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読書の記録です。

「黒猫の薔薇あるいは時間飛行」

森晶麿/早川書房

黒猫の渡仏から半年。付き人はポオをテーマに博士論文に挑むが、つい黒猫のことを考えてしまう。そんなとき、作家・綿谷埜枝の小説に「アッシャー家の崩壊」の構造を見出す。その小説を研究するには、一晩で消えた薔薇の謎を解く必要があるらしい。付き人と黒猫は、それぞれ美しい庭園で“時間”にまつわる謎に出会う。

愛を語る黒猫シリーズ3作目は、ちょっと変わった構造の連作中編2本。
付き人サイドの話「落下する時間たち」は、作家・綿谷埜枝の昔の恋にまつわる謎。植物園で出会った男性と恋に落ちた埜枝。後日、再会した男性からもらった薔薇の色が一夜のうちに赤から白に変わっていた。そして、食事の約束をした店に彼は現れなかった。なぜか?
パリの黒猫サイドの話「舞い上がる時間たち」は、黒猫の恩師ラテスト教授の孫娘・マチルドからの依頼。音楽家のリディア・ウシェールの庭で、決まった時間に男性が両手を広げて上を見つめている。また、この不可思議な行動が始まった頃から、彼女の音楽が変わったのはなぜか?
最後に2つの話があわさって、黒猫の答え合わせで終わります。ちょっとできすぎな気もしますが(笑)、きれいにまとまった構成でいいと思います。
なぜだか、黒猫のいない付き人の話の方が好きでした。ちょっとお調子ものだけど、憎めない戸影くんの方が私は好きだなあ。もう、こっちにしちゃえばいいのに!と思っちゃいました。でも、最後までいいとこなかったね、戸影くん。笑。
謎解きでは、最後に黒猫の総括が入るのですが、私は付き人の「花火師説」だったらいいのに・・・と思いました。だって、唐草教授が悲しすぎるじゃないですか!タイミングが合わなかった。それが2人の運命・・・なんだけど。それでも友達を続けるって、唐草教授ってマゾなの?って思う。
リディアの謎の方は彼女の家の天井庭園が鍵。男の人はリハビリの散歩してるんですけど、実は恋人との駆け落ちのフライトをしているそうです。これは説明が難しい。愛が破れて精神が病んでいるのかしら、という感じです。ループから解放されたら、その後はどうなるのだろう。ハッピーなのだろうか・・・。
全体に関わってくるスイフヨウ。気になったのでネットで検索しました。ふんわりとしたフォルムで薔薇に似てるか・・・ビミョーです・・・。色が変わる様子が綺麗でした。
パリと日本という究極の遠距離恋愛が始まった!
・・・両思いになっちゃうとつまんないので、もうちょっと焦らしてあげて下さい。(←最低・・・)


「花が、まっすぐに舞い降りた」

「あるいは、舞い上がった」


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「貴族探偵」

麻耶雄嵩/集英社

信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か?捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。

