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読書の記録です。

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「鳩の撃退法」

佐藤正午/小学館

かつての売れっ子作家・津田伸一は、いまは地方都市で暮らしている。街で古書店を営んでいた老人の訃報が届き形見の鞄を受け取ったところ、中には数冊の絵本と古本のピーターパン、それに三千万円を超える現金が詰め込まれていた。「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」転がりこんだ大金に歓喜したのも束の間、思いもよらぬ事実が判明する。

本の紹介がおもしろそうだったのでチョイス。佐藤さんの本は「身の上話」に続いて2作目です。
主人公は直木賞をとるも、今は落ちぶれた40代のオジサン・津田。彼は職を転々とし、今は東北?でデリヘルの運転手をしている。彼は古書店の店主の遺品であるキャリーバッグ(もともと津田の所持品)を受け取るが、中には絵本と三千万円相当の札束が入っていた。しかし、ふとしたきっかけでそれが偽札である可能性が高いことが判明する。裏社会の人間から逃れ、東京へ戻る津田。同時に裏社会の「あの人」が、ある一家の失踪事件とダムからあがった死体に関係していると考えた津田は、それを小説に書き始めるのだった・・・。
この本は、津田の書いている小説、という形をとっていて、一家の失踪事件や晴山君の死体の件については、津田の想像の域を出ません。そもそも、これ自体が小説なわけで、フィクションにホントのところどうなの?とかナンセンスなんですけど・・・。何が起きたのか、答え合わせをしたくてムズムズしました。偽札の符丁が鳩っていうのが良かったなー。スピンの手提げ金庫から始まって、ピーターパンまでたどりつくまでの鳩の移動経路も、おもしろかったです。実は途中でかなり読むスピードが失速したのですが、最後の追い上げがすごかったですねー。話のあらすじと構成は好きだったんです・・・が、残念ポイントがいくつか。
まずは、主人公のダメさ加減。挙げればキリがないんですけど(笑)、一番イヤだなあと思ったのが、前の彼女からの手紙のくだり。もうお互いに愛がなかったとしても、少しは人間らしい対応ができないもんかね?と呆れてしまいました。とにかくこの人はクズです。ほかの登場人物も好感を持てる人はいませんでした。なんで女の人はみんな津田に優しいんだろう?不倫の奥さんもアホやしなー。
次に、会話のテンポの悪さ。途中で聞き間違いとか、人の話を聞いてなかったりとか、話の腰を折る人多数。これはしんどかった!自分も実際の会話でやってないか心配になりました。笑。気をつけよう・・・。「身の上話」はこんなに読みにくさを感じなかったような気がするんだけどなあ。


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「夜の写本師」

乾石智子/東京創元社

右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。だが、育ての親エイリャが殺されるのを目の当たりにしたことで、彼の運命は一変する。女を殺しては魔法の力を奪う呪われた大魔道師アンジスト。月の巫女、闇の魔女、海の娘、アンジストに殺された三人の魔女の運命が、数千年の時をへてカリュドウの運命とまじわる。エイリャの仇をうつべく、カリュドウは魔法とは異なった奇妙な力をあやつる“夜の写本師”としての修業をつむ。

本当は「魔導師の月」の方を読みたかったのですが、どうせなら最初から読もうと思った次第。あらすじを読んだだけでは、話のイメージをつかみにくく(私だけかもしれませんが)、つかみどころのないまま読み始めました。読み始めてからも、物語のイメージを固められないままページが過ぎてゆきました。
カリュドウは、育ての親と幼なじみを殺された復讐心から、魔導師の道を志します。彼の才能は開花し、数年で兄弟子たちにひけをとらないほどの腕前に。しかし、彼の慢心ゆえに仲間の1人を死なせてしまい、破門になります。落ち込むカリュドウに、兄弟子は「夜の写本師」への道を勧める。夜の写本師は魔術に匹敵する力を持ちながら、その武器は自らが書くもの。魔導師とは別の存在なのです。写本師としての才能もあったカリュドウは、夜の写本師になり、とうとう本丸の魔導師アンジストが支配する国へ。
・・・そして、ここからカリュドウの前世の話が始まります。実は、カリュドウは偉大な魔導師の女たちの生まれ変わりだった!女たちを恐れ、女を殺し、その魔力を奪い取ることで自らの力を増幅してきたアンジスト。生まれ変わるたびに、彼への復讐を誓うが、力及ばず敗れてきた女たち。ここで、この物語はカリュドウ1人の復讐ではなく、前世からの何代もの魔導師とアンジストとの戦いの記録であることが明らかになるのです!うーん、悪い男よのう、アンジスト・・・。だけど、女性たちも結構コロッと騙されてるんだよなー。結果、すべての魔力を失った女は、男として生まれ変わった・・・ということに、アンジストはまだ気付いてない。そこがチャンス!
他の写本師たちの力も借り、無事アンジストを倒したカリュドウ。そして年月が流れ、彼の前に1人の少女が現れる・・・。きれいなまとめ方ですが、果たして彼は転生して良いのか?悪の道に進む前にカリュドウが導いてあげるのか?その後が少々心配・・・。
独特の世界観に、覚えにくい名前(笑)、そして前世の話が唐突に始まるので、読みにくく物語に乗れませんでした。残念・・・。呪いのワラ人形の作り方とか、魔法合戦の描写はすごくステキだったのに・・・。魔法って、炎がブワーッとか光がカッ!とかってイメージだったんですが、こういう表現もあるのか~と新鮮でした。地方によって色々あるっていうのもおもしろかったー。話の構成がちょっと違ってたら良かったのになと思いました。最初に前世のさわりを持ってくるとか。あの唐突感がいただけませんでした。
カリュドウ、いい男なのに、ずっと独り者っていうのも寂しかったなあ。年のとり方が違うっていうのも原因かもしれないけど・・・。あの彼女と一緒になるもんだと思ってたので、意外でした。そのせいで(かどうかはわからないけど)、彼女バツイチになっちゃったなんて、カリュドウも罪な男だよなあ。
この人の物語についていけるのか、非常に不安を感じるところですが、とにかく次は本命の「魔導師の月」を読むことにしよう。


