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読書の記録です。

「道徳という名の少年」

桜庭一樹/角川書店

桜庭一樹のゴージャスな毒気とかなしい甘さにアーティスト野田仁美が共振してうまれた、極上のヴィジュアルストーリー集。

本の装丁がとても凝っていて、挿絵もたくさん。本の厚みは薄いので、絵本に近い感覚。しかし、内容は(絵も含めて)色っぽい香りがします・・・。
「1、2、3、悠久!」名前が1って・・・。2って・・・。3って・・・。今まで色々な名前を見ましたが、数字はないなあ。さすが、桜庭一樹は違うぜ・・・!町一番の美女が産み落とした、父親のわからない子供たち。3と悠久はやがて愛し合うようになり、3は悠久の子供を身ごもります。彼は道徳(ジャングリン)と名付けられる・・・。
「ジャングリン・パパの愛撫の手」ジャングリンは戦争に行き、両腕を失くします。その後、戦地から帰ってきて幼なじみの女子と結婚。夜、彼らが行う儀式とは・・・。「バターの夜」という表現がとても印象に残りました。ジャングリン・パパの目の色が黄色く濁り、とろとろと溶けてゆく。かさかさした腕を愛した女の子。変態的プレイには、正直気分が悪くなった。
「プラスチックの恋人」ジャングリンの子供、ジャングリーナの話。ジャングリーナは街を飛び出し、女装のロック歌手となり、大スターに。話の内容、思い出せない・・・。それくらい印象に残らなかった。
「ぼくの代わりに歌ってくれ」ジャングリーナの息子、ジャンは戦地で死ぬ。あまりにもあっけなくてびっくりした。ここで血族も終わり?
「地球で最後の日」実はスターの親戚であると教えられた少女は、スターの屋敷へ向かうが・・・。終わりと思ったら、親族がまだ残っていた。一番現代に近い話?若気の至りですねえ。
うーん、最近こんなんばっかだなー、と食傷気味です・・・。血の繋がりに、変態プレイはもういいので、前みたいに少女の話を読みたいなー。この路線が続いたら、桜庭さんの本は近いうちに読めなくなるだろうな。





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「猫を抱いて象と泳ぐ」

小川洋子/文藝春秋

伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…。大切な人にそっと囁きかけたくなる物語。

今年は小川イヤーにするって言ってたのに!私のウソツキ!せめて1年が終わる前に、あと1冊読まなければ!
「ダ・ヴィンチ」のプラチナ本にも選ばれていた作品です。ちょっと不思議な題名だと思っていましたが、読後は本当になんて素晴らしい題名なんだと思い、感動しました。これはオススメです。
小川さんの紡ぎだす言葉は、冷静で、ひんやりと冷たく、まるで女子シャワー室のタイルのような肌触りを持ちながら、それでいてやさしい物語を作り上げていくのです。
主人公は出生時、くっついた唇を剥離する手術を受け、その時移植した皮膚が足の皮膚だったため、唇から毛が生えている少年。少年がチェスを教わるのは、廃バスの中で暮らすたっぷりと太った元運転手のマスター。マスターの飼い猫、ポーン。後に少年の相棒となる鳩を肩にとまらせている少女・ミイラ。デパートの屋上で一生を終えた象のインディラ。
世界から少し、はみ出してしまった登場人物たち。でも、彼らには自分の居場所があって、そこで生きてゆくのだ。特に少年リトル・アリョーヒンの家族が温かくて、救われたような気持ちだった。お祖母ちゃんが本当にやさしい人。
これはチェスの物語で、もちろん対局や棋譜の話、対戦の様子が描かれているわけですが、私にはまったくわからない。笑。そもそも、私のボードゲーム暦っていったら、オセロに五目並べ・・・終わり。って感じなので。そんな私でも、なんだかよくわからないが、これはいい対戦なんだな!?という雰囲気は伝わってきました。夏に沖縄で青の洞窟に行ったのですが、海って静かで恐かった。表面を漂っていただけだけど、私は無力で力を入れれば入れるほど逆効果で。結局、私は手のかかるお客さんだったわけですが・・・(苦笑)。チェスを海にたとえるならば、私はリトル・アリョーヒンのように自由には泳げない。不安で心もとない気持ちでいっぱいになってしまいます。そして、溺れる。笑。
中でも、マスターとの対局と老婆令嬢との対局が好きです。老婆令嬢は、最後にあんなオチが来るとは思ってなかったんで・・・。めっちゃ、いいエピソードなんですけど、とにかく私は悲しかった。知りたくない結末だったなあ。知りたくない結末といえば、本書のエンディングも、あたたかではありますが、やはり私はとにかく悲しかった。思い出したら泣きそうです。
最後まで、彼はチェス盤の下でチェスを指し続けた。それは彼にとって何よりも幸せなことなのだろうけど。


