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読書の記録です。

「虚像の道化師」

東野圭吾/文藝春秋

指一本触れずに転落死させる術、他人には聴こえない囁き、女優が仕組んだ罠・・・。刑事はさらに不可解な謎を抱え、あの研究室のドアを叩く。

いつの間にかシリーズの通し番号がついている!シリーズ通り読まなくても大丈夫だとは思うけど、長編短編入り混じると、確かにわかりづらい。
ドラマ「ガリレオ」のシーズン2あたりの話ですね。何故に柴咲コウから吉高由里子になったのか・・・。あれはひどかった。
「幻惑す」まどわす。ある新興宗教団体で起きた飛び降り事件。教祖が警察に出頭してきたが、彼が言うには「念を強く送りすぎたため、飛び降りた」らしい。大がかりな装置シリーズです。笑。トリックの種は、マイクロ波。電子レンジに応用されているこのマイクロ波を、信者の体に照射して体が温まる現象を、念によって浄化されたと呼んでいたにすぎなかった。しかも、教祖自身は自分に力があると信じていて、裏ですべてを操っていたのは、教祖の妻だった。偽編集長として教団に乗り込む湯川先生。ノリノリだなー。
「心聴く」きこえる。ある会社の社員が相次いで自殺する。そんな中、草薙が受診した病院で偶然暴行事件が起こる。犯人は同じ会社の社員だった。彼はひどい幻聴に悩まされていた。これも装置シリーズ。何でも、狙った相手にだけ電磁波を送って音を聞かせることができるというもの。いや、洗脳はびっくりですね。自分を好きになってもらう方法、なんか、他にあるやろ!笑。仕事も恋愛も他力本願はダメ!妬みや僻みだけでは、自分はいつまでも同じまま。私も頑張ろう。
「偽装う」よそおう。大学時代のテニスサークルの友人の結婚式に招待された湯川と草薙。大雨による土砂崩れで陸の孤島となった町の別荘で、殺人事件が起こる。協力を求められた草薙が捜査を行うが・・・。おお、ミステリーの王道、土砂崩れが出た!物理学の考え方から、散弾銃の衝撃を受けた遺体が、椅子から投げ出されないのはおかしい・・・ということから、殺害の順番がキーポイントとなります。最後はちょっといい話仕立て。
「演技る」えんじる。ある劇団の演出家が殺害される。捜査を進めていくうちに、第一発見者の劇団員の女優と被害者は交際していたが、二股をかけた挙句、彼女とは別れ同じ劇団の別の女優と付き合っていたことが判明する。ドラマでは、花火が結構重要だったと思うのですがー。なんか、無くてもよかったですね。確かドラマでは、第一発見者の女優が、そのまま犯人だったと思うのですが、小説では現恋人が犯人で、彼女をかばうための工作というひとひねりがありました。スマホが主流になった今では、手先の感覚だけで携帯を操作するのは難しいかな・・・。
変人・湯川先生がだんだん気さくないい人になっているような。気のせい?


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「ごはんぐるり」

西加奈子/NHK出版

「初デートでは何を食べるのが正解?」から始まる男と女の食をめぐる正解シリーズ、幼い頃のカイロでの食生活、大阪のDNAがうずく食べ物たち、世界のめずらし料理実習記。“何でも美味しい、幸せな食オンチ”の作家が綴る、弾ける食エッセイ&書き下ろし短編食小説「奴」。

