。この時点で、協力というより捜査委託。新品のクーラーに釣られた天馬だが、謎を解明することに関しては、並々ならぬやる気を見せます。柚乃もびっくり。
最初の犯行時刻とアリバイは、トリック(ペーパー!)を見破ったことにより、あっけなく崩れる。さらに、ここからモップとバケツに目をつける天馬。これはすごい!言われてみれば・・・なんですよね。自分では思いつかないです。一度推理を見直す必要があったものの、そこからは怒涛の謎解きが始まります。使用後の紙はどうしたのか?絞られる容疑者。そして決め手となったのは、腕・・・。これでもかと畳み掛ける理詰めの推理は、読んでいて楽しかったです。それだけに、最後の動機はちょっと・・・でした。個人的な恨みは無かったけど、個人的利益の追求のために・・・って感じですかね。
前回の生徒会副会長がパシリと化している!笑。こういう使い方は結構好きです。なんか、憎めないキャラに仕上がりましたね~。今回は謎意外にも、いかにも!な天馬の妹や、天馬と高校卓球界のクイーンとの関係や、家庭の事情やら色々伏線らしきものが出てきました。うーん、私はその辺どうでもいいんですが(笑)、シリーズとして定着させること自体は良いと思います。
謎解きは申し分ないのですが、次の「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」もそうだし、これまでの2冊でも、ジャンルを問わず他作品のパロディ・引用が目立ちます。もちろん、悪いことではないのですが・・・。そろそろオリジナルのネタで勝負した方がいいような気がするなあ。


「人間は、嘘をつきますからね」


「光圀伝」

冲方丁/角川書店

父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。

今年が終わってしまう前に、最後の悪あがき・・・で感想を書いてます。
「天地明察」で華麗に方向転換をされた冲方さん。今後は時代小説だけ書かれるのかなあ、と思っていたのですが、理想は歴史小説・SF・現代ものを並行して書けるようになること、だそうです。私は「カオスレギオン」が好きだったのですが、ラノベ系はもう書かれないということなのかな・・・。残念。そういえば「スプライト・シュピーゲル」はついていけなかった・・・。
さて、今回の主人公は、「水戸黄門」でおなじみの水戸光圀です。「天地明察」の渋川晴海に比べて、知名度の高い光圀ですが、テレビドラマではなく歴史上の人物として、どのような人だったのか、ということを説明できる人はあんまりいないのではないかと思います。(たくさんいらっしゃったらすいません・・・。)
そもそも、光圀は本来は家督を継ぐべきポジションではなかった、ということも知りませんでした。彼の兄が幼少時、病気にかかって生死の境をさまよった時に、次の世継ぎとされたのが光圀だったというわけです。兄は病気に勝ったけれども、長男を差し置いて世継ぎは自分のまま・・・。道理に反しているのではないか、これは不義ではないかという苦悩。生涯、光圀の心にあり続けた思いです。自分の子供と兄の子供を交換して、兄の子供を世継ぎとして育てることで、正しい流れに戻した・・・とされていますが、今では考えられない。子供って、道具なんやなーとしみじみ思った。
「水戸黄門」でおじいちゃんのイメージが根強く残っていたために、本で語られる光圀とのギャップに驚きました。獰猛な虎のような武人でありながら、詩をこよなく愛する文人の繊細な感性を持ち、若いころはハメを外し、交友範囲が広く、家督を継いでからは精力的に事業に取り組むエネルギッシュな人。近しい人を亡くす悲しみに打ちひしがれながらも、次世代への希望を忘れなかった光圀。こんなパワーに満ちあふれた人だったのか!
最後の方で、藤井紋太夫という目をかけていた家老を、光圀は自分の手で殺害する。なぜ、自分は彼を殺したのか各章の最後で光圀は自問する。すべては大義のもと・・・。うーん、当時の人はきっと使命感がすごくあって、マジメっていうか・・・、思いつめちゃう感じだったのかなーと思いながら読み終わりました。現代の私達が使命感を持ってないとか、不真面目ってわけではなく・・・、昔に比べて逃げやすくなったのかなあと。逃げること、悪いことじゃないですから。
光圀のまわりで、親しい人たちがばったばったと亡くなっていくのですが、泰姫が死んだ時が一番悲しかった!光圀の良き理解者がやっと現れたーと思ったのに・・・。左近とのプラトニックな関係も、良いなあと思いました。
光圀が生涯を賭けて取り組んだ史書編纂。人の命は尽きる。しかし、人の営み、生と死は連綿と続いていき、その人の生きた証は史書として後世に伝えられていくのである。光圀もその1人となったんだなあと思うと感慨深いです。時代の先を歩き続けた水戸光圀の生涯を堪能させていただきました。
他にも色々あったのに、なんだか書き足りない感じです。未読の方はぜひぜひ読んでみて下さい!