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読書の記録です。

「オーブランの少女」

深緑野分/東京創元社

色鮮やかな花々の咲く、比類なく美しい庭園オーブラン。ある日、異様な風体の老婆に庭の女管理人が惨殺され、その妹も一ヶ月後に自ら命を絶つという痛ましい事件が起きる。殺人現場に居合わせた作家の“私”は、後日奇妙な縁から手に入れた管理人の妹の日記を繙くが、そこにはオーブランの恐るべき過去が綴られていた。(「オーブランの少女」)表題作ほか、“少女”にまつわる謎を描く全5篇を収める。

表紙の乙女たちに心惹かれて、この本を手に取ったのは私だけではないはず・・・。
おそらく、表題作「オーブランの少女」をイメージした絵です。短編集とは分かっていましたが、こんなに年代も設定も異なる話だとは思いませんでした。世界観を統一しなければならないわけではないんですが、テイストが違いすぎて戸惑いました。
「オーブランの少女」謎めいた殺人事件から始まります。庭園の謎が解き明かされる・・・という話だと思っていたのですが、ちょっと違いました。前半の穏やかな学園の雰囲気が一変し、殺人鬼と化した先生に追いかけまわされる展開に呆気にとられていました。笑。逃げ切れて良かったなーと思いましたけど、結果的に殺されちゃいましたから・・・。何十年も恨みのエネルギーを保ち続けた先生の執念が勝ったんですかねー・・・。
「仮面」騙された先生がかわいそうなのか、アホなのか・・・。あんまり印象に残らなかったかな。
「大雨とトマト」っていう歌がありそう。大雨の日に男の店に女の子が来て、トマトだけ注文して、食べて帰るっていう話です。男は、女の子の出生の秘密について思いを巡らせますが(自分が父親かも・・・とか)、とんだ見当違い。彼女の目当ては、彼の息子だったのだ・・・。盛り上がりのない淡々とした話。産むのか、堕ろすのか。店を訪れた女の子の本心が気になる。
「片想い」岩様!岩様かわいい!の話(笑)。百合の要素があるので、嫌いな人は嫌いな話だと思います。私、女子高のノリが良くわからないので、友達以上!でも親友じゃなくて・・・みたいな感覚は理解できません。ただ、岩様の純情はいいなと思いました。謎は予想通りの結末。
「氷の皇国」皇女が仕組んだ皇子殺し。前半は動きが少なく話にのれませんでしたが、皇后の謎解きが始まったあたりから、俄然おもしろくなってきました。お父さんは本当にかわいそうでした・・・。お母さんがソリにひかれて亡くなったのも、事故じゃなくて故意なんじゃ・・・と思ってしまいます。トーラおばあさんが、余生を静かに過ごされますように。ミステリーの要素も含みつつ、ひとつの王国の栄光と衰退を描いたファンタジーとしても楽しめます。


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「アルモニカ・ディアボリカ」

皆川博子/早川書房

18世紀英国。愛弟子エドらを失った解剖医ダニエルが失意の日々を送る一方、暇になった弟子のアルたちは盲目の判事の要請で犯罪防止のための新聞を作っていた。ある日、正体不明の屍体の情報を求める広告依頼が舞い込む。屍体の胸には“ベツレヘムの子よ、よみがえれ!アルモニカ・ディアボリカ”と謎の暗号が。それは、彼らを過去へと繋ぐ恐るべき事件の幕開けだった。