西さんの著作は読んだことがなくて、勝手に恋愛小説かなーと思っていた。このエッセイも、あらすじに「初デートでは~」とかあるので、恋バナがメインなのかなあと思いながら読んでみたら、全然違うテイストでした。なんていうか、大阪人の歯切れの良さ感が全開で、さっぱりとしたお話が多かったです。ちなみに西さんは、イラン生まれのエジプト、大阪育ちと国際的な生い立ちですが、ご本人も書かれているように、大阪人でいらっしゃいます。私も関西圏の人間なんですが、大阪と関西って別モンですからね!誤解のないように!笑。大阪の人は、確実に勢いが違うなあーと思います。
さて、ごはんにまつわるお話です。印象に残ったのは、エジプトでの食生活。ごはんの中に石が混ざっているので、ごはんの掃除から始まるそう!また、エジプトでは生食が危険。飛行機の手荷物で持ってきた生卵で作る、「たまごかけごはん」は絶品。中東地域の食生活って、良く知らなかったけど、想像以上に過酷ですね。豚ダメとか牛ダメとかそういうレベルじゃないわ。今は食材が手に入りやすくなっているといいけど・・・。そんな中で、家族のためにおいしいごはんを頑張って作り続けた西さんのお母さんがすごいなあと思います。母の愛ですね。
あとは、悪食話。西さんは、麺がスープを吸ってのびてのびまくった物体が大好物なんだけど、これが見た目も味も一般的に「あかん」ということがわかっているから、大好きな旦那さんの前で食べられない!と。これはわかります!っていうか、もだえる西さんがかわいい。笑。テレビでも「あかん飯」っていうのやってたましたよね~。大好きな見栄えの悪すぎる食べ物。きっと、誰にでもあります。ちなみに私は、納豆かけごはんでしょうか・・・。私はいたって普通のつもりなんですが、嫌そうな視線を感じます。「うわー・・・」という効果音も聞こえます。
食の正解シリーズは、私にはちょっと良くわからない・・・。しかし、コンパでウーロン茶とか時間のかかるカクテルを頼む女はダメらしい・・・という話を思い出した。ビール嫌いな人はどうしたらいいんだ。まあ、何にせよ、不正解だらけの私には耳の痛い話でした。
後半の世界のごはんシリーズはネタに困ったのか?と思っていたら、やっぱりそうだったようで。エッセイでルポが出てくると、大抵ネタに詰まってる感じがします。文章で読むとおいしそうなんですけど・・・。日本人向けにアレンジされた料理がやっぱり一番おいしいなーと思ってしまいます。食でも保守派・・・。
なんだかおもしろそうな方なので、本もおもしろそう!(そしてベタな恋愛モノではなさそう)今度は小説をひとつ、読んでみようと思います。


「幻の女」

ウィリアム・アイリッシュ/早川書房

夫婦喧嘩をして家を飛び出した男は、バーでひとりの女に声をかける。妻との予定を彼女と過ごし、出会ったバーで酒を飲んで女とは別れた。その後、家に帰った彼を待ち受けていたのは、刑事だった。妻は何者かに絞殺されたのだ。容疑者となった男が自分のアリバイを証明するためには、行動をともにした女の証言が必要だが、彼はまったく彼女の容姿が思い出せない。ただ覚えているのは、彼女が奇妙な形の帽子をかぶっているということだけだった。

ちょいと停滞していましたが、ランキングの第4位です。このペースだと100位まで読むのに10年くらいかかりそう、ということに今頃気がついた。かえって、のろのろペースの方が長続きするかもしれないね。
さて、有名なフレーズ(私は知らなかったのですが)「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」で始まるサスペンスです。最初は男が街をぶらぶらして、女性をナンパしているだけで、「何やってるんやろ、この人?」って感じだったんですが、要するに夫婦喧嘩の挙句、妻に「別の女をキミの代わりに連れていくさ!」と啖呵を切って出てきた男(スコット・ヘンダースン)が、言葉通りに女性をナンパしたという流れだったんですねー。で、ごはんを食べてショーを見て、一杯飲んで、家に帰ったら、刑事が待ち構えていた!ぎゃあ、怖い!妻は彼のネクタイで絞殺されていた。当然第一容疑者になった男。夫婦仲は冷え切っており、彼には若い恋人(キャロル・リッチマン)がいて離婚話が出ていたのだ。動機は十分。彼はもちろん、その時間はバーで女性をナンパしていたとアリバイを主張する。刑事たちとともに足取りをたどり、女性の目撃者を探すが、皆が口を揃えて言う。「彼は覚えているが、連れの女性はいなかった。」彼のアリバイは立証されず、下された判決は死刑。
死刑の日が刻々と近づく中、彼を刑事の一人(バージェス)が訪ねる。時間がたって、男の無罪を信じるようになったが、自分は他に仕事があるので個人的な捜査はできない。そこで、親友に調査をしてもらってはどうか?というのだ。なんなんだ、その言い訳は。笑。と思ったけど、ある策略があったんですねー。そこで、親友(ロンバード)が彼のために一肌脱ぐのです。
たしかに、自分は誰かと過ごしたはずなのに、その誰かを自分も覚えていなければ、店の人間もタクシーの運転手も覚えていない、という不可解さ。そして、捜査を進めていくうちに、彼を陥れようとする意思が見え隠れする恐怖。実は、関係者は口封じとして、お金をもらっていたのです。関係者は次々に事故にあい、または殺害されていきます。まあ、この辺から、ちょっとおかしいな・・・と言う気はしてたんですけどね。でも、あんたはきっと良いヤツだって信じてたのに、ロンバード!ひどいや、ロンバード!
そうなんです、真犯人は親友のロンバードやったんです。ロンバードは男の妻といい仲になっており、今回の海外転勤で彼女を連れ去ってしまおうと考えていたそうなんです。しかし、本気だったのは彼だけで、彼女にとってはただの遊び。自分の純情を大爆笑された彼は激昂。犯行に及んでしまったというわけです。若い彼女を作った男も男だけど、この奥さんも結構ひどい人だよね・・・。男と親しい人間が怪しいと睨んだバージェス刑事は、わざとロンバードを呼び寄せて、証拠隠滅をはかるように仕向けたというわけなんです。最後にバージェスの株が急上昇。めっちゃ粋な計らいです。
1940年代くらい?のニューヨークが舞台で、古い映画を観ているような感覚でした。電車や街並みの描写、女優さんの話とかバンドマンとか・・・。夜の街はにぎやかで、退廃的で、一瞬で終わってしまう。
毎度ネタバレ全開ですが、幻の女の正体だけは秘密にしておこう。まあ、なんてこと無かったし・・・。


