忍者ブログ
読書の記録です。

「霧の塔の殺人」

大村友貴美/角川書店

岩手県・雲上峠展望台のベンチに置かれていた生首。地元の名士を残忍な手口で殺害したのは誰か?次の殺害予告は、岩手県選出の国会議員にまで及ぶ劇場型殺人へ発展。全国に厳戒態勢が広がる中、事件は思わぬ方向へ・・・。

知らない間に、デビュー作から2冊も出されていたんですね~。「死墓島の殺人」は無かったので、1作とばして、3作目から読んでみることにしました。デビュー作から、藤田刑事シリーズという名目らしいのですが、「首挽村」での藤田さんを全く覚えておりません。兄貴と熊は覚えているのに・・・。今回も、藤田さんが何したってわけでもなく、新聞記者が主役でもいいんでないかぐらいの存在感の無さ。
藤田刑事の勤務先の事情から、今回も岩手県を舞台にしています。岩手をベースにした推理モノってあんまり見ないので、隙間産業と言えるかもしれないですねえ。需要があるかどうかは別として。
本編は残念ながら、イマイチの読後感でした。ミステリー部分は無難で、あまり文句は無いのですが・・・。犯人の意外性にこだわるのは、悪くはないですよ。今回の犯人に異存はないです。ただ、「首挽村~」でもごちゃごちゃした印象を受けましたが、今回も複数の事件に複数の犯人が登場し、複数の視点で物語が進むものだから、さらにごちゃっと感がありましたねえ。もっとスマートに関連性を持たせてまとめられなかったのかしら。爆弾騒ぎも冗長な印象しか無かったなー。
社会問題を織り込んだのがさらにマイナスポイント。不況による就職難、若者の地方離れ、ひきこもりなど・・・。特に、ヒロイン(?)役の女性も東京での生活に限界を感じて、一時的に帰郷しているという設定から、就職難が強調されていたような。人間がこれだけたくさんいれば、勝ち負けは必ず出てきますし、ミステリーでそれを真面目に登場人物が論じても、興ざめ。なんかもうそれ、みんなわかってるしー。ここでつっこんでも仕方ない話だしー。という感じです。成一が猟銃ぶっぱなして火をつけたのは、時代のせいでも親のせいでもなく、彼が弱かったからですよ。全部自分のせいですよ、そんなもん。
新聞記者のロマンスなんかどうでもいいし。っていうか、第2章が「一方井の恋」なんですが、これも意味不明。一目ボレか?顔が良けりゃそれでいいのか?人間の心の機微を描けていないですよね。これ以外にも、小清水がどうして無茶をしたのか、何を考えて行動していたのかも良くわからないし。藤田刑事の上司、田代にいたっては、優秀優秀と書いておきながら、ただの煮え切らないおじさんでは・・・?
このシリーズ、一旦リセットした方が良いかもしれんですねえ。


PR

「モダンタイムス」

伊坂幸太郎/講談社

渡辺拓海は、恐妻家の29歳・システムエンジニア。ある日、会社の先輩・五反田正臣が失踪する。どうやら、彼の関わっていた仕事のプログラムの解析に関係があるようだ。解析を進めていくうちに、あるキーワードにたどり着く。

「魔王」から何十年か経った世界。徴兵制が定められ、ちょっとだけ文明も進んでいる。魔王・・・。後半の話を気に入ったのは覚えているのだが・・・。はっきりした記憶が無いんだよ、セニョリータ!という私でもそこそこ楽しめました。
週刊モーニングで連載されていたとあって、章ごとの盛り上げ方とオチの落とし方がステキでした。臨場感がある。登場人物たちも、伊坂作品らしい、ちょっとシニカルで根はいい人みたいな方たちでした。(佳代子を除いて。)サイバーテロっぽい話で、情報化社会は恐いよーという話かなあと思ったりしました。確かに、事件の真相は情報操作にあるのですが、それだけではなく、やっぱりシュールな中に熱いものがあるんだなあ。愛だったり、信頼だったり。
主人公の周りの人間が死んでゆくところはミステリー的流れでした。中学校の事件と、超能力がどうからむのか。伊坂好太郎の小説から見えてくるものとは!?どきどきしますよー。私達が情報を受け取るときには、すでにそれはもう加工されたものであってもおかしくないんだなあと思った。物事を多角的に見るには、発想の転換が必要であって。頭が柔らかくないと!ネットで検索、って日常的にしていることなので、その検索のキーワードを誰かに監視されているなんて、あんまり考えたことなかった。そう考えると、検索も恐い。恐いが、一番手っ取り早いのも事実。
仕事って、仕事だからって割り切れるから、できるところがあって、それを逆手にとったからくりだったんだなあと思います。仕事だから、自分のすることだけしておけばいい、一体これがどこからきて、最終的にどうなるのかなんて、考えたって仕方ない。そうなったらあかんってことですよね。想像力を忘れるな、ってところでしょうか。
ところで、最強妻・佳代子さんは一体何者なんだろう・・・。