じわじわ本の感想がたまってる・・・!
前作「開かせていただき光栄です」から5年後のお話です。消化不良だと感じていた、エドとナイジェル(主にナイジェル)の過去を絡めた話で、前作を補完するだけでなく、1つの物語として楽しめる本でした。改めて皆川さんスゴイな!と思いました。最初からここまで折り込みずみで1作目を書かれたのでしょうか・・・?
採石場の坑道で見つかった死体に記されたメッセージは、ナイジェルからエドへのメッセージではないか?と言う推測のもと、その街を訪れたアルたち+ダニエル先生。しかし、そこで彼らはナイジェルの死体と対面することになる。一体、彼らはダニエルのもとを去ったあと、どのように過ごしていたのか。ナイジェルと共にいたのはアボットなのか。
一方で、ネイサンが出会った女性の恋人の行方を捜すうち、ある精神病患者を収容する施設が浮上する。そこは、かつてナイジェルが生まれ育ったところだった。
ナイジェルの死、という予想外の展開から始まった物語。正直、アボットのことは忘れていました・・・。ナイジェルの誘惑にはまってしまったアボットは、ナイジェルとともに過ごしていたようですね。アボットに好意を寄せていたアン助手は、ショックだったでしょうね。
バートンズの面々も、ダニエル先生も、2人のことを忘れることはできなくて、やっぱりすこし元気がない様子。ナイジェルとは生きて再会できなかったけれど、エドとは再会を果たします。もう罪は償ったのだから、帰ってこいと説得するも、1人でナイジェルの死の真相を解き明かそうとするエド。エドはストイックだからな・・・と納得しつつも、私は仲間のもとに帰って欲しかったなと思います。ナイジェルの手記は、衝撃的な幼少期の体験から始まり、エドへの思いも綴られていて、少し屈折したナイジェルの内面が垣間見えるようでした。エドのこと、好きだったんだねえ・・・。結局、エドにまたしてやられたな!っていう検事さんの気持ちが良くわかりました。もし仮に3度目があったとしても、さすがの検事さんも信じないでしょうね・・・。笑。
楽器の方のお話は、飲み込みにくいところもありましたが、まあそこは雰囲気で・・・。引き裂かれた2人がかわいそうでした。でも、ここは無事に添い遂げられそうで良かったです。これも、エドのおかげなんだけど・・・、エド、最後は志願して戦争に行っちゃうし!最後までびっくりさせられました。彼の罪は最後まで深いところにあり続け、彼自身の中から消えることも薄れることもないのだなと思いました。
検事の苦悩も、この時代ならではで、不正が横行している中で公平さを保ち続けることも困難だと思います。これもストイックじゃなきゃできないよなあ。っていうか、どれだけ意地汚いんだ、みんな。
もとのバートンズには戻れなくても、無事にエドたちが帰ってくるといいなー。


「真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒」

大沼紀子/ポプラ社

真夜中にだけ開く不思議なパン屋さん「ブランジェリークレバヤシ」に現れたのは、美人で妖しい恋泥棒。謎だらけの彼女がもたらすのは、チョコレートのように甘くてほろ苦い事件だった。

引き続いての2巻目!
今回は、弘基の元カノ登場。今はパン職人の道を邁進している弘基だが、若かりしころはやんちゃもするプレイボーイだった。お店に現れて、居候を始めた佳乃は、そんな時代に弘基が付き合っていた女性のひとり。
希実は、ひょんなことから、佳乃の荷物を覗き見てしまう。カバンの中には札束がぎっしり詰まっていた。佳乃をたずねてくる男性。斑目に色目を使う佳乃・・・。希実の疑惑は確信へと変わっていく。彼女は結婚詐欺師である、と。
こちらの話もテレビで見ていたので、双子のくだりでびっくり!ということはありませんでした。それなりに、すいすいっと読めましたが、どうも、長編としては物足りないです・・・。1冊ひっぱるには、ネタが弱いのかなあ。彼女にも色々事情があって、かわいそうな過去ではあるんですが、お金を騙し取って一体何がしたかったのかといえば、幸せだったころに住んでいたマンションを買い戻すため・・・だそうで、なんなんだ、その動機は!笑。医学部受かるくらい頭がいいなら、もっと早くその不毛さに気付こうよ!って思ってしまいました。
クレさんは、いつも通りつかみどころがなくて、困った。弘基の女たらしの過去も、ちょっとひいちゃいました・・・。
希実ちゃんが相変わらずいい子だったのと、斑目の恋が報われたのが良かったです。
しかし、これから先、内容の薄い巻が続くのかと思うと、読む気力が萎えますねー。


「真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ」

大沼紀子/ポプラ社

都会の片隅に真夜中にだけ開く不思議なパン屋さんがあった。オーナーの暮林、パン職人の弘基、居候女子高生の希実は、可愛いお客様による焼きたてパン万引事件に端を発した、失綜騒動へと巻き込まれていく。

