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読書の記録です。

「オレたちバブル入行組」

池井戸潤/文藝春秋

大手銀行にバブル期に入行して、今は大阪西支店融資課長の半沢。支店長命令で無理に融資の承認を取り付けた会社が倒産した。すべての責任を押しつけようと暗躍する支店長。四面楚歌の半沢には債権回収しかない。

知らない人はいないであろう、ドラマ「半沢直樹」の原作です。ものすごく今さらですが、ドラマと原作がほぼ同じ道筋をたどるので、「ああ、こういうシーンあったなあ」と思い出しながら楽しむことができました。
原作の半沢が、ドラマより性格悪いってのは前知識としてあったんですが、本当に性格悪いなー。性格悪いっていうか、ひねくれてるっていうか・・・。後半、子会社の社長をいびるところなんか、もう、「その筋」の人!笑。銀行の人がこんなこと言っちゃっていいのかな・・・と思ったんですが、半沢の導火線が短く、よく怒っているという性格にマッチした物言いなのかなあ。ドラマの半沢はスマートで熱血!正義の人!って感じですが、小説の半沢は、怒り、反骨精神、コンプレックス、粘着気質ってな感じですかね。
仕事したことある人なら、同僚や上司に仕事のミスを押し付けられた・・・っていう経験があると思います。しかし、ここでは仕事のミスどころか、上司の不正の尻拭いを押し付けられた!弾圧される半沢。(私ならここら辺で心が折れます。)しかし、この男はやられたらやり返す、不屈の精神を持つ半沢直樹!これは許せん!と闘志を燃やします。不正の証拠を手に入れたって、すぐに楽にはしてやらない!真綿で首を絞めるように、じわじわと精神的に追いつめます。(たぶん半沢さんはサドっ気があると思う。)ここで奥さんの名前を使うのに???となりましたけど。脅迫するのに奥さんの名前使うかなあ?半沢家は夫婦不仲?話の展開はスピーディで、勧善懲悪モノとして、わかりやすくスッキリと終わりました。そして最後のエピローグ・・・あれっ、お父さん生きてるやん!確か原作ではお父さん首吊り自殺してましたよねえ・・・。
キメ台詞の「倍返しだ!」は、この本の中では1回しか出てこなくて、これを多用したのはドラマの演出勝ちだなーと思いました。次の「オレたち花のバブル組」が旅館だったかな?赤井英和と壇蜜(の演技力のなさ)のインパクトがすごすぎて、旅館編は最後の土下座シーンしか印象に残ってないんだよなー。赤井英和の社長役は本当にハマってたなー。
国税はあんまり存在感が無かったんだけど、けちょんけちょんにされてたのはおもしろかった・・・。あと、私の好きなシーン「都合のいいことばかり書いてんじゃねえぞ!」があって、嬉しかった。あのシーンはおもしろかったなあ。
ドラマの続編、待ってるんですが、なかなか始まりませんねえ。まさか・・・映画?


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「少年検閲官」

北山猛邦/東京創元社

旅を続ける英国人少年クリスは、小さな町で家々の扉や壁に赤い十字架のような印が残されている不可解な事件に遭遇する。奇怪な首なし屍体の目撃情報も飛び交う中、クリスはミステリを検閲するために育てられた少年エノに出会う。書物が駆逐される世界の中で繰り広げられる、少年たちの探偵物語。