「少年はデパートの屋上で、海を泳いでいた。水面は頭上はるかに遠く、海底はあまりに深く、水はしんと冷たいのに少しも怖くない。怖くないどころか、ゆったりとして身体中どこにも変な力が入っていない。ああ、自分は唇だけになっているのだ、と少年は気付く。」


「図書館戦争」

有川浩/アスキー・メディアワークス

正義の味方、図書館を駆ける!公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として『メディア良化法』が成立・施行された現代。超法規的検閲に対抗するため、立てよ図書館!狩られる本を、明日を守れ。

ぶーぶー言ってたら、星の廻りが良かったのか、親切な方から借りることができました。ラッキー。
話の途中までは、マンガで読んでいたので、あらすじはまあその通りでした。マンガは原作に忠実だったんだなあ・・・と感心したほど。「別冊~」では、登場人物がフィーチャーされている感じでしたが、本編はやはりと言うべきか当たり前と言うべきか、図書隊の戦いとかメディア良化法の影響やら真面目なテーマにウエイトが置かれていました。堂上と郁に関しても、まだまだぎこちない関係で、まだ郁は堂上が王子様だとは知る由もなく・・・。笑。なぜか好きになれなかった堂上が、意外に好きになれました。クマ殺し!たぶんラブに関しても、シリーズを通してじわじわと深まっていく過程を追っていったならば、「別冊~」でのノロケにもついていけたのかもしれないですね。読む順番って大切なんだなーと身に染みました。今頃・・・。
世界観が入念に作りこまれていて、有川さんはきっと図書館や司書業務について良く調べられたのだと思います。現実をきちんと下敷きにしてフィクションのルールがきちんと出来ている。それだけですごい!似た感じだと、こちらの世界では、東京都の「青少年育成条例」の「非実在青少年」なんかが記憶に新しいところです。結局アレどうなったんだろう。
「メディア良化法」も極端ではありますが、ありえなくはない話ですよねー。戦時中みたいな感覚かな。自分の読みたい本を読む。これが読書の喜びであり、そのような読書にこそ意味があると思います。だけど、子供が読む本に、大人がフィルターをかけてあげなきゃ、っていう気持ちもわかるんだよなあ・・・。私が子供だった頃とは、あきらかに過激の度合いが桁違いだと思うんですよ。バイオレンスにしろ、性描写にしろ。大人が読んでも眉をひそめるようなモンを、正しい知識が備わってない内に得てしまうのは確かに問題だよなーとも思うのです。だから、非常に難しい問題。有川さんが、どのように決着を着けるのか楽しみです。
図書隊が正義、メディア良化委員は悪、っていう明確なラインが無い展開がいいなと思ったり。メディア良化委員のやり方は卑怯で、その点は「悪役」っぽいですけど。なんでキミたち紳士じゃないんだ!
今後、確信できることがひとつ。私、小牧はどうしても好きになれないようです・・・。


「宵山万華鏡」

森見登美彦/集英社

祇園祭宵山の京都。熱気あふれる祭りの夜には、現実と妖しの世界が入り乱れ、気をつけないと「大切な人」を失ってしまう。様々な事情と思惑を抱え、人々は宵山へと迷い込んでいくが…!?