「オルゴーリェンヌ」

北山猛邦/東京創元社

書物が駆逐される世界。旅を続ける英国人少年クリスは、検閲官に追われるユユと名乗る少女と出会う。追い詰められた二人を救おうと、突如現れた少年検閲官エノ。三人はオルゴールを作り続ける海墟の洋館に向かったが、そこで彼らを待っていたのはオルゴール職人たちを標的にした連続殺人だった!

少年検閲官シリーズ2作目。久しぶりの上下2段組の本で血が騒ぎました。笑。最近お目にかかってなかったもんで・・・。
海に沈みゆく世界。あらゆる書物が駆逐され、厳罰の対象となっている・・・という世界観を下敷きにしたミステリです。主人公は、ミステリ作家となるべく旅を続けるクリス。少年検閲官のエノ。そして、海に沈みかけの洋館から脱出してきた少女ユユ。キリイ先生と落ち合うために訪れた街で、追われているユユを助けることになったクリス。2人はエノに助けられます。なぜ、ユユが追われていたかというと、洋館にあるガジェットを持ち出したのではないかという疑いを掛けられていたため。ユユは無実を証明するため、クリスとエノの目的はもともとガジェット・・・と利害が一致した3人は、海上の洋館へ。
プロローグの舞台でもある海上の洋館は、オルゴール職人が集められオルゴールを製作している場所。先に乗り込んできていたもう1人の少年検閲官と交渉し、ガジェットの捜索を行うクリスたち。そんな中、第一の死体が発見されたのを皮切りに、オルゴール職人が次々と殺害される。
今回の舞台は、絶海の孤島・・・とまではいかずとも、本土と洋館をつなぐ道路が水没したことにより孤立した場所・・・クローズドサークルです。干潮の時に道路が出現しますが、今回はその干潮は終わったあと。犯人は、この中にいる!と思わせておいて、実は・・・のラストです。いや、私、この人のこと前作でちょびっと疑ってたんですよ。そしたら違ってたので、今回ももう死にそうだったし対象から外してたんだよなー。うーん、ここ来ましたか!
振り返れば、第二、第三の殺人のトリックは仕掛けなので、犯人がいなくても仕掛けが作動すれば犯行が可能なのです。私は心配性なので、仕掛けが不発だったときのことを考えると、自分の目で確認しないで落ち着かないのかしらーと思ってしまうのですが・・・。でも、無茶なようでいて、できそうなトリックはおもしろかったです。第二の殺人では、紙の摩擦?の力を利用した本を使った落とし穴。第三の殺人では、オルゴールの巻き取り部分を利用した時限装置。これは、当たるかな~?という感じでしたが・・・。一番最初のボートを使った串刺しよりは好きです。これが一番無理っぽいような。トリックがおもしろかったので、ついついそっちばかり注目してしまいましたが、エノの心の迷いやら、ユユの悲しい生い立ちなど、センチメンタルな雰囲気をオルゴールが彩る美しい物語でした。前作が結構ドギツイ感じだったので、覚悟して読んだのですが・・・。いえ、予想が外れてよかったです。笑。
今回は氷のガジェットが出てきましたが、あんまりガジェットの中身は関係なかったですね。これから、どんなガジェットが出てくるのかな~と楽しみにしてます。これを超える作品って結構難しいと思いますが・・・期待してます!