捜査もしない!推理もしない!ただ女を口説くのみの貴族探偵。
果たして真相に気付いていたのか?本当は何もわかってないのに態度だけでかかったのか?最後までこの謎は解けないままでした。貴族たるもの、捜査などという肉体労働や、推理などという頭脳労働は、使用人にまかせるものらしいです・・・。
「ウィーンの森の物語」執事の山本が登場。推理にパンチが足りないなあー。メインの女性が怪しいのかな?と思ったりもしましたが、そんなことはなかった。女性は、貴族探偵の餌食・・・いえいえ、貴族探偵にエスコートされてゆきました・・・。山本は、年配で小柄だけれどもがっしりした体躯のベテラン執事さん。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」ケープから出る生首!死体にパーマ!切断された両腕!一番猟奇的でした。山本ではなく、メイドの田中が登場。この時は、えっ、山本は解雇?と思ったけど、貴族探偵は少なくとも3人使用人を雇っているようです。そっか、使用人って何人雇ってもいいんだ!使用人のいない平民には思いもよらないことでした・・・。田中は、若いお嬢さんで元気いっぱい!はきはき推理します。
「こうもり」うわー!だまされた!プチパニックを起こしてしまいました。読み返したけど、見事に矛盾がなくて降参です。本筋の謎がぶっとんでしまいました。えっと、誰が犯人でしたっけ?ってくらい。笑。常盤洋服店出されたら、誰だってそう思っちゃうよ・・・。
「加速度円舞曲」3人目の使用人、運転手の佐藤が登場。佐藤は武道の経験がある、がっちりした体型の男性。なんだか、話が普通すぎて物足りない・・・。
「春の声」強引なトリックが嫌いじゃない人はいけるかもしれない。結構な力技を見せていただきました。まあ、でも、こうでもしないと収まりがつかなかったでしょうね。最後は3人の使用人の競演でした。
どうにも、麻耶さんのミステリには、アクの強さを求めてしまうというか・・・。変態要素を探してしまうというか・・・。今回は、そういう意味でとてもソフトな読み心地でした。私としては、「こうもり」で変則的な話があったものの、全体的に少々物足りなかったです。
解説は千街晶之さん。千街さんの解説ってだけで、ミステリのグレードがアップするような気がしてしまう。


「刑事たちもお待ちかねのようだ。」

「お前の推理をご披露しなさい。」


「ミサキア記のタダシガ記」

三崎亜記/角川書店

「ダ・ヴィンチ」「本の旅人」で四年にわたり連載された人気エッセイが一冊に!twitterの「ツブヤ記」も収録した、シュールで不可思議なエッセイ集登場!

ダ・ヴィンチで読んでたときに、まとめて読みたいなあと思っていたのを思い出して借りてきた次第。
公務員兼業作家、というイメージだったのですが、いつの間にやら専業作家になっていらっしゃいました。しかも結構前だった。うーん、もったいない(笑)けど、専念できる環境が整ったということは、気持ちに余裕ができて良いですね。
三崎さんの小説は、不思議な世界観が特徴です。
さすがに、エッセイまで不思議な世界ではないですが、話題の切り口がナナメです。まあ、悪く言えばひねくれ者な感じですね。笑。マイノリティ寄りを自覚している者としては、非常に親近感がわきます。はい。
時事ネタが多くて、確かにそんなことが取り上げられていたなあと思いながら読んでいました。自動車の走行音が静かすぎて危険、というのは最近も思うことです。ハイブリッド車、後ろから接近されても全く気付きません。(音楽も聞いてないし、耳あてもしていなかった。)あとは、「孤独」を「個独」として楽しもう!とか良いと思った。
グローバル化についての回では、以下のような記述があります。
「・・・・最近、「グローバル化」という言葉には、何かを覆い隠し、不満を持っている層に対して言い繕うような胡散臭さがつきまとうからだ。弱い立場の人々にさらなる我慢を強いる、「錦の御旗」と化しているように思えてならない。
そんな風に裏読みしたくなってしまうのは、「グローバルな視点」を言い出す人は決まって、グローバル化した社会で、「どうやって生き残るか」を説くばかりで、「どうやって格差をなくすか」についてはちっとも教えてくれないからだ。自分の「グローバル化」の目線からこぼれ落ちたものを他人に強要しても、説得力はない。」
なるほど!って思いました。私が大学生のとき、いたるところで「グローバル化」、良く使ってました。笑。日本が海外と対等になる、くらいの認識しかなかったんですが、最近は淘汰だなと思います。もちろん、メリットがあることはわかっていますが、それは強者にとってであって、結局は弱肉強食だなと思います。個人的には、アベノミクスは失敗に終わると思います。消費税が上がっただけ、みたいな。私には、何の恩恵ももたらされないと思います。強い人はより強く、弱い人はほどほどに生きていく。そんな世の中です。平等な世界なんてあり得ません。
あとは、ツィッターで、おもしろいのがあったので・・・。
「「勇気・希望・努力」って並べられると、なぜだか「ネットの無い時代の男の子のエロ本への葛藤」を想像する。「書店で購入する勇気!すごい内容に違いないって希望!母親に隠し場所を見つからないための努力!」だ。そう考えると、ネットで簡単に画像が手に入る今の男の子は可哀想な気もする。」
わかる・・・。今、足りないのは想像力だ!エロにこそ想像力が必要なのです!あはは。笑。エロではないですけど、私、ずいぶん前から本をネットで買うのはやめたんです。買うのは楽なんですけど、買った本に全く愛着が湧かなくて・・・。やっぱり本は本屋さん(あるいは図書館)で現物を見て、どんな本かなあって想像しながら選んで、重い思いをして家に持って帰ってくるから読むのが楽しみなのかなと思います。
べつやくれいさんのイラストも良いですよ。ただの挿絵ではなく、ひとつのコラムとなっています。
特に、「もう一時間寝よう・・・」「地球のために!」が好きです。(これだけじゃわけわからん。笑。)