北山さんの本も色々気になっているのです!ああ、もっと早く読めたらなあ・・・(切実)。
実は、名探偵・音野順シリーズの方を読みたかったのですが、本の題名をよく覚えてなくて(すいません)、えいやっと借りてきたら見事に違うシリーズでした。いつものことです。中身ちゃんと見ればいいのにね。
気をとりなおして、「少年検閲官」シリーズから読み始めることにしよう。
この世界では、書物は禁忌とされ見つかったら燃やされます。家ごと焚書です。そのため、人々はその昔「本」というものが存在したことは知っていますが、実物を見た人は数少なく、本ってどんな形してるの?という人がわらわらいます。現実、本ってなあに?ってことは無いので、何か想像しにくいシチュエーション・・・。しかし、後になって「本ってどんなもの?」という疑問が大きく関わってきます。主人公は、ミステリを探して世界を旅するクリス(イギリス人)。クリスが何故日本に来たかというと、日本には焚書を逃れたミステリが、数多く眠っていると考えられているためです。で、まあ、「ミステリ」と聞けば本を連想しそうなんですが、この場合のミステリはミステリのエッセンス(トリック?)を詰め込んだ「ガジェット」と呼ばれる宝石。クリスは立ち寄った村で事件に巻き込まれるのですが、そこでこのガジェットを処分する「少年検閲官」エノに出会うのです。
冒頭では、目を切り裂かれた少女と少年の話が。幕間では少年が拾った「少女」がだんだんと原型をなくしていく様子が描かれます。不思議な雰囲気で、ちょっとグロくて・・・。でも、少女は実は○○だったということが、謎解きで明らかになると、「なーんだ」ってな感じなんですが・・・。人間を間引くように、定期的に人を殺し首を切り取っていく「探偵」。本来事件を解決するはずの探偵が犯人。その正体も意外でしたが、犯人の目的も意外でした。本がない世界ならではの動機ですね。でも・・・、人間に行き着く前に、草とか葉っぱとか樹皮とか・・・いろいろあったんちゃうん・・・と思わざるをえない。結構なインパクトでした。
おっと、そういえばクリス君はなぜ「ミステリ」を探しているんだっけ?お父さんの何か・・・あったような・・・。と本筋をド忘れ。


「塗仏の宴 宴の支度」

京極夏彦/講談社

「知りたいですか」。郷土史家・常島なる男の蠱惑的な囁きは、関口巽を杳冥の中へと連れ去った。昭和十三年、伊豆韮山付近の集落でおきたという大量殺人は果たして“真実”なのか。かたや“死にたがる男”村上兵吉を助けた朱美は、妖しき結社「成仙道」の勧誘手口を知るが、そこにもうひとつ疑惑の影がさす。

気分が乗ってきたので、百鬼夜行シリーズ一気読みをしようと目論んでおります。しかし、いきなりの2部構成。分冊文庫版で読んでいるので、計6冊ですね。・・・6冊!?先が思いやられます。
消えた村を探して欲しいという奇妙な依頼が発端となって、関口がまず事件に巻き込まれます。その消えた村・戸人(へびと)村があったと推測される集落(現在は別の村らしい)へ調査に向かい、郷土史家を名乗る堂島という男と行動を共にします。そして、関口さん、くらくらなっちゃったあとに、全裸の女性の死体と一緒に見つかって、殺人の疑いで御用となってしまいます。
あらまあと思っているうちに、今度は朱美さん(「狂骨の夢」に出てきた人?)登場。自殺未遂をした男を助けるが、彼は「みちの教え修身会」の信者で、その辺のごたごたに巻き込まれちゃった。見え隠れする薬屋の影!敦子さんは韓流気道会という武術?集団に付け狙われ、成り行きで華仙姑乙女を助けたことから事件に巻き込まれる。榎木津さんも登場。「クラゲ」とは?木場もワケありの女性を助けることになり、条山房という漢方薬の調剤師に助けられる。藍童子と呼ばれる少年も出てきたりして、超能力者バトルロイヤルという感じです。途中から、誰がどこの組織の人なのか、こんがらがってきてしまいました。まさか・・・催眠術で最後まで突っ走る気では・・・と若干心配になりました。まあ、これまでも似たようなモンだったといえば、そんな気もするけど・・・。
最後に茜さんが登場しましたが、あっという間に殺されてしまいました。うーん、特に感慨も無いですが・・・。なぜ茜さんが再登場してまで殺されなければならないのか。なぜ、関口がはめられたのか。そのあたりが気になります。
今回はほぼ顔見せと小競り合いで、大きな話の展開はありませんでした。なんとも壮大なプロローグです。長すぎる・・・!エノさんが登場しなければ、とても耐えられなかったでしょう。関くんはずっと、うだうだ、もぐもぐ、はっきり物を言わないから警察に頭がおかしい人だと思われているし。「自分が殺したかも・・・。だって見てたから・・・。」とか言い出すし。大丈夫か、関くん!?って感じでした。京極堂、早く助けてあげておくれ。笑。


