「鹿の王(下) 還って行く者」
不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。何者かに攫われたユナを追うヴァンは、謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことになる。同じ頃、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。ふたりの男たちが、愛する人々を守るため、この地に生きる人々を救うために選んだ道は?
待ってましたの下巻です。
ユナは何者かにさらわれ、ヴァンは毒を受け昏倒。ホッサルとマコウカンは訪れた村で襲われ、気がついたマコウカンの前に姉が現れる。・・・というひきで終わった上巻。下巻では、ヴァンがサエとともにユナの痕跡を辿ります。ななな、なんと、いつの間にやらいい感じじゃないですかお二人さん・・・!マコウカンとのカップルを予想していた私をあざ笑うかのような展開です。ここ来たかー!と意外に思ったけど、二人とも落ち着いているだけに、円熟味を帯びた夫婦のようだなあと納得しました。無事にユナを保護し、とうとうホッサルとヴァンの物語が交錯します。生まれも育ちも肉体派か頭脳派かでも、全く違う性質の2人ですが、人間としての誠実さっていうのかな?なんか、直感的に意気投合したみたいで良かったな~。2人ともイイ男なんだけど、私は断然ヴァン派だな!(←そんな派閥は存在しない。)
まあ、話は戻って、アカファ王を信じて反旗をひるがえそうとしていた民族があったのだけど、現実的には大国に隷属しなければ立ち行かなくなっている現状で、その民族はアカファ王にとって危険分子となっていたわけです。そこで、自分達が暗殺されようとしていることを理解した彼らは病原菌を使って最後の抵抗にうって出ます。黒狼病の病原菌を保有する、狼と山犬の相の仔(ロチャイ)の意識にシンクロして集団をコントロールする力を持つ者がいたんですね。その力は誰にでも宿るわけではなく、偶然ヴァンに宿ることになったもよう。古里を奪われ、またもや手痛い裏切りにあった彼らの復讐心もわかるが、その仕返しに犠牲になるのは、やはり罪のない人々。現在の戦争の復讐の連鎖を連想しました。本当に戦争をしたい人は一握りなのに。戦争したい奴だけどっかで勝手にやればいいのに。
ヴァンに宿った力は抜けることはなかった。ヴァンはその力とロチャイたちと共に生きていくことを選ぶ。・・・誰にも迷惑のかけない深い森の中で。ヴァンがいた部族の中では、敵にその身をさらし、仲間を逃がす鹿を王とたたえるのだという。その男気に感動するとともに、ごく自然に彼と生きることを選ぶ人々がいることにも救いを見出せたような気がした。状況は楽観できないが、ヴァンが一人ぼっちじゃないことに、なんだかすごく安心した。
最後に、国同士のアレコレが放置のまま終わったところが肩透かしでしたが、本筋ではないし、あまりくどくなってもアレだし・・・。
あとは、ファンタジーの世界における医学の位置づけが確立されているところもすごいなと思いました。私達が生きているいま、解明されてないことも、まだまだたくさんありますが、反対に昔に比べて解明されていることも多いと思います。どこまでが可能で、どこまでが解明されているのか。一般的に病気はどのように捉えられているのか。治療法はどの方法が一般的で、先進的な考え方はどのようなものなのか・・・。そのサジ加減が難しかっただろうなーと思うとともに、絶妙な医学観を作り上げられているなあと感心しました。「どうして人は病になるのか?」という問いは、これからもたくさんの人が感じる疑問だと思います。個人的には、基本的に運かなあと思いますけど・・・。そうは割り切れないのが人間ですね。
鹿ってかわいいよね・・・。口モグモグしてて・・・。
PR