「ことり」

小川洋子/朝日新聞出版

世の片隅で小鳥のさえずりにじっと耳を澄ます兄弟の一生。図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて歩く老人、文鳥の耳飾りの少女との出会い。やさしく切ない、著者の会心作。

主人公は小鳥のおじさん。幼稚園の鳥小屋のお世話をしていたから、小鳥のおじさんと呼ばれていた。
小鳥のおじさんがまだ小さかった頃、ある日突然、おじさんのお兄さんがポーポー語を話すようになった。このポーポー語は、お兄さんが作り出した言葉で、小鳥と語らうためのものだったため、まわりの人たちは彼が何を話しているのか理解することができなかった。しかし、何故かおじさんだけはポーポー語を理解することができた。やがて、母が病気で亡くなったあと、父は事故死(自殺?)し、兄弟は2人だけとなる。2人の心を慰めるのは、小鳥の歌声だけだった。
兄弟は心優しく、ただ自分達の箱庭の中でつつましく暮らしていただけ。だけど、「その多大勢」に馴染めない存在が、一般社会とつながることはとても大変なこと。そのすれ違いが寂しく、何度もやるせない気持ちになりました。兄弟はとても優しい人たちだと思うけど、もし、自分がその場にいて何か手をさしのべることができただろうか、といえば、何もできなかったのではないかと思います。
お兄さんが、薬局の店主に想いをよせ、小鳥のおじさんが図書館の司書に心を開きかけるけれど、どちらの想いも届くことはなかった。かわいそうだと同情こそするけれど、彼女たちにとって彼らは特別な存在ではなくて、だから好意を寄せられても、どうしたらいいのかわからなかったのかな。司書さんは、きっとお友達みたいな感覚だったんでしょうね。年も離れてるし。
お兄さんも亡くなり1人になった小鳥のおじさん。お兄さんの好きだった鳥小屋の掃除をしながら、やはり静かにくらしていたが、晩年、おじさんは幼女連れ去り事件の容疑者として疑われます。近所の人から「ことり(子盗り)」と陰口をささやかれる日々。おじさんは、決してそんなことをする人ではないけど、付き合いのない他人から見れば、おじさんは変わり者で、よくわからない存在。不気味で、だからそういった噂が広まっちゃったんだなあ。
家の庭に落ちていたメジロのヒナを助けてから、少しずつ癒されるおじさんの心。メジロのケガも癒え、外へはなす日も近づいた頃、怪しい男が家を訪ねてきて、メジロをゆずって欲しいと頼まれる。メジロって法律で飼育できるのは一世帯に1羽(足環の装着が必要)と決められているそうです。メジロの鳴き声は美しく、鳴き合わせ会で優勝したメジロには数百万円の値がつくことも。そのため、より多くのメジロを手に入れたい業者は密猟を行っているそうです。(YOUTUBEで「鳥の密猟Gメン」という動画があります。)長年カゴで飼われた鳥は、突然放しても自然の中では生きていけず、木に慣れさせるリハビリが必要だそうです。・・・おじさんが放したメジロは大丈夫なのかな・・・。136羽も飼っている業者もいて、本当にひどかった!怒りがメラメラと・・・!鳥の翼は空を飛ぶためにあるもの。その鳥たちをカゴで飼うのなら、せめて本当に大事に愛情を持ってお世話してあげて欲しいです。
途中で何度も泣いてしまいました。おじさんの愛の歌は彼女には届かなかったけれど、メジロには届いたよ。きっとお兄さんにも届いたよ。