「桜庭一樹短編集」

桜庭一樹/文藝春秋

一人の男を巡る妻と愛人の執念の争いを描いたブラックな話から、読書クラブに在籍する高校生の悩みを描いた日常ミステリー、大学生の恋愛のはじまりと終わりを描いた青春小説、山の上ホテルを舞台にした伝奇小説、酔いつぶれた三十路の女の人生をめぐる話、少年のひと夏の冒険など、さまざまなジャンルを切れ味鋭く鮮やかに描く著者初の短編集。

てっきり表紙は写真だと思っていましたが、近くで見ると絵でした。髪の毛がすごくリアル。
ライトノベルというジャンルに縛られなくなった頃からの作品かな?と解釈しました。
「このたびはとんだことで」女2人芝居。恩田陸さんのようなテイストでしたが、ちょっと違う。コミカルなやりとりを入れるところが桜庭さんだなと思います。最初、男の人は両手足が無くなって植物人間のような状態なのかしら・・・と思っていたので、もうお骨になっているとわかって却ってほっとした。
「青年のための推理クラブ」プロトタイプにあたるお話。久しぶりに「青年のための~」が読みたくなった。
「モコ&猫」遠くから眺めているだけで満足、という気持ちはわかるけど、猫が屈折しすぎだ。笑。しかも、そこそこモテているから腹がたつ。「もう、お別れなのだ。殺すこともなく。愛しあうこともなく。ただ、おだやかな好意だけを空気みたいに残して、別れていくのだ。」本気でぶつかり合わなかったから、別れた後には何も残らない。・・・刺さります。
「五月雨」ファンタジーに近い話。ぼんやり読み終わってた。
「冬の牡丹」独身で子供もいないと、なんだか人間として未完成で恥ずかしくて怖い時がある。その感覚を思い出して、読んでる間いたたまれない気分だった。でも、これって結婚して子供を産んだら解決する問題なのだろうか?とも思う。どうあっても文句を付けられるのだから、やりたいようにやるのが一番だよなあ。それにしても、既婚組の上から目線ってやつが無くなる日は来るのだろうか?
「赤い犬花」ひと夏の少年の物語。少年が語り手なのは、初めてとのことです。私はやはり桜庭さんといえば少女のほうがしっくり来ます・・・。冒険(三本松まで行く)があまりおもしろくなかったのと、2人の掛け合いにあんまり乗れなかったもので。


「いったいどうすれば、ほんとうに一生懸命生きる、なんて奇跡のような芸当ができるのだろうか。」

「わたしたちがどう戦えば、あなたたちは満足するのか。」

「わたしたちを赦してくれるのか。」


「Yの悲劇」

エラリイ・クイーン/早川書房

狂気じみたハッター家の当主の死体がニューヨークの港から発見され、その後一族の中で次々と奇怪な惨劇が起こる。サム警視の依頼を受け、ドルリイ・レーンはその恐るべき完全犯罪の意外きわまる真相を解き明かそうとするが……犯罪の異常性、用意周到な伏線、明晰な推理。本格ミステリ不朽の名作。