「人生相談。」

真梨幸子/講談社

昔のあの出来事、セクハラにあたるのでしょうか?西城秀樹が好きでたまりません!占いは当たるのでしょうか?すべては“あなたの悩み”から始まった。何の関係性もなさそうな「人生相談」。その裏にあるものは・・・。

真梨さんの本は読んだことがないのですが、「イヤミスの名手」という二つ名?は良く聞いていたので、何となく避けてました。笑。「イヤミス」っていや~な気分になる後味の悪いミステリーだと思ってるんですが、合ってるのかな・・・。でも、私、後味の悪いラストもそんなに嫌いではないのになんで避けてるんだろう?なんだろう、宣言されるともう結末がバッドエンドだと分かってるから読みにくいのかなー。ものすごいのが出てきそうな感じがイヤなのかな?と複雑な乙女心を考えてみたりしつつ、母親からまわってきたので読んでみました。
そしたら、これがおもしろかった!これはイヤミスではない・・・感じ。
ネットをフラフラしてると、相関図を書いておられる方がたくさんいて嬉しかった~。私も書いたんですよ~。相関図書いたのなんか何年ぶりでしょう!いわゆる連作短編集なのですが、登場人物同士のつながりがややこしいので、いったん整理したくなるんでしょうね。一気読みがオススメです。
最初は複雑な家庭のいざこざ?なんだかキナ臭いなーという話から、出版社の人間関係。作家の下積み時代まで話は遡って、最後は占有屋やらマネーロンダリングやら・・・そして、あの人が実はあの人だった!と、お話がコロコロ転がっていきます。主軸は原田家の騒動の真実と、人生相談コーナー担当の川口寿々子かなーと思ってます。人間関係を考えながら読むだけでもおもしろかったです。良く構成が練られてるなあ。(←えらそう)
残念な点を挙げるなら、これだけ枝葉の多い話なので、とりこぼしが多いことかなあ。私が気になる人が何人かいまして・・・。一人目。現在の原田家に住む占有屋の息子・小坂井剛。彼はキャバ嬢のカノンに入れあげて、同じ店で働くナオミ(この人が実は昔原田家で一緒に暮らしていたふみちゃん)に騙されて1000万円のバーキンをプレゼントするのですが、これがニセモノであることが発覚し、カノンは大恥をかくことに。カノンは怒りの炎をメラメラ燃やすのですが、当の剛はこれを知らない(と思う)。ここで何かひと悶着あったのかな?と。
二人目。エスティシャンのメグミ。彼女は作家・樋口義一の担当である佐野山美穂のいきつけのエステで働くエスティシャン。美穂はメグミを気に入り、毎回指名するけれどメグミは彼女のトークに辟易していて苦手な客と思っています。ある日、美穂はメグミに実家から送られてきたネギをおすそ分けする(二人は同郷)のですが、実はメグミはネギアレルギー。しばらくして、美穂はエステの店を変え、その時にメグミがネギアレルギーで亡くなったという記述が出てきます。・・・あの時のネギ?これはご想像にお任せします、かなあ。
他にも、あの人どうなったの?っていう人が。隣人の嫌がらせのためにアパートを引き払って帰ってきた米田美里。実は実家も隣人の嫌がらせを受けていた。・・・っていうか、鍵閉めましょうよ、お母さん!死相が出てるってことは死んだのかなあとか、武蔵野寛治夫妻のバトルの結末とか・・・。全てをスッキリさせることは無理でしょうが、モンモンしてしまいました。
色々な人が出てきたけど、一番アホなのはセクハラメールを全社員に送信した、葛西健人でしょう。笑。