「でもね、それは言い訳なんだって」

「仕事だから仕方がなくてやりました、なんてね言い訳にすぎないの」


「ガリレオの苦悩」

東野圭吾/文藝春秋

湯川の頭脳に挑戦してくる犯人たち。科学を殺人の道具に使う人間は許さない、絶対に。

確か「聖女の救済」と同時に刊行されたガリレオシリーズ。こちらは短編集。内海刑事が、あまりにも鋭いせいか、草薙刑事の駄目っぷりが目立つ目立つ。ワトソンっぷりが板についてきました。それでいいのか?
「落下る」内海刑事と湯川先生の初顔合わせ。湯川先生が、もう捜査に協力しないことにしたのは、「容疑者xの献身」の件があったから・・・でいいのだろうか。鍋のふたは、苦しいか・・・?
「操縦る」メタルの魔術師の粋な心遣いが素晴らしい!ろくでもない息子が、本当にろくでもないことしかしていなくて、同情できない・・・。わかりやすくて、これはこれで良いのですが。変形する金属は、がんばればなんとかなりそうだ!
「密室る」うーーーーん、ホログラムは!それはちょっと!被害者はやはりろくでもない男で、以下略。
「指標す」ダウジングは無意識に手もとに意識が反映されるため、当てにならないって話を聞いたことがあったっけ。それにしても、付き合っちゃえば良かったのに!もったいない・・・。
「撹乱す」これも、またすごい装置が登場したなあ。逆恨み・・・。最後のいじけた湯川先生がかわいい。意外に、湯川先生は内海刑事のことが気に入ってるんですねー。今後の展開を、恋愛描写は淡白な東野さんが、どう書いていかれるのかも気になります。


「イノセント・ゲリラの祝祭」

海堂尊/宝島社

今回の舞台は厚生労働省。なんと、窓際医師の田口が、ロジカルモンスター白鳥の本丸・医療事故調査委員会に殴り込み!?グズグズな医療行政を田口・白鳥コンビは変えることができるのか・・・。

日本は医療後進国である!という海堂さんの雄たけびが聞こえてきそうです。
映像化されている田口&白鳥シリーズも、この本を映画化するのは難しいのではないかと思いました。私は、このシリーズを一応ミステリーと位置づけているのですが、今回は乱暴にまとめると、エーアイを巡る会議の話で、それ以外何も起こらないという・・・。まさに、海堂さんの持論を延々読んでいるような心持ちでした。以前から「死因不明社会」を執筆されるなど、死亡時画像診断の普及に努めていらっしゃるなあと感じていたのですが・・・。それにしても、舞台がほとんど会議室とは・・・。
「医療事故調・創設検討会」なるものの委員になってしまった田口先生。様々な思惑が入り乱れる会議室をどう生き残っていくのか!?官僚VS医者の構図になってます。医療の実際を知らない官僚さんたちが、予算や制度なんかを決めていくことは、確かに良くないと思う。でも、根本的に政治を行っているのは厚生省なのだから、極論だけど医療庁を立ち上げたりしない限りは劇的に何かが変わるということは無いと思う。・・・というか、どうでもいいとまでは言わないけれど、今、私がこれを読んでも「何か大変なんだなあ」くらいしか感じないですよ。遠い世界ですから。
主張を織り込まれるのは大いに結構ですし、こちらも勉強になりますが、エンターテイメントとしての本を書かれるのであれば、ちょっと配分を変えて頂きたいなあと思いました。それとも、最早エンターテイメントでもミステリでもないところに向かおうとしているのでしょうか・・・。
姫宮って、優秀だったのかー!


「ふちなしのかがみ」

辻村深月/角川書店

ひややかな恐怖が胸に迫る、現代の怪談。おまじないや占い、だれもが知っていた「花子さん」。夢中で話した「学校の七不思議」、おそるおそる試した「コックリさん」。その向こう側は、決して覗いてはいけない・・・。

辻村流怪談。
「踊り場の花子」。一番怪談らしい怪談。普通、花子さんはトイレに出没するものだが、この学校では怪談の踊り場に現れるらしい。だんだんと普通じゃない空気が漂ってくる流れが良い。モロゾフの箱の件に気づいた所が好きだなあ。また、学校の怪談特有の根拠の無いルールがリアリティがある。結局、彼女は花子さんだったということで、いいんだよね・・・・?
「ブランコをこぐ足」。こっくりさん、ありましたねー。最後は理解に苦しむ終わり方でしたが、結局のところ、想像で終わるか、実際に行動に移すか、という話?だと思ったんですが。度胸試し?それにしても、学校の人間関係って、複雑で子供の方が大変だなあ。
「おとうさん、したいがあるよ」。どうしても、「死体があるよ」を「したい(ことが)アルヨ」の片言日本語で脳内変換して読んでしまいます・・・。なんで?死体は想像の産物なのか、みんなの演技がうまいのか。どっち?
「ふちなしのかがみ」。そんなことだろうとは思ったが!複雑な家庭の事情の犠牲者は、いつも子供なのです。かがみといえば、「むらさきかがみ」ってあったよなー。ほら、20歳の誕生日に思い出すと死ぬという。思い出したらどうしようって心配していた若かりし頃が懐かしいぜ。
「八月の天変地異」。嘘にハラハラ!ゆうちゃんの正体が、セミではなく療養所の友達という落としどころがいい。とにかく、小学生の人間関係はどうしてこんなに複雑なのだ!確かに人気グループとかあったけど。あそこを抜けたら、あんなにアホらしい価値観ってないわって思う。この話が夏らしくて一番好きだなあ。怪談っぽくないんだけど。