ドラマを見てたんですが、途中からおもしろくなくなって惰性で見てたな・・・。
とりあえず、1巻ではメインキャストの紹介という感じ?23時に開店するパン屋・ブランジェリークレバヤシは、オーナーの暮林とブランジェの弘基の二人で切り盛りしている。そこに、暮林の亡き妻・美和子の腹違いの妹だという希実が現れる。灯りに引き寄せられるように、問題を抱えた人々がブランジェリークレバヤシを訪れる・・・。という人情モノです。
万引き(本人は万引きだと思っていない)をしようとした小学生・こだま、自宅の望遠鏡で人間観察をするのが趣味の脚本家・斑目、おいしいパンといいオトコに目がないニューハーフ・ソフィア。3人とも今後の物語に大きく関わってくる人々です。メインはこだまのお母さんの失踪事件ですかね。
希実のお母さんもひどいけど、こだまのお母さんも結構ひどい。事情があったとしてもねえ・・・。しょうがないよね、と許す気分にはなれないですねー。だから、これはめでたしめでたしなのかな?と疑問に感じてしまいました。
ドラマ版の希実はあんまり好きじゃなかったんですが、小説の希実は結構好きでした。世の中の汚い側面をたくさん見てきたけど、極端に荒れもせず、世の中を冷めた目で見てるばっかりでもなく。ちゃんとこだまの世話を焼いてあげて、斑目氏を変態呼ばわりしつつも、気にかけて。パン屋の手伝いもして、だんだんとブランジェリークレバヤシに馴染んでいって・・・と、いい子なんです・・・!この先、母親が出てくるはずなので、ひどいことにならなければいいなあと思います。
もっとコンパクトにまとまる話かな?と思うし、そこまでおもしろい話ではないです。しかし、真夜中に開店するパン屋さん、というコンセプトが好きなので、このシリーズは続きを読んでみようと思いました。


「世界から猫が消えたなら」

川村元気/マガジンハウス

僕の葬式。僕の枕元に集まる人はどんな人たちだろうか。かつての友達、かつての恋人、親戚、教師、同僚たち。そのなかで僕の死を心から悲しんでくれる人は、何人いるのだろうか。僕と猫と陽気な悪魔の7日間の物語。

辛口です。
話題の本で、表紙の猫がとってもキュートだったので楽しみに読み始めた。が、最初の数ページで、・・・つまんねー・・・。そして3分の1くらいで、幼稚・・・だと思った。
話がおもしろいかどうか、というレベルではなく、幼稚な文章に辟易した。
こんな構想ノートかメモ書きのようなものを、本として出版し、大規模な宣伝を繰り広げ、罪も無い読者に1400円という値段で売りつけたという出版社にも罪があると思う。しかも、これを読んで「読みやすい」とか「泣けた」「感動する」という感想があるのも事実。
だいじょーぶか、日本人!と日本人の感性もちょっぴり心配になった。
携帯電話や映画や時計はなくなっても、ちょっと不便だな(むしろ無くても良いと思っている。バカ。)、程度だが、猫は母親との思い出で情が移っているから、だから消せないという結論がもうダメ。なんなのその自己チュー!
家族の再生が描きたかったのでしょうか?30にもなって、あんな程度で父親と絶縁って、アホか。そりゃ、父親が愛人と温泉行ってた(笑)とかならわかるけどさー、お母さんとの思い出の時計を修理してたわけじゃない!愛があるじゃない!なにスネてんのって感じ。
あとね、家族ってもっとドロドロしてると思う。許すとか許さないとかじゃない。そんなのに関係なく、つながっちゃってて、逃れられないもんだと思うんだよね。
文章も幼稚なら、思考も幼稚。
本を読んでこんなに腹が立ったのは久しぶりです。
読者をナメんなよ!
「退屈だ。すべてが凡庸なシーンと、軽薄なセリフの積み重ねだ。」(本書より引用)
そういう本です。


★追記(9/21)★
映画化されるらしいですね。世間の過大評価って恐ろしい。
映画の方が本業だから、こちらの方が出来はよさそうですね。
佐藤健に宮崎あおい・・・このキャスティングなら、お客さんも呼べるでしょう。
しかし、こんな本を映画化とは・・・、邦画も心配・・・。