人ごみが苦手な私は大人になってから、自然とお祭りから足が遠のきました。お祭り前夜のどきどき、お祭り最高潮のわくわく、お祭りが終わった後のさみしさ。しばらく触れていなかったお祭り気分を一通り味わえた一冊でした。
「宵山姉妹」姉妹がお祭りではぐれ、妹がこの世ならざるものに、かどかわされそうになったが危機一髪でお姉ちゃんが助けたぞ。やる時はやるぞお姉ちゃん!という姉妹愛の物語。ですが、実は色々な話の伏線になっています。私は妹寄りな性格なので、お姉ちゃんのフリーダムな振る舞いが非常にうらやましかったです。
「宵山金魚」藤田さんが、宵山の夜に不思議な体験をする。孫太郎虫とか、超金魚とか、「夜は短し歩けよ乙女」を彷彿とさせる、めくるめくこの世ではないかのような世界。このままでもおもしろかったのですが、次の章でおもしろさ2倍に。うまいなあ、森見さん。
「宵山劇場」前の章の種明かし編。あの、不思議な世界は、実は壮大なドッキリだったというオチ。ゲリラ演劇「偏屈王」を手がけた小長井と山田川が活躍していて嬉しかったなー。とにかくみんなが楽しそうで、一番好きなお話です。孫太郎虫は創作かあ。良かったあ・・・。
「宵山回廊」宵山の夜は心が騒ぐ。私の従姉妹は宵山の夜に失踪した。あれから何年後かの祇園祭前夜、叔父は私に別れを告げた。雰囲気は一変し、物語は「きつねのはなし」のようなしっとりとした雰囲気をまといます。叔父さんは、宵山に娘を見つけたと思っているけれど、実はこの世ならざるものに連れていかれたのかもしれない。
「宵山迷宮」前章の柳さん視点の物語。同じ日を繰り返す、という話は結構あるので、目新しさは無かったかなと。万華鏡は果たしてお祭りアイテムなのか、という疑問が。やっぱり、儚く寂しい気持ちになるお話。私は森見さんのコミカルな描写が好きなので、この2話は好みでなかった。
「宵山万華鏡」1話のフリーダムお姉やんサイドのお話。視点が違うだけで、話自体は流れがほぼ一緒だったので物足りなかった。しかし、もし手を離すとどうなるか答が提示された後にもう一度読むと、お姉ちゃんグッジョブ!という気持ちが一層強くなった。素晴らしき姉妹愛。
ちなみにカバー絵&扉絵が野生時代で連載していた「本日は大安なり(辻村深月)」の扉絵と同じ人が描いてるのでは・・・。と思ったのですが、雑誌捨てちゃったので確認がとれず。ステキな装画です。


「扉守」

光原百合/文藝春秋

瀬戸の海と山に囲まれた懐かしいまち・潮ノ道にはちいさな奇跡があふれている。こころ優しい人間たちとやんちゃな客人が大活躍。

久々の光原作品。目立つ作風ではないのですが、なんともいえない味があって、時々読みたくなるのです。
尾道をモデルにした架空の街・湖ノ道を舞台にしています。「てっぱん」を見ているため、すぐに分かりました。「がんぼたれ」で。
「帰去来の井戸」まだ舞台のイメージを掴めていなかったのですが、幻想的で優しいお話でした。魂になっても戻ってくる、そんな故郷を持てることって幸せだなあと思います。
「天の音、地の声」青空劇場っていうのがおもしろい。ただ、劇自体の雰囲気や描写は恩田さんの方が一枚上手ですな。
「扉守」「セルベル」の店主も良いのですが、一番は犬が、犬のストラップがかわいい!このあたりから、「あ、ファンタジーなんだな」と認識した(遅い)。
「桜絵師」なので、絵の中に入っていっても驚かなかった。笑。美しい、の一言に尽きる作品。
「写想家」怨念を念写。おネエ言葉といえば、最近武田鉄也のオカマ役を見てから、彼を「鉄子さん」と呼ぶようになった。金八先生と鉄子ママ、定着して嬉しいのはどっちなんだろ・・・。それはさておいて、身にしみる話でした。既婚女性が、独身女性に「自由でいいね」とか「うらやましい」とか言うのはタブーです。好きで独身やってるアラサーやアラフォーはなかなかいないからねー。主婦は大変。でも独身も結構大変なんだよ。
「旅の編み人」編み物がパタパタ飛んでいく様子がなんとも和みます。これまで、何度編み物にチャレンジして挫折したことか・・・。肩こりとかないんかしら。編み物ができる女子、うらやましいー。手作りは重いものですが、中でもお菓子と編み物は重さダントツだと思います。編み物って、怨念こもりやすそうですよね。ひと編み、ひと編み・・・うふふ・・・。
「ピアニシモより小さな祈り」ピアノな話。てっきり静音と神崎の間にラブが芽生えるかと思ったのですが、さらりとスルー。いや、私だったら、こんな王子さまと連弾したらだな、ロマンスの一つや二つ期待しちゃうのに!っていう話じゃないですからね。はい。すいません。いい話でした。