「絡新婦の理」

京極夏彦/講談社

房総の女学校・聖ベルナール学院の生徒・呉美由紀は校内に潜む背徳の行為と信仰を知って戦慄する。連続目潰し魔に両目を抉られた教師・山本純子は呪われて死んだのか。そしてもう一人、教師の本田幸三が絞殺され、親友・渡辺小夜子が眼前で校舎から身を投じた

久しぶりの京極さん。京極堂シリーズじゃなくて、百鬼夜行シリーズなんですって。知りませんでした。シリーズなのに、途切れ途切れのペースで読んでいるため、毎回記憶がリセットされています。今まであんまり不便を感じなかったのですが、今回は「これ誰?」が多すぎて反省しました・・・。主要メンバーの4人(関口先生、京極堂、木場修、榎さん)くらいはさすがに覚えてましたが、敦子さん(京極堂の妹)や鳥口くん、伊佐間なんかからっきしでした。あんなに分厚い本を読んだのに全然覚えてないなんて、空しいですね・・・。
しかし「これ誰?」と思いながらも、楽しく読めました。シリーズ中、おもしろい部類に入ると思います。榎さんの出番も多いし。2つの事件を主軸に、関係者が錯綜し、やがて大きなひとつの絵が描き出されるのです。ひとつは、聖ベルナール学院を主な舞台とする連続目潰し魔。そしてもうひとつは、千葉近郊から広がる絞殺魔。関連性がないように思われた二つの事件だが、織作家を媒介に同じ背景を持つ事件であることが判明する。事件を裏で操っている真犯人がいるのだ。
この巧妙に張り巡らされた伏線を、京極堂は蜘蛛の巣にたとえる。動き出した事件は止めることができず、自らも駒の一部であると京極堂は語る。憑物落としは事件を収束させるのではなく、かえって結末を早めかもしれないとしつつ、依頼を受けることになります。結果的に、早めただけになってしまったのは残念でしたが・・・。
今回は、冒頭が犯人との対話から始まっており、犯人は女性であるという点はハッキリしていました。そこで、織作家の姉妹のうちの誰かが犯人やなとそこまでは当たりがついたのですが・・・。犯人のくせに、えらく被害者ぶった口調はなぜに?と思っていましたが、まあ、本人が自分の居場所を得るためと言っていたので、そうなのでしょう。半分自業自得(家出して娼婦をしたのは自分の責任)で、あとの半分被害妄想入ってんじゃないの?というのが、私が考える動機なのですが・・・。自分の思うように、ありのままに生きている人間なんてなかなかいません。みんな、もがきながら生きていると思います。本来自分が向き合い、克服していくべきもの・・・例えば娼婦であった過去や、夫婦生活が送れないこと、弱い自分・・・といったものを、他人を殺すことで無いものにしてしまおうというその腐った性根が気に入らない。というわけで、アンチ茜さんな私です。織作家自体が異常な一族だということはわかってますし、それぞれ父親が違う生い立ちもかわいそうだとは思いますが。なんか、卑怯だよね。
視線恐怖症もどないやねんと思いましたが、葵の殺害シーンが一番インパクト大でした。首絞めながらぐーるぐる回るって・・・。どんな怪力なの・・・。あっけにとられました。笑。あと、今回の京極堂さんのウンチクは、キリスト教と男女差別について(ジェンダー論?)。男女の格差・・・自分も考えたことがありますが、今は男と女だけじゃなくて、色々な立場の人がいて、なるべく他人の立場を尊重しあいながら仕事ができたら良いなあと思います。きれいごとです。
ラストと冒頭の桜が舞い散るシーンはとても良かった。美しい。
それにしても、ドアが2つ以上ある部屋って嫌だなあ。茜さんの部屋にいたっては、ドアが8つあるっていう・・・。いらんいらん。笑。