「明日の朝、籠を出よう。」

「空へ戻るんだ」


「七夜物語」

川上弘美/朝日新聞出版

小学校四年生のさよは、母親と二人暮らし。ある日、図書館で出会った『七夜物語』というふしぎな本にみちびかれ、同級生の仄田くんと夜の世界へ迷いこんでゆく。七つの夜をくぐりぬける二人の冒険の行く先は。

一応ジャンルは児童文学ですが、小学校の高学年くらいの子が読むといいんじゃないかなーという感触です。もちろん、児童文学が好きな大人も楽しめると思います。
夜の世界というイメージから、寝てる時に違う世界へ行くのかなあと思っていたら違いました。昼間に突然迷い込むけど、実際は時間が経ってないというパターン。
物語の主人公は、さよと仄田くん。小学校4年生。2人は同じクラスだったけど、特に仲良しというわけではない(むしろ仄田くんはクラスから浮いていた)。しかし、一緒に夜の世界の冒険をすることになり、協力するうちに相手のいい所も悪い所も知って、絆を深めてゆく。
一番最初の夜は、大ねずみのおばちゃん・グリクレルが登場。最初は、悪者?いじわる?と思っていたけど、いいねずみさんでした。自分のことは自分でやろう。お母さんをお手伝いしましょう!という冒険のイントロ。自分はお手伝いとかしない子だったので、仄田くんは普通じゃん!と思っていた。
二番目の夜は、誘惑の夜。霧の中を歩き続けて、不思議な家に辿りついた2人。その部屋のこたつは大層気持ちが良くて、猛烈な睡魔に襲われる。私はここでゲームオーバーになりそうです。笑。三番目と四番目の夜では、それぞれの内面と向き合うことになる。さよの若い頃の両親が出てきてチュッチュし始めた時は、「ど、どうした!?」と戸惑ってしまった。まあキスしてるだけなんですけど、なんていうか・・・ラブシーンだ!って感じで(←思春期か。笑)。五番目の夜では、学校を危機から救います。モノと生き物は違うのか?モノが動いて、生き物が動かなくなる世界だってありえるのではないか?このあたりちょっと中だるみでした。ウバの「ぼおおおっ」に何故か和む。
六番目の夜はパーティー。パーティーはファンタジーの醍醐味ですよね!ねずみも子供もモノたちも、架空の生き物も、みんなが同じものを食べて楽しくおしゃべりして。これが平和ってことなのかもしれない。そして最後の夜。楽しかった反動で、一番辛くてしんどい戦い。実は七夜物語の世界は、少しずつ歪んできていて、グリクレルにその歪みを直して欲しいと頼まれる。光と影の子供たちは言う。現実の世界と夜の世界は互いに影響し合っていて、こちらが歪んでいるのはお前達が変わったからだと。光と闇、善と悪、なんでもきれいに分かれているほうがいいに決まっている。どっちも受け入れるなんて、そんなのはおかしいと。絶対絶命のその時、遠くから聞こえてきたのは、口笛の命の歌だった。
今までのペアがそうだったように、さよと仄田くんの絆も、夜の世界の冒険が終わってもずっと続くと思っていた。だから、最後はちょっと寂しかったな。でも、その人を思い出すと優しい気持ちになれる、そういうつながりも素敵だなと思った。
酒井駒子さんの挿絵目当てで読んだようなもんですが、子供向けにありがちな友情、勇気、冒険!だけではない深いテーマが織り込まれていて、楽しめました。


「いいところも、へんなところも、まじりあってでこぼこで。」

「そういうものが、すてきなんだよ。」