「ドミノ倒し」

貫井徳郎/東京創元社

ひとつの事件が別の事件を呼び起こし芋づる式に掘り出される死体!いったい何が起きているんだ!?油断大敵・貫井流ユーモア私立探偵小説。

貫井さんの本、久しぶりに読みました~。あれっ、こんなにポップな作風だったかな?と少々戸惑いました。もっとシリアスな感じだったような・・・。
主人公は探偵の十村。病死した恋人の故郷で探偵事務所を営んでいる。そこへ、恋人の妹から「元カレの殺人容疑を晴らして欲しい」という依頼が舞い込む。捜査を進めるうちに、被害者の双子の妹が現れ、過去の事件も掘り起こし、事件はまさかの結末を迎える!
十村の幼なじみが警察署長って、設定としてどうなん?都合良すぎだろ!と思いながらも、そういうものと流して読めば、途中まではライトなハードボイルド、という感じでなかなか良かったと思います。何かと捜査についてきて、首をつっこむ妹が怪しいんじゃないかとにらんでいたのですが・・・。そんな推理は全く意味を成しません。
だって、これ、「オリエント急行殺人事件」みたいなんだもん(原作読んでないけど)。大規模な交換殺人&隠蔽なんだもん・・・。真相に気付いた署長や十村を拘束し、強制的に仲間に引き入れるか、言うこと聞かなきゃ殺すぞくらいの勢いの住人たちなのでした。結局、署長の無事は確認できず、十村ピンチ!ってところで幕。めっちゃ脱力したわ・・・。
このオチだと何でもアリになっちゃうから、ミステリーとしていかがなものかと思います。この結末に、「しまった、騙された!」と思う人いるのかな?大体「なんだそりゃ・・・」で終わるよな。
ということで、もし、これからこの本を読まれる方は、犯人やトリックのことなどは考えず、オレの一人語りと月影弁を楽しむのが良いかと思います。考えたら考えただけあとで脱力度が増します。笑。


「六の宮の姫君」

北村薫/東京創元社

最終学年を迎えた「私」は卒論のテーマ「芥川龍之介」を掘り下げていく一方、田崎信全集の編集作業に追われる出版社で初めてのアルバイトを経験する。その縁あって、図らずも文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞くことに。短編「六の宮の姫君」に寄せられた言辞を巡って、「私」の探偵が始まった。

大学4年になった「私」は、卒論にバイトにと忙しい日々を送っている。そんな中、全集の編纂の手伝いの関係で訪れた作家から芥川の「六の宮の姫君」に関する言葉を聞く。「あれは玉突きだね。・・・というよりは、キャッチボールか。」この言葉の意味を突き止めるため、私は文献をあたり始める。
この本をおもしろいと感じるかどうかは、これまでの読書体験と知識の有無、あとは作家の生き様に興味があるかどうかってところでしょうか。・・・なーんてエラそうに書いちゃったけど、オイラ、おもしろい以前に、内容もよくわかんなかったよー!笑。あ、笑うところじゃなくて、反省するところですね・・・。
そもそも、私のベースに古典文学はほぼ無く、芥川の作品も「六の宮の姫君」っていう短編があることすら知りませんでした。もちろん、作家の人生についても、芥川が自殺だったことも、菊池や佐藤など作家との交流も、手紙のこととか、なーんにも知りませんでした。なので、北村さんの考察を楽しむなんてことはできるはずもなく、「ふーん」「へー」「ほー」「知らなんだー」とか思ってるうちに終わりました。
・・・出直します。
文学の話はそんな感じで。次は、ちょっと勝手な逆恨みです。笑。
「私」はその後出版社に勤め、子持ちの中年女性になったのが最新刊という情報は得ていたのですが、就職活動を全くしていないのには驚きました!時代が違うとはいえ、就職氷河期を人間性を否定されながら苦しんだ私としては、ここは・・・見逃せませんね~。先生の紹介で小さな出版社にバイトに行った「私」は、就職の打診を受けます。本好きな「私」はラッキーとばかりに快諾。ついでに卒論の資料も貰えたりして、棚ボタフィーバーです。おそらく中流以上の家庭で育ちお金の苦労は知らず、姉にコンプレックスは感じながらも、好きな本を読みバイトをしたこともない「私」。初めてのバイトは怒られることもなく、好きなことに関われる。周りの友人も大人もみんな優しく「私」を助けてくれる。就職は棚ボタで決まったし、あとは卒論。卒論もヒントをもらえ、糸口を掴むことができた。・・・なんか、「私」の人生、順風満帆じゃないですか?きっと、手痛い失恋もせず無難な結婚をし、仕事でも理不尽な目に遭うこともなく、ずっとみんなに愛されるのでしょう。根性のねじまがった私は、基本的に悪口を言わない人と挫折を知らない人は、信用できません。「夜の蝉」で「私」が見せた、姉との距離をどうしたら良いのだろうという迷いには共感できましたが、この本での「私」には(男女間についての考察も含め)全く共感できませんでした。
上品な北村ミステリーは好きです。しかし、キレイすぎる登場人物には魅力を感じません。
・・・でも、ちゃんと最新刊まで読むよ!