エラリイ・クイーンは、2人だった!
フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという従兄弟同士のユダヤ系アメリカ人の合同ペンネームだそうです。(あとがきより)確かに、写真にはおじさんが2人写っている!またひとつ、賢くなりました。恥をかく前で良かった~。
「X・Y・Zの悲劇」に「ドルリイ・レーン最後の事件」を加えて、悲劇四部作と呼んでいるそうです。題名は良く目にしますが、あらすじまでは知りませんでした。Yさんが殺されるのかしら~ってイメージでした。
「Xの悲劇」で事件を解決した探偵・ドルリイ・レーン氏は、警察から再び事件の捜査を依頼されます。事件の舞台となったハッター家は、「気ちがいハッター」と呼ばれ、常軌を逸した行動の多いことで有名な一族。2ヶ月前にこのハッター家の夫(ヨーク・ハッター)が自殺していたのだが、次はその夫人(エミリー・ハッター)が自宅で殺された。凶器は、ヨークのコレクションのマンドリン?また、前夫との間の娘・ルイザ・ハッターを狙った毒物混入事件も起きている。エミリー殺害時に、同じ部屋で寝起きしていたルイザは、重要な証人だが彼女は先天的に視力・聴力を失っており、喋ることができなかった。捜査が続けられるなか、ヨークの実験室が放火される。・・・犯人は誰か!?っていう話でした。
とにかく、探偵のレーン氏が、煮・え・き・ら・な・い!もー、引っ張る、引っ張る。笑。すぐ言えよ!今言えよ!ここで言えよ!と何回思ったか。結果として、犯人は自分で仕込んだ毒を誤って飲んで死んでしまうんですけどね・・・。レーン氏は善意で、犯人に更正のチャンスを与えたつもりだったのかもしれないですけど、そんな他人を裁くような権限、探偵にはないと思います。ただ真相を暴くのみ。あとは司法に委ねて下さい。まあ、こんな感じでレーン氏、手際悪い~。いまいち~って感じでしたけど、謎解きのアプローチはなるほど!と思いました。読者に対してフェアです。
特に、犯人への背丈からのアプローチ。ルイザの証言で材料はほとんど揃っていたっていう。あとは、マンドリンについて。blunt instrument(鈍器)の意味が分からず、instrumentつながりで、musical instrument(楽器)を連想し、マンドリンへと結びついたという発想の飛躍。これは、なかなか思いつきません。
ただ、犯人が善悪の判断がつかないまま、犯罪を遂行していくところは動機としてどうだろう?と思います・・・。遺伝と言われれば、もうどうしようもないですけどね。そもそも、ハッター家のみなさんの異常性は、エミリーが原因と言われています。作中では詳しい原因について触れられていませんが、あとがきで梅毒というキーワードが出ていたので、ちょっと調べてみました。(梅毒で神経の異常まで起こるのか?という疑問があったため)
梅毒は、感染すると痛みのないしこりができたり、太もものつけねが腫れたりします(第1期)。その後、全身に菌が広がり(第2期)、最終的には心臓、血管、目、神経などに重度の障害が出るそうです(第4期)。現在は末期の患者は稀だそうですが、可能性としてはあり得るということですね。納得。検査ではワッセルマン反応で陽性が出るそうで、ハッター一族のカルテにも書かれていたっけな~。これも納得。第2期にはバラ疹と呼ばれる発疹が全身に現れるそうで、ヨークが生前、腕の発疹に薬を塗っていたけど、これも病気によるものだったのかなーと思ったり。勉強になりました。
最後まで、「ドルレイ・リーン・・・あっ、ドルリイ・レーン・・・」っていう状態でした。ドルレイ・リーンの方が読みやすくないですか?